ストライク・ドリーマー ― 愛機の機動兵器がバ美肉して言いなりにしてほしいと言ってきたんだが ―

夢咲蕾花

第1話 ストライク・ドリーマー

 気に食わないクソッタレの頭をぶち抜く。そのクソッタレの中には自分もいて、だから復讐を終えたらその果てに、自分の頭の中身をぶちまける。

 復讐をしてもしなくても、愛する人は帰ってこない。なら、した方がスッキリする。だから、自分も殺す。彼女を孤独にしたのは、他ならない私だからだ。

 死してなお夢に抑留される人間の意識は、いつかくる夢の終わりまで、夢見心地でただ夢幻の世界を揺蕩う。

 だが、時にその夢幻の世界が現実に蚕食し、蝕むことも、また――。


×


 稀代の天才脳科学者、ウォーレン・D・ストーンエッジは『ドロームエナジーDE可能性P×夢の記憶の質量M×光の速度の二乗c^2』がドロームエナジー量を示す方程式であるという発表をしたのち、研究に没頭したかと思えばある日を境にその行方をくらませた。

 なぜ姿を消したのか、どこへ行ったのかは不明である。一説には愛する妻の死で精神を病んだとか、そのために娘を残して後追い自殺をしたとか言われている。世紀の天才も、愛するものの喪失には耐えられなかったというわけだ。


 ともあれ世界はその発表をもとに様々な技術開発を行い、軌道上を走るオービタルロードの建設や軌道エレベーター、宇宙コロニーや赤と青の二つの月の月面開発を行なった。

 その心臓部として機能するのがドロームリアクターと呼ばれる、ドロームエナジーを取り出す機械だった。

 エナジーを生むのは、夢が結晶したと言われる鉱物資源たるドロームライトである。それを精製したコアを特殊なフレームで包み込み、夢の記憶の質量の具現とも言われる力場である、一定の「夢場むば」を与えることでエナジーを取り出すのだ。


 自動車もリニアも、航空機も、家電もこれで動く。リアクターの管理運用はそれぞれの事業が執り行い、経済の一躍を担っていた。


 さて、夢とは人間だけが見るものではないとされる。犬が夢の中で走っていて、その拍子に現実の肉体も動いて走り出し、壁に当たって目を覚ますなんて動画はお笑いムービーとして有名だ。よく、テレビでも特集を組まれて朝野を沸かせている定番のネタである。

 ウォーレンはこのことから夢とは人間の特権ではないと結論づけた。意識、と呼べるものがあるのならば、それはもれなく夢を見るとしたのである。

 そうした夢が結晶したドロームライトもまた、夢を見る。それはウォーレン曰く「世界が見る夢」と言われていた。

 世界が見る奇妙な夢――美しい高原や山岳、中西風の都市に、神殿、あるいは現代的な廃墟もあれば、空中都市なんてのもある。往々にしてその夢には恐ろしい無人機械「レギオン」が巣食い、人を襲う。一説には、ともされているが、詳細は不明である。


 ただ、その夢の世界――ドロームランドから得られる資源は、世界が夢を見る限り無限大だ。つまるところ、そこから資源を取り出せれば食糧危機も資源枯渇からも解放されると言っていい。

 当然、大勢がドロームランドの探索に出かけ、そして、富を築いた。


 これはそんなドロームランド探索に夢と希望をかける者たちストライク・ドリーマーの物語。

 その戦いの、夢の記憶の一部である――。


×


「はぁ〜ロイに縛られて焦らされて酷いこと言われて弄ばれたい……」


 夢場の乱れが一定以上に達すると、ドロームランド発生の兆しとして認定される。夢場自体は生物が夢を見るときに観測されるものだが、それらとは比にならない乱れが生じるのだ。

 そう言った場では奇妙な現象――ポルターガイストや幻視などが見られ、周囲の人間の夢にも大きく影響が出る。つまりは日常生活に支障が出るものだ。重力の異常や自然環境の乱れなどが発生し、その特定の夢場空間は夢幻管理局の管轄下に置かれ、立ち入りを制限される。

