無キ力感ジレズ

ある村に1人の青年がいた。

青年は稲作を手伝うのが好きだった。

ある時、青年の五指は触れる物全てを朽ち果てさせるようになった。

そのため 村人たちから恐れられ、18を迎える頃、青年は村を飛び出していた。 

ある村に着いた。箸を朽ちらせたので駆け出した。

ある村に着いた。小屋を朽ちらせたので駆け出した。

ある村も、またある村も、青年を好まなかった。

青年は崖に飛ぼうとした。

青年に勇気はなかった。

ある時青年は村についた。

青年の腹は限界を迎え、やむを得なく立ち寄った。

村人たちは一歩引いて接しながらもそれを表に出さず、その心は青年にとって今までのどの村より暖かかった。

そうしてその村に居座っていたある日、

村でもとても美しい女が舞を見せようと言ってきた。

その舞はさながら、女神を彷彿とさせ、青年は思わず、

「美しい」

と言葉を溢した。

その夜青年のいる小屋に1人の妖艶な雰囲気を醸し出す女がやってきた。

「貴方様のそのお姿に見惚れてしまいました」

青年はこの女性は自分が何者か知らないのだと思い近木にあった箸を朽ちらせた。

「私の五指はこの通り命あるものの死期を眼前にする。其方にでも触れらばただでは済まぬ。」

そう一蹴しようとするが、女は一歩たりとも引きはせず、

「貴方は今まで1人であった。だからこそ私が共に寄り添いたい。」

その言葉は青年が生まれて初めてのことだった。

自分の力に怯えず、自分を受け入れる人間。

青年は永遠にこの女を守り抜こう。そう暗い森に誓った。

だが、次の日、突如として般若の鬼が現れ、村人たちの腸を引き裂き始めた。

村はものの一瞬で地獄と化し、青年は驚愕していた。

だが、青年は女を探した。永遠に守ると誓ったあの女を。

青年は崩れてきた瓦礫に潰され、死の淵を彷徨った。

すると、炎が鳥の形を成した。青年は不思議と一瞬で理解した。この鳥は悪魔だと。

鳥は言った。

「死にたくなければ、私と契約せよ。」

青年は…………一切躊躇うことなく了承した。

そうして寿命を捨てた青年は女を探した。女はあの夜の小屋の屋根にいた。

女は地獄と化した村を片目に高らかに笑っていた。

女は青年に気付き、ニタリと笑って

「お前も悪魔となったか。どうだ?心地よいか?お前もこの炎で死んだと思っていたがのう。まあ良い、そろそろこの体もいらん。」

そういうと女の背中から何か大きなものが出て、それは森の中に消えてゆき、抜け殻の体は炎の中に落ちていった。

青年は理解した。自分はあの般若を呼ぶために利用されたのだと。

青年は行くあてもなく生まれ故郷に帰ってきた。

村には人っ子1人おらずある小屋の地下の牢に、全員、肉塊となって押し込められていた。

青年は恨んだ。自分から全てを奪う悪魔を、自分を騙したあの女を。

だが青年は悪魔の呪いでやる気を奪われた。

青年は永遠に、無力感に苛まれよう。

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