3 カオスオンライン
チーム【Bumpys】の控室。そう書かれた部屋の扉を開ける。
白い壁に囲まれた簡素な部屋に入ると、チームメイトの二人である小此木と秋緋がそこで待っていた。
「お、インタビュー終わったの?」
「ああ、いや長かった.....!」
そう言いながら、俺は溜まった疲労の乗った腰を椅子に下ろした。重い試合の後で軽くインタビューを受けるつもりで行ったのだが、予想外にもそれは20分くらいかかったのだ。試合後のインタビューにしてはひどく長い。まあ....流石に国内優勝だからそれぐらいはするか、と自分を納得させた。
「はいこれ水ね」
俺の前に水の入ったペットボトルが差し出される。小此木は年長なのに、こういう気遣いができる男だ。俺にとってはそれが少し怖く感じるところもあるのだが。
「.......っふう」
勢いよくペットボトルの水を飲んでいると、「ところで」と小此木が話を始めた。
「さっきさ、秋緋ちゃんと、皆で『カオスオンライン』やろうって話してたんだ」
その言葉に、眠気で閉じかけていた目を開ける。小此木のはす向かいに座る秋緋もまた、気になる様な仕草を見せた。
「あー.....テストに参加できるんだっけか?」
「そうなのよ!どう?」
「まあ........これから
そう前置きをしつつも、俺はそれよりも前に答えを用意していた。
「──────やるか......!」
ぐしゃりと、力を込めたペットボトルがひしゃげる。
俺はもとから『カオスオンライン』のことをひそかに楽しみにしていたのだ。ただ、まさか小此木が、そして秋緋までもがやるということにワクワクが止まらなかった。
久しく忘れていた、欲しかったゲームをサンタに頼んだクリスマスの夜のような。
今すぐ走り回りたいという興奮に駆られながら、帰途についたのだった。
───────そして、遂にその日がやってきた。
見渡す限り真っ白な空間。目の前に、ぱらぱらと古びた本が浮いている。そして光る文字が浮かび始める。
『カオスオンライン』、テストサーバーのキャラクリエイトが始まったのだ。
待ちに待った日だ。当然、開始時間ぴったりに始めた。
俺は、目の前に具現化された自分の「アバター」を前に最終確認をしている。
没入感を出したかったので、見た目はかなり現実の姿に近づけた。
見慣れない要素の一つに、ステータスのほかに「加護」という項目があった。ぱっと見た感じではステータスなどの幅を広げる要素という感じのようだ。
俺が選んだのは「金剛」。具体的には、
要するに、防御力が上がる代わりに攻撃力やら敏捷性なんかが落ちるということだ。
扱いにくいだろうことは予想に難くない。なぜならMMOにおいて探索や狩りの効率というのは捨てがたいからだ。SPDが低ければ、当然それらの効率は落ちる。
「まあ、なんとかなるだろ」
しかし、俺は「勝たなければいけないとき」以外に関しては効率より浪漫を取る男だった。こういうときは好きなようにやらせてもらおう。
これがステ振りを終えた俺のステータスだ。
ギン<盾術士>
HP 90(18)
MP 10(2)
STR 0
DEF 70(140)
WIZ 0
MGR 70(140)
DEX 0
AGI 0
スキル(パリィ)
(
改めて見ると、我ながら気持ちのいいステータスだと思う。
防御こそ最大の攻撃なのだ。ポイント160すべてを耐久面に全BET。耐久極振りってやつだ。加護を「金剛」にしたことでDEFとMGRが2倍され、どちらも驚異の3桁の大台に乗った。そして
初期スキルは(パリィ)と(シールドバッシュ)の二つ。
「完璧だ.........!」
これからの冒険に胸を馳せ、「完了」と光る文字をタップした。すると、目の前の宙に浮いている本がぱたんと閉じた。
─────白い空間の奥からまばゆい光が広がる。
光に飲み込まれ、俺のキャラクリエイトが終わった。
─────────────────────────────────────
王都レイネールから少し離れた平野に築かれた街、バレオテ。