 対ドロームランド用に調整された機動兵器ストライカー・ギアと、訓練されたストライク・ドリーマーでなければ立ち入りは困難であり、乱れた夢場空間はその調査が平定するまでは、何人の立ち入りも禁じられていた。


「散々焦らされて泣きそうな私を強く打ってわからせてほしい……」


 この「星見の渓谷」は二か月前に顕現したドロームランドであり、現在も資源の捜索が行われているが、そろそろ夢場収束に向かわせるべき時期が来ていた。

 というのもドロームランドが出現するのは他ならない現実世界であり、それが辺鄙な山の中ならまだいいが、たとえば今回のような都市のど真ん中となれば何かと弊害があるからだ。一般人の日常生活から都市機能の麻痺、経済の混乱を招く。ドロームランドは富と資源の具現であると同時に、どうしようもない天災でもあった。


「その末に屹立した逸物を見せ槍させられて、ああこれからめちゃくちゃにされるんだってわからされて……」


 探索社各社には最奥部にあるドロームコアの破壊を命じられ、それまでの資源採掘事業に見切りをつけているようだった。

 現在も大手中も大手、ウィリアムズ・フューチャーコーポのSGストライカー・ギアがバックパックを自社トレーラーに切り離し、一仕事を終えている。遠くから手を振る野次馬に、SGが銃を掲げて返事をした。売れるドリーマーはファンサービスも欠かさない。


「さっきからうるせえなお前は。なんなんだ」

「いえすみません、妄想が口からとめどなく。お仕置きを受ける覚悟はあります」

「悦ぶからしない」


 SGは十メートルから十五メートルの機動兵器である。多くは人型であるが、中には四脚や、タンクなんてのもあった。

 ロイが乗る〈グレンデル〉は中量逆関節二脚であり、そのフォルムは恐竜の足を取り付けた人型の機械であった。


「末社も末社ですねえ」

「それ、シントウって宗教の言葉らしいぞ。それにうちはうちで独立した本社だから、末社じゃないし」

「地球移民系の宗教でしたっけ。惑星間移民は制限厳しいですから、滅多に見ませんけど」


 ロイはモニターに表示される美しい黒髪の少女に話しかけた。青色のメッシュが二本走り、黒髪のインナーをバチバチの青色に決めている彼女は微笑む。


「どんな会社でも、ロイと一緒にいられるなら幸せです」

「……なあ、お前本当にSG AI

「はい、そうです」

「俺が、お前の中にいるんだよな」

「胎内回帰だなんて特殊性癖ですねロイ。私の中は居心地いいですか?」

「変な言葉を覚えるな」


 現在ロイはドリーマースーツ――俗にいうパイロットスーツを着込んで、フルフェイスのヘルメットをしていた。その下で、呆れた顔を隠そうともしない。

 ロイは愛機〈グレンデル〉の胸に抱かれていた。コクピット内には様々なコンソールや操縦桿、フットペダルをはじめとする操縦機器のほか、外部行動用の個人携行火器が入れられたケース、サバイバル道具が詰まったバックパックなんかがある。

 無論表示されているのはメインカメラやサブカメラが捕捉している映像であり、その中に一枚、なぜか美女がポップアップしていた。

 彼女こそ黒髪青メッシュ、青いインナーカラーのグレンであり、この〈グレンデル〉に宿る精神生命体だ。いうまでもないが、普通SGに精神生命体なんて宿らない。戦術補助AIはインストールされているが、それは高度な光ニューロAIではなく、単純なコンピューターのような計算と提案、判断を行う程度のもので、こんなに自然な会話はできない。


「なんだかよくわからんがバ美肉と言っておったぞ」


 半年前に死んだ祖父は、〈グレンデル〉の整備中にそんなことを宣った。うちはボケとは無縁の家系だと思っていただけにショックだったが、見習いエンジニアとして緊急脱出装置のメンテをするためコクピットに上がったら、勝手にモニターが立ち上がって、そこに映る美女――グレンが言ったのだ。


