初めてのボクシング

夜になると白石さんからラインが来た。


内容はこの前のテレビのトレーナーが俺を一度見てくれるそうで、素質があるなら、指導してもいいと言うのだ。


日曜日に一度門前払いされたボクシングジムで会うことになった。


今日は金曜日なので明日はトレーニングは程々にして、日曜日に備えようと思った。


「いやぁ白石さんは、やっぱり俺の神様だな。困っていたことが、あっさり解決されるんだから」


俺の中での白石さんが益々大きくなっているのが分かった。


「あ……そろそろ期末試験あるな。特別成績は悪くないけど、勉強するって決めたからやるか」


白石さんに釣り合う男になるために、少しくらい学力高い男になりたいからな。


****


河野トレーナーに誘われた日曜日、俺は例のボクシングジムに訪れた。


初めて入る場所って少し緊張するので、ジムの前で立ち尽くしていたが、俺の価値を示すためだと思い覚悟を決めて入った。


「こんにちは~」


日曜日だからか多くのボクサーがいて、一斉に俺の方へと視線を向けた。


その中からスーツを着た爺さんが出てきた。なんか凄く紳士風な感じだなといった見た目であり、還暦のはずだが筋肉もあり若々しい見た目であった。


「やぁ、君が萩原祐樹君だね。私は河野武史だ。長い事ボクシングのトレーナーをしている者だ」


「初めまして、萩原祐樹です。えぇ、テレビで見たのである程度知っています」


「早速で悪いが、君には彼とスパーリングをして貰おうと思っている」


爺さんは、指でアップしている少し身長低めな青年を差した。


「最初からそのつもりでしたから問題ないですよ」


「分かった。なら準備をしようか」


そう言ってバンテージを俺の拳と手首に巻いてグローブとヘッドギアを付けさせた。


慣れているのか手際がいいなと思った。


爺さんは確認のためか俺に尋ねた。


「そういえば、萩原君ボクシングのルールは、ちゃんと理解してるよね?」


俺が初心者という事を知っているための質問だろう。


流石に俺もルールくらいは頭に入っている。


「大丈夫ですよ。基本的なルールは分かっていますよ」


「なら、問題ないな。では、始めようか」


爺さんが俺の背を軽く叩いたので、リングの上に上がった。


初めてのリングだが、意外と狭いんだなと言った感想だった。


大物トレーナーが直々に来て対戦させるのだからか、凄く注目されておりリングの周りには殆どのボクサーがいた。


対戦相手もやる気に満ち溢れた表情をしており、時折俺ではなく爺さんの方を向いているので、ここで自分の実力を見せつけてトレーナーになって貰おうと画策しているのだろう。

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