英雄ノ傲リ
とある辺鄙な村に若い青年がいた。
青年は他者を助け、それを生き甲斐とする好青年であった。
青年は憧れていた。英雄と呼ばれる者に。
かの有名な鬼退治の名人、坂上田村麻呂に、妖怪退治の大将軍、源頼光に。
本当にやって退けたのか、真偽は定かでは無いにしろ、青年の心は山を焼き焦がしてしまいそうなほど、ごうごうと燃え盛っていた。
青年は英雄へと成るため、毎日のように木刀を振って居た。
一方その頃、とある長州の根城にて、天下に轟く大悪名がいた。
民は度を遥かに超えた税に苦しみ、明日食う飯すら見えぬほど。
悪名は民からむしり取った金で毎夜の如く女と遊び呆け、子が生まれれば牢に閉じ込めた。
そんな悪名の噂は青年の耳にも届いた。
青年は怒りを露わにし、「そのような悪名、この我が首を討ち取ってやろう」と、高らかに宣言した。
村人たちは青年に刀を、握り飯を、村の思いを青年に託した。
青年は城を目指し走った。
一夜と掛からずして、青年は奴の根城へ辿り着いた。
青年は城の前で今一度、己を奮い立たせ、城へと攻め入った。
門番を刹那の間に討ち倒し、城内から湧き出る衛兵たちを次にまた次へと討ち取った。
が、所詮、多勢に無勢、個々で青年が幾ら強かろうと、数の力に敵う訳もなく、青年は牢に放り込まれた。
牢の中では多くの子どもが啜り泣き、それを見張りが痛め付ける、その為、子どもたちの身体は傷と痣に塗れていた。
青年はその惨劇を見て、怒りを再度露わにした。
青年は一度冷静になり決して多くない握り飯を子どもたちに与え、子どもたちに大人しく待つよう言いつけ、怒りのままに牢を壊した。
青年は刀を持ち、迫る敵を薙ぎ倒し、あっという間に悪名の眼前に迫りかかった。
だが、悪名は懐刀を出し、青年をその体格差で圧倒した。
青年は、押されかけるが、村の者達の思いを胸に、悪名の刀を押し返し、遂にその首を討ち取った。
青年は子供達を連れ、村に戻ると、村は総出で宴を始めた。
青年は美しい妻を貰い、英雄と讃えられた。
しかし、青年が助けた子どもたちのうち、一人が突如として村を水底に沈めた。
生き残った村人たちは「悪名の子を殺さなかったお前のせいだ」と青年を責め立て、妻は何処かに消えてしまった。
青年は人の心の急変に失望し、青年の心の中で何者かが青年の大事な物を盗っていった。
青年が一言、地面に命じれば、責め立てた村人は地の底に挟み潰された。
それから大名となった青年は、己に逆らうものあれば火に、天に、地に、森に命じ次々と民達を屠りさった。
青年の眼前には今にも森を焦がしてしまいそうな炎に包まれていた。
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