4 消えたUIと請求される弁償金

キャラクリエイトを終え、光に包まれた視界が晴れると、

そこは中世ヨーロッパ風の街並みだった。


「.....いて」


周りから視線が集まっていることに気を取られてい倒れは、不意に後ろから進んで来る何かにぶつかる。振り返ると、そこには眩しそうに前に手をかざす男がいた。

そして、見上げるほど高い、巨大な石像があった。


「なあっ...?!」


俺が驚いたのは、しかも、それが倒れようとしていたからだ。

こちらに向かって影を差しゆっくりと地面へ迫っている。

鎖の魔法で何人かが引っ張ろうとしているが、止められそうにない。


「.....やばい、こりゃ間に合わなー──────────」


咄嗟に横へ逸れようとするが、そんな試みも虚しく完全に石像の下敷きとなった。

真上から巨大なものに押しつぶされる感覚とともに、巨大な岩石の落ちる崩落音が鳴り響いた。


(ぐおお....いってえ!!でも防御特化のおかげで助かったか....?)


倒れかかる石像に直撃したものの、とりあえず体は無事なようだ。一瞬見えた、運んでいた魔法のようなもののお陰でもあるのかもしれないが、これは俺のステータスが「防御特化」だったからだろう。

俺は脱出しようとなんとか体にまとわりつく瓦礫をどかそうとしてみるが、全然うまくいかない。それもそのはずで、俺は守り以外はからっきし。ひょろひょろな一般人と変わらないのだった。


────というか、「痛い」?

迫りくる石像に慌てて考えが及んでいなかったが、冷静になった俺はこの重大な違和感に気づいた。


ゲーム内で「痛覚」?.....明らかにおかしい。

それに、感じた違和感はそれだけじゃないだろう。


今更だが、そもそもリアルすぎるんだ。目に見える光景。肌で感じ取った空気や気温。何もかもが自然すぎる。

今の技術でこんなことが可能なのかという疑問に、俺は心のなかで即答する。それは完全にありえないと。そして疑念は、確信に変わる。


UIユーザーインターフェースがない────?)


ゲームに於けるUIユーザーインターフェースとはいわゆる、メニュー画面、アイテム画面なんかのことだ。それが無いということはつまり、「ログアウト」ができない。そもそも、「ゲーム内に閉じ込められた」のか「ゲーム世界風の現実にいるのか」ということが確定できないが。


しかし、俺の目にはここが明らかに現実の世界のように見えた。


(いや、待て待て何確定させてんだ俺は........

例えば、すげーリアルに作られてて、UIはバグで消えてるとか........そんな感じの─────…..)


そんなことを考えていると、誰かが瓦礫をどかしていることに気づく。

軽くなってきたことで、自分の力で起き上がることができそうだ。


「......いってて」


岩をかき分け、俺は瓦礫の底から体を這い出した。


「うそだろ..........?なんでそんなにピンピンしてやがる?」


そんな男の声。

瓦礫をどかした冒険者風の男が、俺の様子に目を丸くしている。


そして改めて、この世界の風景が俺の目に映った。

大通りを、一陣の風が大通りを吹き抜ける。髪をなびかせ、群衆の衣服をはためかせる。辺りに散らばる石片が、ゴロゴロと音をたてて転がっている。

視界に映るすべてが、疑いようのない事だと言っている。

ここが紛れもない、「現実」だと─────。


「おい!連れてきたぞ!ケガ人はどいつだ!」


急いで誰かが駆けつけてくる。どうやら、回復魔法の使える魔法使いを連れてきたようだ。後ろから杖を携えてローブをまとった女性がやってくる。冒険者風の男は俺を指差し、「こいつだ」と言いつつも怪訝な顔をしている。


「お前、ケガは......してるよな?」

「ああ、全身痛てえ........」


防御に全てを注いだとは言え流石に無傷とはいかなく、俺はそういった。

そんな俺の様子に、逆にそれだけで済んだのかと周りが苦い笑いを浮かべた。

回復魔法を使える女性が戸惑った様子を見せている。


「え......えーっと?」


その時だった。


「ぬおおおおおおおおおおおおい!!!!!」


いきなりの豪快な男の声が上がった。突然のことに、全員がぎょっとした顔をする。

そして少し離れたところから、小太りの中年がが鬼の形相でずかずかと歩いてくる。


「貴様か!石像の運搬を妨害したのは!!」


中年の男は俺の前まで歩いてきて、がばっ!と腕を広げそう問いかけてくる。俺へと、その刺すような鋭い眼光が向けられた。


「──────石像?」


瞬間、俺の記憶の中の光景と、目の前の光景が重なり合った。

この世界に降り立ってすぐ見た、倒れかかる「石像」。

そして鋭い視線を向ける目の前の小太りの中年。


「あ!」


気づいてしまった。粉々になって地面へと広がる石が、彼を象った石像だったいう事実に。そして俺の、まるで「やってしまった」と言わんばかりの表情に、中年の男が叫んだ。


「やはり貴様かああああ!!!」

「.........」


男爵が俺の肩をがっちりと掴み迫ってくる。


「まあまあ落ち着いてください、男爵。本当にこの人が妨害をしたんですか?」


今にも俺へと襲い掛かろうとする中年の男へと、仲裁が入る。男爵の横へとやった来たのは、社長秘書といった風貌の、長い金髪の女性。そして驚くべきことに、女性が言うには目の前の中年の男は「男爵」、所謂貴族に当たる身分だったのだ。


「レナ........フン!前方から見ていた者がいるだろう。おい!だれかワシの石像が倒れるところを見ていた者はいるか!?」


男爵が周りの者へと、声を張り上げ問いかける。

するとちらほらと、前方から見ていたという通行人が現れた。


「お、俺は見たぞ...!眩しい光の後........突然石像の前に、その銀髪が現れたところを!」

「なんだと.....?他の者もそうか?」


男爵の低い声が響いた。ほかの目撃者も同様に、俺がいきなり現れたと証言する。

男爵が眉を顰め、再び俺のほうへと向き直る。


「貴様......転移の魔法でも使えるのか?」

「ん?いや........違いますけど」


チラリと男爵が後方の、秘書風のレナと呼ぶ女性へと視線を向けた。


「本当みたいですよ?」


男爵の視線にレナはそう答えた。どうやってか、俺の言葉を事実と確認をしたようだ。納得したと、男爵は抑揚のない返事を返す。


「ここに来る前は?」

「覚えてないです。....気づいたらここに」


質問はそれだけとばかりに「そうか」と、レナのほうへ歩いていった。


「レナ、急に別のところへ転移した事例がいくつかあったな?」

「はい.....高位のアンデットに転移させられたとか、その他にも────────」


と、2人でいくつか事務的な確認を行っているようだ。

程なくして俺の転移は、「自然的な災害に遭い、故意はなかった」という結論に至ったらしい。


「........だが」


決着がついたと思いきや、突然、そんな呟きとともに男爵がわなわなと震えだした。

力強く握りしめた拳を虚空へ振るい、言い放つ。


「納得できんぞ!!!!」


散らばった石片の一つを取り、ぎりぎりと歯を食いしばる。


「ワシの石像を返せええ!!」


力を籠め、握りしめた石片が粉々に砕ける。

バラバラになって地面へと転がった。


「男爵、もっとバラバラになりましたよ.......」

「どうせこうなっては元に戻らん!!」


レナの呆れた声に男爵が辺りを見渡す。もはや原形をとどめていない石像を見て、怒りと諦めを含んだ表情をする。

そして再び、俺のほうへ振り向き言った。


「弁償じゃあ!!弁償金を払えい!!!」

「べ、弁償────?!」

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