10 戦いの果
「はあ......はあ...........」
「.....ふぅ.......」
激しい殴り合いの果て、攻撃が収まり始めた。お互いに限界が近いのだ。
身体の痛みにグラムが顔を歪める。防御力のないグラムは、至る所から血を流し、装備もボロボロとなっている。俺は息も絶え絶えだ。目立った傷はないが、全身汗だくで疲労に倒れそうだ。
そして──────
「─────くっ.....!!」
膝の崩れる音が響いた。
遂に膝をついたのは、俺の方だった。
「どうした......もう終わりか...........?」
「ぐ......お.................!」
なんとか倒れずに踏ん張る。
ただ、なんとか体勢を立て直そうとするも上手くいかない。
「俺の勝ちだ───────」
グラムがそう言った。
「くそ.......!まだ、だ...!」
自分に活を入れる。
倒れかけてもまだ、闘志は燃え尽きていなかった。
─────しかし、そんな時。
グラムが静かに笑った。
「──────体力だけは、な.........」
「
「.....悔しいがもう、体が......言うことを聞かないみたいだ」
そう言い残し、グラムはピクリとも動かなくなった。
俺は最後の力を振り絞り、よろよろとその体を起こす。
不屈対不屈、拳のデスマッチ。
長く続いたその戦いが幕を閉じた。
闘技場の中心に、最後に立っていたのは俺だったのだ。
「─────っしゃああああああ!!!!!」
そしてついに、長く静寂に包まれていた闘技場が一転する。
『わあああああああああああっっっっ!!!!』
溢れんばかりの歓声が響く。
「カオスアリーナ」の決勝戦とは比べるべくもなく、小規模で観客も少ない。
しかし俺は、あの時に勝るとも劣らない達成感に浸っていた。
掲示板の文字が変わる。────『勝者 ギン』と。
4月26日、このバレオテができて10周年の日。この世界で、俺は初の勝利を収めたのだった。
「ん....?」
入場口とは別の入り口から、俺とグラムのほうへ歩いてくる人達がいた。
「よお、銀髪。めちゃくちゃ面白かったぜ!」
そのうちの一人、ガタイのいいひげ面の男がそう言い、二カッと笑った。
多分この人たちは医療班なんだろうと考える。ただ目の前の男の体躯からは、こっちが剣闘士だというほうが自然に思える。
「ええ!俺も思わず叫んじまったっすよ!」
隣の、ひげ面より細身で身長の高い男が同調する。
「...そうか......でも、ちょっと限界だ.....」
歓喜の叫びを最後に、俺は完全に力を使い切ってしまった。
そのまま足から崩れるように前方に倒れる。
「はっはっは!よー頑張ったな!」
倒れかかった瞬間、ひげ面の男ががしりと俺の体を掴んだ。
「そのままゆっくり休んでな.......おい!そっちはお前らが運べ!」
「おっす!」
二人の男が担架のような物でグラムを持ち上げる。
俺は担がれたまま、闘技場の医務室へと運ばれていくのだった。
「......う」
体の痛みに目が覚めると、そこはベッドの上だった。
見慣れない景色から、ここが俺とフィオレの部屋ではないことはわかる。
「起きたか。お前さんは全然ケガしてなかったからな。......筋肉痛はあるだろうが、ほとんど治療していないぞ」
隣に座っていたのは倒れる前に見た、ひげ面の男だった。
「いってて.....確かに体中筋肉痛だな」
防御力に助けられ目立った傷はないが、全身ガタガタだ。こんな状態にため息をつき、ベッドにもう一度寝転がる。その様子に、男が豪快に笑った。
「がはは!あっちを見な」
指をさされた方向に首を回す。
「────!」
反対のベッドにはグラムが寝転がっていた。
俺とは対照的に、あちこちに包帯やガーゼが付いている。
「なに、派手に見えるだけさ。大したことないぜ。それに......コイツがたっぷり回復したからな!」
ひげ面の男が少し横にずれると、茶髪の女性が奥に座っていた。
「.......そうね、じきに起きるわ。というか....なんであなたはそんな軽傷なのよ」
「えーっと........」
返答に困っていると、ドアが開いた。
「どう...?調子は」
「お、フィオレ」
いつもの仏頂面で、フィオレが部屋に入ってくる。
そしてその後ろから、俺のほうへ二人の男女が歩いてきた。
「君がギンだね」
短い金髪の青年が声をかけてくる。そして、何やら仰々しいことを言い放った。
「僕は冒険者ギルドバレオテ支部長、グレイブ・アインガーだ」
「私はレイネール騎士団副団長ヘリナ・ハイニ。よろしくねー」
「────え?」
青年に続いて、紫髪ショートカットの小柄の女性が声をかけてくる。
自己紹介をしてもらったようだが、全く追いつけない。
困惑しているとヘリナ・ハイニと言う女性が手を差し出してきたので、握手に応じた。
「単刀直入に言う。君を冒険者ギルドにスカウトしたい」
冒険者ギルドバレオテ支部長の、グレイブ・アインガーがそう言った。
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