初めてのスパーリング
リングに上がった萩原君を見ながら、どのような内容になるのかを考えていた。
彼の特技である間合い管理が空手でなくボクシングでどのくらい通用するのか。
そして鈍っていないかを確認したかったのだ。
対戦相手はプロボクサーでA級ライセンス持ちであるので、業界では少し有名と言ったところだ。
そう思いながら萩原君の背中を見ているとゴングが鳴り響く。
初めての萩原君のスパーリングは、私の予想を超える展開で幕を引いた。
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俺は相手の目を見た、明らかに何か狙っていた。
開始のゴングが鳴った。
礼儀作法なのかお互い手を伸ばして挨拶した……これも予習済みだ。
いきなりの大振りの右ストレートが来たので、首と身体を少し右に逸らして回避した。
空手も痛いから好きじゃないので幼いころから回避したり捌いてばかりいたら、相手がどこを狙っているのか分かるようになった。
これは長年の経験でもあり、俺の実家が有名な空手道場ということもあり子供から大人まで幅広く相手がいたから身に着けれたと思っている。
つまり、今相手が狙っている左フックのボディは半歩前に詰めて、相手の左フックに勢いが乗る前に俺の右拳で弾けば攻撃が当たることはないのだ。
正直すぐに倒してもいいのだが、これは試験的な物だから俺の実力を爺さんに見せなければいけない。
決して舐めプではないのだから…そんなに怒らないでよ。
そろそろ1ラウンド3分が終わる頃なので、反撃しようかなと思った。
怒りの余りか最初以上に大振りの右ストレートに合わせて、右アッパーからの左フックを打った。
腕だけでなく足の踏み込みによる勢いもあるのだから、起き上がるのは不可能だな。
見るからに軽量級なのとグローブをしてるからか威力の無い攻撃だなと思った。
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萩原君は私の予想を大きく超えてきた。
ボクシングでも回避する技術は十分やれるだろうと踏んでいたが、まさか全てクリーンヒットすらしないとは……。
相手はスピード重視のボクサーでA級でも強い方で、このボクシングジムの主力だったのだがな。
そして最後の右と左のパンチ。
どちらも威力に差がなかった、人には利き腕があるので威力に差が出るのだが。
彼は両利きなのだろうか、聞きたいことが山ほどあった。
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「お疲れ様、これ水だが飲むかい?」
爺さんが紙コップに入った水を俺に渡してきた。
「ありがとうございます。頂きます」
水を飲みながら俺の身体をジロジロと見てきた。
なんか少しムズムズするな……。
「それで対戦相手はどうだった?」
「別に……普通の相手じゃないんですか?」
テレビに出てくるプロボクサーと比べると明らかに劣ってはいたからだ。
「彼は、プロのA級ボクサーだよ」
この爺さん素人の俺にプロを当てていたのか……性格悪いなぁ。
でも階級があるとはいえプロって意外とピンキリなのかもしれないなと思った。
「それと、私はこれから萩原君を指導していきたいと思うのだが、受けてくれるだろうか?」
どうやら爺さんのお眼鏡に適ったようだ。
手応えはあったのが一安心だ。
「えぇこちらこそお願いします」
俺と爺さんは握手して、本日の練習について話した。
「私は萩原の基礎能力や技の精度を全く知らない。今日はそこを徹底的に確認していく」
「分かりました」
ワンツーなどの基本的なボクシングの動きの確認をするとのことだった。
空手でもワンツーくらいはあるし、ボクシングの予習をしていたので難なくこなした。
まさかの爺さんが自転車に乗って、俺とロードワークするとは思わなかったが……。
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