9 豪傑
(いってえええええっ!!)
だが、耐えれた!ハンマーの一撃は腕に直撃した。痛いが、それだけだ!
笑顔で、余裕そうに振るまえ......虚勢でいい!
「な....ぜだ?!」
そしたら、相手は動揺する。
一瞬の隙を俺は逃さなかった。
「
盾をグラムの腹に叩き込む。
「がぁっ........!」
スキル「
スキルやステータスに関しては今朝、軽くフィオレと一緒に検証している。
ただの盾。それにステータス上大した威力ではないが、グラムがひるんだ。これが
グラムが、ハンマーを持っていないほうの腕で受け止めた。
盾が金属の腕あてに当たり、甲高い音が響く。
(くそっ.....流石に俺の火力じゃあ押し切れない。
ただ、この崩れた態勢ではまともな攻撃は出せないはずだ!重たいハンマーなら猶更!)
流れをそのまま、俺は次の攻撃へ移る。
「ゴリ押す!」
グラムが苦い顔をする。このままでは防戦一方だからだ。
ここで止めなければいけないと、グラムは考えたようだ。
俺の攻撃を断ち切るために、グラムが前方へハンマーを薙ぎ払った。
「!?」
その薙ぎ払いで、俺を振り払う予定だったのだろう。
「効かねえ!!」
しかし、そのハンマーは俺の胴体に当たりそこで止まった。
薙ぎ払いを、食らいながら前に出たのだ。
そしてグラムの無防備な頭へ、俺の盾が振り下ろされる。
────ガードは間に合わない。
「ぐっ..........!!!」
「まだまだあ!!」
まだ俺の攻撃は終わらない。連撃に次ぐ連撃が繰り出される。
俺の攻撃は貧弱だが、グラムは俺ほど硬くない。
痛みが、ガードの精度を鈍らせた。
「オラあっ!!!」
「ぐおおおおっ!!」
グラムへ渾身の一撃が叩き込まれる。
「..........ぐ....ふぅ.....」
痛みと疲労で俺の一撃を防ぐことができない。
耐えかねて、グラムが大きく体勢を崩した。
「....はあ.........はあ.....」
しかしグラムは倒れない。
不屈の闘志をその目に宿し、立ち上がったのだ。
「タフすぎんだろ........!」
まるで自分が追い込まれているとすら感じさせられる。
俺ほどの防御力はないはずなのに、その不屈の精神で攻撃に耐えているのだ。
しかし、もはや満身創痍だろう。
「.......ハッ!貴様と戦うには....こいつは重すぎるみたいだ」
がらんと、グラムがハンマーを地面に投げ捨てる。
「!」
「気が合うな、俺もちょうど重たいと思ってたとこだ!」
俺もまた、後ろに盾を放り投げた。機動力のある拳相手に、盾はあまり機能しないと考えたからだ。両者とも、もはや武器はいらない。
民族戦士グラム対俺。その戦いは終盤に差し掛かった。
闘技場の中心で二人は向き合っている。
両者武器を捨て、拳のみの最終決戦が始まった。
お互いに武器を捨てても状況は変わっていない。と俺は考える。
グラムの攻撃が効かない以上、俺はゴリ押しで攻撃を入れることができるからだ。
(もう
俺はグラムに向かって殴り掛かる。それはグラムに右手で防御の構えを取られ、初撃はうまく防御された。返すように、俺へと左の拳が迫る。
(このまま殴る.....!)
同じように、受けながら攻撃を繰り出せば確実に当たるはずだ。
それに鉄のハンマーと違って、拳ならむしろ受けやすいはず────。
「?!」
俺は大きく後方へ怯んだ。
グラムの拳が当たった頬に、予想外の衝撃が響いたからだ。
「......なんだ....今の.....!?」
頬を押さえ眉を顰める。
今の衝撃は、明らかにハンマーのそれよりも強力だった。
俺が受けたのはただのパンチだったはずなのに。
「悪いな、少年。俺が武器を手放したのはこれを使いたかったからだ」
前に突き出したグラムの左手に、オーラのようなものが滾っていた。
「知らないか。.....コイツは俺の民族の伝統技術、『振動魔法』だ」
(「振動」!そうか、打撃は硬さで何とかなるが振動までは防げない......!それになんだか────)
疲労のせいか、なんだかふらつく感覚を覚える。
「ふらついてきただろう、衝撃は感覚を狂わす。少しだが、平衡感覚をも奪うのだ.....!」
倒れるまではいかないが、厄介だ。軽い貧血の時のような不快感がある。
ただ、それだけだ。
「変わんねえよ。ただ耐えて殴るだけだ......!」
そう自分に言い聞かせるように、俺は好戦的な笑みを浮かべた。
打撃の衝撃は強力になった。しかし火力は変わらない。
グラムの攻撃は依然、大したダメージにならないのだ。
戦法は変わらない。────ゴリ押しだ。
「豪傑だな......!」
両者ノーガードの殴り合いが始まった。
拳同士の無防備な戦いに、もはや防御する者なんていない。
歓声は止み、闘技場は静まり返った。
俺とグラムの熱が闘技場へ伝わり、誰もが息をするのも忘れて観戦しているのだろうか。
殴って受けて、受けて殴る。無骨な殴り合いが長い間続く。
グラムも俺も、お互いに無言になった。
静かな、熱い戦いが始まって10分ほど経った頃。
長い闘争でアドレナリンが切れ、疲労と痛みが襲い始める。
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