隣接する広大な未開拓の自然には、様々な魔物が生息している。
各地から腕に自信のある者が集まり、王都で知識を深めた学者たちが調査にやって来る。彼らにとってバレオテは未知を開拓するための拠点。
街には常に、魔石をはじめとした魔力由来の様々な素材が流通している。鍛冶、魔道具、果ては食まで、様々な産業がにぎわう「魔力産業」の町としても知られているのだ。
そんなバレオテは今日、小さな催しが行われていた。
明日で、レイネール王国にバレオテができてちょうど10年が経つ。町中がにぎわっており、広場には様々な屋台が準備されている。
そんな街の中央。多くの商店をはじめとした色々な建物のある大通りに、だんだんと人混みができていた。
「遂に偉大なるワシの石像が完成したんじゃあー!!!」
両腕を大きく広げ感涙の涙を流すのはこの町の領主、アントム男爵だ。
小太りの中年といういかにもな容姿ではあるが、ひそかに有能であることが囁かれたりする。大通りから運ばれた巨大な石像は、男爵本人を象ったもの。
この10年で、バレオテという街をここまで大きくした男爵を讃える石像なのだ。
その大きさは10m近くあり、周りの建物を優に超える高さだ。
「さあ!中央広場へ運ぶんじゃあ!!」
何人かが魔法を使って石像を運んでいる横で、大通りの先を指さし意気揚々と命ずる。
「いります....?
アントム男爵の後ろで興味なさげに歩くのは、秘書兼事務長のレナ・ウェルニだ。
「レナ!!わかっておらんな!これを広場に置き、今後なん100年とワシの威光を広めるんじゃ!!そう、今日はその大事な一日目なんじゃ!!!」
凄い剣幕で怒鳴り散らす男爵に、レナは呆れた顔をする。
今朝から興奮状態の男爵に、石像を運ぶ魔法使いたちも辟易としているようだ。
「慎重に運べ.....!くれぐれも落とすんじゃないぞぉ....?」
「な、なんだ?!眩しい!前が.....!!」
突然、石像を運ぶ魔法使いの前方が眩しく光った。
急な出来事にあわてて、右側を運ぶ一人が体勢を崩した。右側の足が止まったことに左側は気づかない。結果、石像のバランスが大きく崩れた。
「男爵!石像右側前方のバランスが崩れました!!」
「なな、な、なにいいいいいい!?!?い、今すぐ立て直せええええ!!!」
ぐらりと、アントム男爵の10mある石像が倒れ始める。
瞬時に、バランスを保っていた魔法使いが鎖の魔法を発動する。鎖がぐるりと石像に巻き付く。何人かが集まり、綱引きのように引っ張ろうとするも........止まらない。
「だめだ!!!重すぎるっ!!!崩れます!!石像が右側前方に崩れます!!」
「石像の前に誰かいるぞ!早く逃げろ!!ほら、男爵も早く離れて!!!」
「やめろおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
アントム男爵の絶叫もむなしく、轟音を立てて石像は無慈悲にも地に叩きつけられた。その衝撃は町を揺るがし、砂塵の煙幕が舞う。
大通りは崩れた石片で溢れかえった。
「ワシの石像があああああああああああ」
無理やり石像の近くから引きはがされた男爵が、その場に泣き崩れる。
アントム男爵の石像はもう、跡形もなく崩れ散った。
「だ、誰か生き埋めになってないか?」
一人の男が呟いた。
耳を澄ますと、瓦礫の山から物音が聞こえ始めた。
「誰かいるぞ!」
「くそっ....こりゃあ助からねえかもな.....!」
なんせ10mもある岩の下敷きになったのだ。
当たり所が良くても助からない可能性が高いが、万が一もある。
「回復魔法の使えるやつを呼んで来い!」
何人かが集まって瓦礫をどかし始める。
かき分けると、岩を押しのけて下から何かが起き上がった。
「......いってて」
「うそだろ.........?」
驚くべきことに、起き上がった
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