舞ウ鬼怒ル

ある村に美しい女がいた。

女は舞う姿が美しく、見る者全てを魅了した。

女神を纏ったような女は今日も、金色に光る神楽鈴をシャランと鳴らし、軽快に舞うその姿は、可憐で美しい姫そのもの。

明るい性格の女は村のみんなと仲良く過ごしたそうな。

ある日、村に男がやってきた。

男は常に気だるげな目をして村の者は忌み嫌っていた。

女は男に舞を披露した。

男の目が少し光が宿り、ただ一言「麗しい」とだけ呟いた。

女にしてみれば、生まれてから飽きるほど聞いた言葉。だが、何故かその男の言葉に心が動かされた。

女は生まれて初めて恋をした。

女は親友に話した。「この恋我が舞に成功させみす」と。

次の日。

女の目に、あり得ぬ光景が広がっていた。

男が親友と接吻をしていたのだ。

男の顔は恍惚としており、親友は女の方に振り向き、ただ一言話すでもなく、ただニタリと嘲っていた。

女は憤怒した。

だが、男の幸せそうな顔を見て、持ちかけた刃をそっと閉まった。

女はこの怒りを舞にしようと、蔵にて面を漁った。

女の手に、一つの面が握られた。

おぞましい顔をした般若の面だ。

女は「つきづきしき、この面にこの心地舞ひ踊らむ」

そう思い面を被った。

途端、今までにないほどの憎悪に襲われ、女の眼前に獅子が表れた。

獅子は女から理性と、寿命を喰らってしまった。

女の視界は暗転した。

次に女が目を覚ました時、辺りに村はなく、ただ煌々と燃える炎と、血と腸で紅く染まった池があった。

遠くで見ていた僧侶はこう言う。

「突然だった。突然般若の鬼が来て持ってた神楽鈴で村人の腸を切り裂き、家をその華奢な腕で瓦礫にし、物の数分で地獄と化した。その間、絶えぬ悲鳴と、男か女かも分からぬ雄叫びが響いていた。」と。

女は惨劇を目の当たりし、すぐに察した。

己が壊したのだと。

女は怒っていた。ただ刹那の感情で恩義のある親を、村の長を、老若男女問わず全てを壊した己に。

女は更地を出た。

怒鬼を孕んだ女は今尚、瘴気に当てられた神楽鈴をゴロンと鳴らし、腸引き裂くその姿は、不気味でおぞましい鬼そのもの。

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