嫉ミ妬ミ

ある城の地下の牢に、十を超える子供がいた。

歳も、性別も、顔もバラバラ。しかし、そんな子供たちには三つ共通点があった。

一つ、体には生まれた瞬間からつけられた多くの痣、一つ、肋骨が浮き出て歳に合わぬほどの貧相な体、そして最も醜い共通点、子らは母方は違えど、父は同じ、1人の大悪名であった。

子供達の中の1人、緋色の瞳をした少女がいた。

その瞳に光は無く、恐らく、少女が生まれるより前に若きうちに亡くなったであろう子供の亡骸を布団とし、寒さを越していた。

たまに牢屋に見張りが放る腐り切ったパンは、先に生まれた者が殆ど食い潰される。

少女は見張りのものを、自分より先に生まれた者を、妬み、嫉み、啜り泣いた。

少女の中で何か大きなものが自分の内から食い破る。そんな幻覚を見るほどに……

少女が齢八つを越えようとするある時、城が一騒ぎしたかと思えば、屈強そうな青年が1人、牢に放り込まれた。

青年は辺りを見渡し、ほんの刹那、鬼のような形相になったかと思えば、また冷静な顔に戻り、懐から握り飯を取り出した。

青年はその握り飯を小分け、牢の子たちに分け与えた。

ただ、何一つ味も付けず、質素な握り飯であったが、子供達にとってそれは初めて口にした、安全な食事であった。

皆が涙を流し飯を食らっている隙に、青年は何か、覚悟を決めた顔をして、牢に手をかけ、思い切り破壊した。

その際の大音で衛兵が駆けつけたが、持っていた刀で薙ぎ倒し、風の如く去って行った。

それから半日ほど過ぎた頃、再び青年が戻ってきた。

青年は少女たちの手を引き、城の外へ連れ出した。空は青々と晴れ渡っていた。

生まれたその瞬間から地下牢に放り込まれ、外の世界など見たこともない少女たちにとって美しく、果てしない程に眩いものであった。

青年は少女たちと村に帰ると村は総出で宴を初め、少女たちが倍居ようと食いきれぬ程の飯を用意した。

少女は生まれて初めて満腹感を得た。

少女は自分に様々な初めてをくれた青年に惚れきっていた。

来る日も来る日も青年に会いに行き、幸せの絶頂に浸っていた。

ある日、少女がいつもの様に青年に会いにいくと、青年の姿はなく、代わりに、妖艶な女がいた。

聞けば女は己を青年の妻だと抜かす。

少女は女に激しい嫉妬を抱き、自分を裏切った青年を恨み、泣いた。

少女の涙が地に落ちた時、少女の体から水が溢れ出し、巨大な蛇になったかと思えば、村をほんの一瞬で飲み込んだ。

少女が気が付いた頃には、村は水底に沈んでおり、少女は村から逃げ出した。

少女は自分を害と思い海に身を投げた。

ーーが蛇が少女を喰らい死にきれなかった。

少女は数年の時を隔てても、その姿を一切変えることはなかった。

少女は嫉む、なぜ他者はこんな目に遭わないのだと。

少女は妬む、なぜ他者は死ねるのだと。

少女はニンゲンを、笑う者達を、嫉み、妬み、啜り泣いた。

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