第6話 求人応募

 数日後、進学相談室よりも地味で目立たない所にある就職相談室前の廊下に求人票が張り出された。

 いよいよ志望企業を選ぶ時が来たが、十月一日から面接が始まるので、すぐに応募する流れだ。大卒の就職活動みたいに卒業の一、二年前から企業を回ったり、というようなことはない。こんな大事なことをすぐ決めないといけないことに呆気にとられる。

 見てみると、京都市内の企業ばかりだった。就職を機に京都を出て行きたいと思っていた僕は慌てて目を凝らし、求人票を一枚一枚見ていくが、本当に、京都の企業しかない。愕然とした。

 就職、やめとこうか、との考えが頭をよぎるが、気を取り直し、再び求人票を見直し、他府県に本社ないしは支社のある企業を探した。うまくいけばそっちへ配属または数年後転勤の可能性もあるのではないか。

 結果、東京支社もある山科の化粧品会社の一般事務職に応募してみることにした。


 マミコに伝えると「京都にいるんやな」とほっとしたような笑顔だった。

 東京勤務を希望するつもり、とは、マミコの嬉しそうな顔を見て、言えなくなった。こんなにも近くにいることを願ってくれるのか。マミコへの愛着と京都への嫌悪感を比べると、今までは、京都への嫌悪感、親の家からの湧き出るような独立欲求の方が強かった。応募先を知らせた時のマミコの顔を見て、初めてそのバランスが崩れそうになった。

 実際のところ、今回の募集は山科本社での事務職、と求人票に明記されているので、東京へ行ける可能性はとても低い。それに、そもそも新卒の採用枠は一人だけらしく、採用される可能性自体が低いように思う。




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