「私に乗ってください。私と戦ってください」――と。


 祖父はその話をたまげたと言いつつ一人笑い転げ、次の日にはバーチャル訓練施設の使用許可を取り付けてきてしまったのだ。昔から善は急げ、というのが祖父の座右の銘であり、頑固者でもあった。となればロイにはもうどうにもならず、訓練に励み、その二ヶ月後に隠しに隠していた末期がんにやられた祖父を見送って、やはり訓練に励み、祖父が遺してくれた〈グレンデル〉を相続し、正式な操縦者として登録した。

 このアマミヤ探索社に就職したのは一ヶ月前。実戦はこれで三度目だ。


「ロイ、聞こえる?」

「はい社長。ウィリアムズ社のSGが今出てきました。次ですよね」

「そうよ。私たちはあくまで露払いだけど、スコアを稼いで次の仕事に繋げるわよ。いいわね」

「はいよ。だそうだ、グレン」

「任せてくださいよ、私とロイの愛の共同作業をお見せしましょう!」

「……機械姦? サイズフェチっていうの? デカい機械に犯されるのが好きなのね、ど変態」

「ちょっ、ちょっと待った、なんでそうなる――社長!」

「馬鹿!」


 不愉快そうな顔をした若い女社長がそう言って、通話を切った。

 ロイは恨みがましくもグレンを見るが、彼女は悪びれた様子がない。ところでグレンにもボディがあり、彼女はロイのタンデムシートに乗っていた。というのも、精神生命体であるなら情報化してアンドロイド用の義体に移せるのではないかと祖父は考えたらしいのだ。

 実際それは上手くいき、〈グレンデル〉は現行機で唯一のタンデム操縦機として機能していた。もっとも、アンドロイドのボディはぐったりしていてコードで繋がっているだけだ。機体を降りる時に、「リアル受肉」したグレンが出てくるだけである。

 超高性能な知能が戦闘を補助するSG――それだけでも、現行機にはない圧倒的な優位性だ。おまけに祖父がブラックボックスと言っている特殊なドロームリアクターの出力……これは、異質とも言えた。

〈グレンデル〉のリアクターには、むらっ気があるのだ。通常、一定規格の出力であるはずのリアクターがだ。まるで、操縦者ドライバーの意志を汲み取るように。


 自分だけの機体ワンオフ。その代わり、基礎フレームに関わるようなカスタマイズはできない。この骨格部分の作りからして、根本的に違うらしい。


 と、COMからメッセージ。出撃準備の知らせだ。

 ロイは無言で最終チェック。グレンが読み上げていくチェックリストを潰していき、ドロームリアクターの圧力、温度、夢場状態が適正であることを確認。


「〈グレンデル〉、出撃する」


 ロイがそう言って、〈グレンデル〉のメインブースターとサブブースターが点火。歪んだ空間――夢場に突っ込んでいく。

 歪んだそれに触れた瞬間、モニターに映る光景が極彩色のウェーブに染まった。

 世界が見る夢――それは、この世界が一度滅びる前に存在した環境を再現している場合もあれば、現代的な都市だったり、未来的な廃墟だったりする。

 星見の渓谷は夜空が広がる渓谷地帯であり、当初はレギオンが多数存在したが現在は減少。おそらくは、そもそもの夢場が縮小傾向にあるためだと推測されている。自然消滅を待つかこちらから消滅させるか、正直そこに大きな時間的違いはない。放っておいても二、三ヶ月で消失しただろう。多分、市民団体からうるさく言われた地元管理局支部が重い腰をあげただけだ。


