42 学校案内
「君たち、初日から遅刻だなんて....。今回は許しますけど、次は無いですよ」
「「「.....はい」」」
俺、ミル、そしてサトウの声が教室に響いた。王都に着いてから俺達は大きなハプニングに巻き込まれ、その結果待ち合わせの時間に大きく遅れてしまったのだ。
「それで、どうして遅れたんですか?」
「....先生、ちょっと前に街で騒動が起こってたの、知ってます?」
「知りませんね」
「多分噂になると思うんですけど、それに巻き込まれちゃったんですよ」
と、俺は先生に遅れた理由を話す。先生は騒動のことを知らないみたいだが、俺の口ぶりから一先ず納得してくれたようだ。
「....まあ時間も無いので、さっさと学校の説明をしましょうか」
そう言って、先生は
「改めて自己紹介します。僕は君たちの担任になるコージーといいます」
さっきまでの呆れたような顔ではなく、口元に微笑みを浮かべてそう言った。茶色い短髪の、メガネをかけた若手教師だ。どこか気だるそうな印象があり、目の下に溜まる隈からも日々の大変さが伝わってくる。
「まず初めに、これを君たちに渡します」
コージー先生が近くの机に、3冊の分厚い本を積み重ねた。
「これは.....魔導書...?」
分厚く高級感のあるそれは、神秘的な模様も相まってゲームや映画に出てくる魔導書を彷彿とさせた。
「はい、通称『ノクタブック』。この学校で過ごすにおいて必須のアイテムです」
「魔導書ぉ....?」
ミルの言葉を肯定した先生に、サトウが疑問の声を上げた。
「君は剣士でしたね、サトウくん」
「はい。俺は魔導書なんて使わないっすよ?」
ぶっきらぼうにそう言い放つサトウに、先生はにっと笑った。
そして腰のホルダーから、もう一つの本を取り出した。
「見てください」
そう言うと先生が持っていた本が淡く光り始めた。そして、ふわりと宙へと浮き上がった。
「おお......」
「これはただの魔法書じゃありません。『特別な魔法のかけられた魔法書』なんです」
確かに宙に浮いたのには感心したが、魔導書であれば普通ともとれる。あまり要領の得ない言い方に俺達は掴みきれない顔をした。
「まあ、これだけじゃイマイチわからないですよね。じゃあギン君、実際に使ってみましょうか。一番上の魔導書を取って、魔力を込めてみてください」
俺は先生に言われたとおりにやってみる。すると、先生がさっきやってみせたように俺の本が宙へと浮き上がった。
「これが『起動』です。次に、1ページ目を開いてみてください。ああ、実際にページを捲らなくてもいいんです」
空中に留まる魔導書に触れようとして、先生が静止の手を伸ばした。
「『ページを開く』そう念じるだけでいい」
半信半疑ながら、俺は先生の言う通りにしてみる。すると、実際にそれは出来た。俺が1ページを開こうと思った瞬間には、もうそのページがひとりでに動いていた。
「すごいっ!勝手にページが開いた!」
隣で見ていたミルが興奮の声を上げた。俺もまた、驚きに目を見開いていた。これだけで、先生の言っていた『特別な魔法のかけられた魔法書』だということが理解できた。
「それではページの一番上にある『コージー・ベッツ』という名前に触れて魔力を込めてみてください」
真っ白なページの上に、確かに『コージー・ベッツ』という先生の名前だけが書かれている。
言われた通り名前に触れて魔力を込めてみると、その文字が青白く光り始めた。
「こんにちは」
『こんにちは』
「?!」
俺は思わず先生の方を振り返る。
先生が「こんにちは」といった瞬間、確かに俺の魔法書から同じ声が聞こえたのだ。
「どうですか?そっちに声が届いたでしょう」
「届いてます.....これって」
電話だ。多分、魔法書を持っている者同士で通話できるということなのだろう。
「おお!デンワじゃねえか」
「サトウお前.....」
「おお、サトウくん!知ってるんですね!」
「はぁ.....?」
何故か話が通じていることに俺は頓狂な顔をする。
「その通り、通話魔法デンワです。この魔導書に名前を刻むことで離れている人と通話できるんです」
「.........」
いや.....そういえば前にもこういう事があったな。フィオレが「ステータス」と言った時や、街に出来た最新鋭の服屋に言ったときだ。俺は今一度、ゲームを起動してこの世界にいることを思い出す。
「もちろん、魔導書としての機能も果たします。その上、この様な便利機能が多く備わっているんですよ」
要するに、本型のスマホという認識でいいんだろう。
「皆さんの学校生活ではこれが大切になってくるので、上手く活用してくださいね」
「はい」
「じゃあ、これから学校の案内をしましょうか」
歩き出した先生の後ろについて、俺達は学校内の施設を見て回ることになった。廊下を歩きながら、改めてこの学校は最先端を行っていると思う。バレオレでは見なかった大きなガラス。現代的な建築。これだけで、この学校がすごい場所なのだとわかる。
「ここが食堂です。お昼になればそこのカウンターで頼めるので、ぜひ利用してくださいね」
俺達の元いた二階の教室から階段を降り、少し進むとカフェテリア形式の食堂に着いた。
「おお、いいな!こういうの」
「皆で食べれるね」
大きな食堂にウキウキとする二人とは対照的に、俺は物寂しさを感じていた。そんな時。
「あ、ギン。私の料理が恋しくなっちゃった?」
俺の心境を読むかのようなミルの言葉。思わず目をそらすと、俺の後ろの方から笑い声が聞こえてきた。
「さ、次行くぞ次」
「行きましょうか」
先生に続いて俺達は食堂の奥を真っ直ぐと進んでいった。
「この先には練習場があります。機能も色々と揃ってるんですが、....時間もないので、今度実際に行って確かめてください」
そう言って、先生は矢継ぎ早に次の場所へと向かっていく。その哀愁が漂う背中を見ると罪悪感が込み上げてくる
「えー...あとは、君たちは寮を申請していましたね」
次に俺達が向かったのは寮だった。
練習場から少し歩くと渡り廊下があり、その先につながるのが
「部屋の番号は74がギン君、75がミルシェさん、76がサトウ君です」
入ってすぐ階段を登り、二階に上がった所に70番台の部屋があった。
「ドアの解錠も魔力式です。最初に使用した方の魔力が鍵になるので、やってみてください」
「....お!開いた」
さっき魔法書を起動させたときのように、ドアノブに魔力を込めるとすんなりと鍵が開いた。
「なんでも魔法でできちまうんだな」
「ええ、魔法学校ですから、魔法研究は最先端なんですよ」
サトウとミルもそれぞれ鍵を開いた。寮の中に入ると、その内装からギルドの寮と近い印象を受ける。ギルドと同じく部屋の機能は大体魔力を動力としているようだった。
「一旦学校の主要な施設の案内は終わりましたかね」
「......ありがとうございます」
「他の細かいこととか、行事なんかは魔導書の後ろの方のページに書いてあるので、見ておいてください」
そう言って先生は目を閉じて一つ、大きな息を吐いた。まるで、まだ何か大きなものを残しているかのように。
「────では、ステータスの測定をしに行きましょうか」
「!」
だんだんと緩みかけていた気が、ぴしりと引き締まる言葉だった。
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