第4話 公園での・・・
夕方の空が、薄紫から深い藍色に染まるころ。俺は時音と一緒に公園のベンチに腰掛けていた。周囲には他に誰もいなくて、静寂が包み込んでいる。虫の声がかすかに聞こえるくらいで、まるでこの公園が俺たちだけの世界になったみたいだった。
「……やっぱりここ、静かで落ち着くな」
俺は周りを見渡しながらつぶやいた。時音が隣で微笑んで、少し首を傾ける。
「そうだね。こういう時間、大好き」
その小さな声が、どこか温かく響いた。夕方に見せる彼女の真剣な表情も良かったけれど、今のようなリラックスした彼女の姿もまた魅力的だった。俺の横で、彼女は何か考え込むように空を見上げている。
「時音さ、未来から来たって言ってるけど、未来ってそんなに危険なのか?」
ふと、そんな質問が口をついて出た。彼女は一瞬驚いた顔をして、やがてゆっくりと頷いた。
「うん、そうなんだ。悠真くんがいるこの時代よりも、もっと複雑で……いろんなことが失われているの」
彼女の声には、どこか寂しさが混じっている。その表情に、俺は胸が締めつけられるような感覚を覚えた。未来に対して、彼女がどれだけ強い想いを抱いているのか、少しずつ伝わってくる。
「……俺の知ってる平和な世界じゃ、もうないってことか」
時音は小さく頷き、手を組んでその上に視線を落とした。その様子が、まるで過去を振り返るようで、何か切なさを感じさせた。
「でも、だからこそ私がいるんだよ。悠真くんを守るために、そして……」
彼女は言葉を詰まらせた。続きを言いかけて、口をつぐむ。その瞳に浮かんだ小さな光が、俺の心に静かに響く。
「そして?」
俺が続きを促すと、彼女は少し照れたように笑って、頬をかすかに赤く染めた。その姿がなんとも可愛らしくて、思わず見とれてしまう。
「そして……悠真くんと一緒に、この時代の未来を見てみたかったのかも。いろんな景色を、悠真くんと一緒に」
その言葉に、俺は驚いた。自分がその願いに入っていることが、妙に嬉しくて、でも照れくさくて、どう返事をすればいいのかわからなかった。思わず目をそらし、空を見上げた。
「……まあ、俺もさ、君がそんな風に思ってくれるのは、悪くないかもな」
そうつぶやくと、時音はにっこりと笑って、俺を見上げた。その瞳に浮かぶ優しさが、なんだか俺の胸に直接届くような気がした。
「ありがとう、悠真くん。未来の私も、きっと今の私と同じ気持ちだったと思う」
彼女がそう言ったとき、その言葉が胸にしみるような響きを持っているのを感じた。未来から来た彼女と、今目の前にいる彼女——その二つの存在がどこか重なって、彼女が本当に俺を大切に思っているんだと実感した。
そんな時、ふと彼女が立ち上がり、公園の芝生に一歩踏み出した。彼女の銀髪が夜風に揺れて、まるで月の光を纏っているかのように輝いて見える。その姿があまりに幻想的で、俺は思わず息を呑んだ。
「ねえ、悠真くん」
彼女がこちらを振り返り、小さく手を差し出す。その仕草が、なんとも言えないくらい可愛らしくて、俺は少し照れながらも、その手を取った。
「……どうしたんだよ、急に」
俺が照れくさそうに尋ねると、彼女は少し笑って、俺の手をぎゅっと握り返した。その小さな手の温もりが、まっすぐ心に伝わってくる。
「ありがとう。こうして悠真くんと一緒にいると、未来の心配が少しだけ薄れる気がするの」
時音の表情が、どこか安堵に包まれているようで、俺も自然と心が和んだ。彼女が感じている未来への不安と、それでもここにいる安心感——それが彼女の中で交差しているように見えた。
「そうか……俺も、君がそばにいてくれると不思議と落ち着くよ」
俺がそう言うと、時音はまた嬉しそうに笑った。その笑顔に、俺もつられて少し微笑む。二人で過ごすこの時間が、どれだけ貴重なものか、今になって少しずつ実感している。
ふと、時音が手を離し、ゆっくりとベンチに腰掛けた。俺も隣に座り、彼女と並んで夜空を見上げる。満天の星が輝いていて、まるで未来からのメッセージが夜空に刻まれているような気がした。
「ねえ、悠真くん。私、未来での自分がずっとこの時間を待っていた気がするの」
時音がぽつりとつぶやく。その言葉がどこか遠くから届いたように響いた。
「待っていた?」
俺が問いかけると、彼女は頷き、少しだけ寂しげに笑った。
「うん、未来の世界にはね、こうして穏やかに星を見上げる時間が少なくなってきているんだ。だから、こうやって君と一緒にいる今の時間が、とても貴重に感じるの」
その言葉に、俺は少しだけ胸が締めつけられるのを感じた。時音が見つめている未来が、どれほど過酷なのか、彼女の言葉から少しだけ垣間見えた気がした。
「そうなんだな……じゃあ、俺が今こうして君と一緒にいることが、少しでも君の支えになるなら、それでいい」
俺の言葉に、時音はまた微笑み、小さく頷いた。その笑顔が、今まで以上に優しさを含んでいるように感じられた。
「ありがとう、悠真くん。君がそばにいてくれると、未来への不安も少し和らぐ気がする」
その言葉に、俺もまた微笑んだ。彼女と過ごすこの時間が、少しでも彼女の心を癒しているのなら、俺もここにいる意味があるのかもしれない。
夜の帳が完全に下り、公園の灯りがぼんやりと二人を照らしている。時音の銀髪が夜風に揺れ、彼女の瞳が月明かりにきらめいている。その美しさに見惚れてしまいそうになりながら、俺はふと尋ねた。
「時音……俺が本当に未来で君の恋人だったっていうのは、本当なのか?」
彼女は少し驚いたように目を見開き、やがて微笑んだ。
「それは、私が一番知ってることだよ」
そう言って、彼女は俺の手をもう一度取って、優しく握り締めた。その温もりが、未来と今をつなぐ架け橋のように感じられて、俺はなんとも言えない安堵を覚えた。
「そうか……だったら、これからも一緒にいよう。君が俺を守るっていうなら、俺も君を支えるからさ」
俺の言葉に、時音は深く頷き、もう一度笑顔を見せてくれた。その笑顔が、夜空に浮かぶ星よりも輝いているように見えた。
こうして俺たちは、静かな公園で互いの存在を確かめ合いながら、未来への不安をほんの少しだけ忘れて過ごした。
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