 極彩色のウェーブが途切れ、〈グレンデル〉は空中に投げ出された。「ポータル」は空中に開いているらしい。

 素早くグレンが姿勢制御して機体を正し、ロイはスキャニングで周囲を走査。レギオンの対空砲火は認められない。


「着地の衝撃に備えて!」


〈グレンデル〉の両足が、岩盤に食い込んだ。制動用のパイルが打ち込まれ、耳障りな轟音を立てる。逆関節の中量二脚がたわみ、ブースト機動を終えた排気熱が噴き出した。

 ロイはひとまず深呼吸。


「空中で撃墜されなくて良かったよ」

「洒落にもなりませんからね。そうも言ってられないみたいですが」

「さっそくか。せっかちだな」


 岩陰から姿を現すのは、スパイダー型のレギオン。背負っているのは背部マウント式八八ミリ高速ライフル砲と、鋏角めいた重機関銃が二門。それが、三体。

〈グレンデル〉が動く。右手に握るヘビーマシンガンを撃ち、牽制しつつマルチロックしたミサイルを発射。三体それぞれ二発のミサイルが誘導され、直撃した。


「NFW装甲……くそ、昔のレギオンは持ってなかったって話だろ! 前回も持ってたぞ!」

「敵も進化してるんですよ。ここ最近のレギオンは、こちらのNFW装甲も削ってきます。気をつけて」


 ミサイルの効きが悪い。ロイはアクセルペダルを踏み込み、アサルトブースト。重機関銃弾程度、同じくNFW装甲を持つSGには効きが悪い。

 多少の被弾は織り込み済みで、〈グレンデル〉の左腕に装着したパルスエナジーブレードを展開。青白いエネルギーがうなりをあげてスパイダーに振り下ろされ、装甲を溶断する。中枢の頭脳を切り砕き、返す刃でもう一体、頭部を切り飛ばして沈黙させた。

 残る一体が背部マウント砲をこちらに向けるが、ロイは素早くアサルトステップして砲撃を回避。高速ライフル弾が岩盤を吹っ飛ばす。瞬間的な加速と振り回されるような機動を生身で耐えることは事実上不可能だ。急激なGによる意識のブラックアウト、血圧の急上昇、あるいは血液の沸騰。

 ロイは強化適合手術を受けており、もう八割方生身とは言えない肉体になっていた。

 スパイダーが再び砲身をこちらに向けた。ロイはアクセルペダルを踏んでアサルトステップ、再び回避。そしてお返しに右肩に背負ったハイパワーランチャーを、撃発。スパイダーが派手に吹っ飛び、爆散した。


 粉々に砕け散ったレギオンたちを見て、ロイは周囲を索敵する。サブモニターの一つには「スパイダー:3」のスコア表示。雇い主からはスコアに応じたボーナスも出す、と言われている。

 今回ロイたちアマミヤ探索社が受けた依頼は、ドロームランドの核であるドロームコア破壊の援護である。つまるところ、邪魔をしてくるレギオンを撃滅せよというものだ。コアの破壊自体は依頼ではない。


「ここらにはいなさそうだな。もうちょいコアに近づいてみるか?」

「そうした方がいいでしょうね。なるべく近づいた方が敵も増えそうですし」

「マップ誘導頼む」

「了解です。進路上にレギオンが見られますが、おあつらえ向きですね」


〈グレンデル〉が機動。ブースト移動を行い滑るような移動で走り、コアに向かう。

 星見の渓谷はおよそ六〇〇平方キロメートルの面積を持ち、奥まった渓谷には水晶のようなドロームコアがあることが確認されている。

 レギオンはコアから生まれ落ちるため、彼らが現れる場所を辿っていけばそれだけでいい。


 渓谷の谷間に入ると、スパイダーが何機か点々と移動していた。こちらはまだ発見されていない。奇襲をかけるなら今だ。奥にはまだ、うじゃうじゃいる。

 ロイは渓谷に飛び降りつつハイパワーランチャーを撃発。早速一機、スパイダーを粉砕した。仲間の死に反応したスパイダーが素早く回頭し、重機関銃で牽制。


「ウェアポイント八〇〇〇。残り八割です」

「まだ充分耐えられる。ダメージコントロールは任せる」

「戦闘機動はお任せします」


 八八ミリ砲の被照準――ロイはアサルトステップして回避し、その背後にいたスパイダーが高速ライフル弾の直撃を浴びて爆散。

 接近しつつヘビーマシンガンを集中的に浴びせて一機破壊、重機関銃弾の被弾を確認し、ブレードを振るって群がるスパイダーを切り飛ばし、アサルトブーストで加速しつつ刺突を別の一機に捩じ込む。

 グレンの的確な補助とロイの卓越した戦闘センス。現行のSGを訓練から半年の青年が扱った程度ではこうはならない。〈グレンデル〉が持つスペックの高さが発揮されていた。


 スパイダーのスコアが加算されていき、10、15、そして20――最終的に43に達する。

 充填されたナノマテリアルの残量は三割。ヘビーマシンガンとミサイル、ハイパワーランチャーの弾薬の生成に使うその物質が尽きれば、実質弾切れだ。

 渓谷に立ち上る黒煙がもうもうと吹き上がり、ロイは荒い呼吸を繰り返した。


「大丈夫ですか?」

「ああ。ウェアポイントは」

「すでに三割。ナノエイドを使いますか?」

「頼む」


 機体の修復を行う専用のナノマテリアル――それがナノエイドだ。装甲をはじめ、機体各部の損傷を即座に修復し、ダメージ割合を数値化したウェアポイントが八〇〇〇まで回復する。


「そろそろウィリアムズのエースが戻ってくる頃だ。待機しよう」

「スパイダーも狩り尽くしましたしね。ところで、私たちでコアを壊したらって思いません?」

「契約違反は違約金を取られる。仮にも企業所属だから、安月給から違約金引かれるのはたまったもんじゃない」


 給料明細をもらったのはまだ一回だが、命懸けの仕事の割に安い報酬だとしか思えなかった。まあ、その分整備費用なんかも会社が持ってくれるので、独立傭兵よりはやりやすい。

 すると、一機、軽量機体のSGがやってきた。〈グレンデル〉の黒と青のツートンカラーとは違う、シアンブルーとホワイトのカラーリング。

 一瞥するように〈グレンデル〉を見遣って、すぐにコアの方へ飛んでいった。


「なんだよ」

「挨拶でしょう。夢場収束後、民家の中に排出されても困りますから我々は離脱しましょう」


 ドロームランドは崩壊すると、内部の構造物が全て消える。一度持ち出した資源は夢場の安定化をして現実世界に具現化せねばならず、ドロームランド内のものは現実世界に排出され、夢場の収束と同時にドロームランドそのものは完全に消え去る。

 SGが背負うバックパックにはすでに夢場安定化装置が組み込まれ、放り込んだものは即座に具現化される作りになっているため、さきほどのSGが持ち帰った資源が消えることはない。


 ロイは上空のポータルを睨み、加速。直後、激しい夢場の乱れが発生した。

 コアが破壊されたのだ。

 夢の終わり。世界の外殻から紫紺の粒子となって消えていき、時空が歪み始める。よしんばポータルが消滅しても出られないことはないが、妙な焦りを感じる。

 夢の中に閉じ込められるような――二度と、醒めない夢に囚われるような。


 やがて〈グレンデル〉がポータルに突っ込み、あの極彩色のウェーブに飲み込まれた。

 視界が開ける。管理局が設営したキャンプに着地した〈グレンデル〉は、テントに激突する寸前で止まった。


「はぁ……はぁ……」

「大丈夫ですか? 水分でもとったほうがいいかと」

「そうするよ」


 ロイはヘルメットの内側からグレンが伸ばしてきたチューブを加え、甘酸っぱい経口補水液を三口ほど飲んだ。

 やや遅れて、シアンブルーの軽量機が飛び出してくる。そいつは軽やかに空中で翻って、優雅に着地した。

 素人とエースは振る舞いからして違うのだと言うことを知らしめられ、ロイは知らず知らず舌打ちした。


「仕事は終わりだ。帰ろう」

「お疲れ様でした」


 グレンはそう言って、微笑んだ。タンデムシートにまたがる彼女の肉体が、優しく手を伸ばし、ロイのヘルメットの頬に触れた。

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