第8話 染めて染められて

「あれー、結月ちゃんじゃん!」

「こんにちは!」

「ここで働いてたんだね!」

「そうなんです!来てくれたんですね!ありがとうございます!」


ある日、結月が店にいる日、結月の目の前に若い男が現れた。


そんなに忙しくもない日。

僕は、裏口から出て椅子に座ってイライラしながらたばこに火をつけた。


静かに現れて僕の口から奪って吸い始めたのは希咲。


「…口、臭くなるぞ」

おんなじ匂いでしょ。」

「…まぁそだけど。」

「言わないの?」

「…言わない。」

「『大人』だから?」

「そう。『大人』だから。」


「この店で一番クソガキなくせにね。」

「うるせ!」


また希咲に救われた。

彼女が笑うと僕も自然と笑う。


「…にしても腹立つ誰なのあいつ。」

「大学の子じゃない?」

「マジ出禁な。ていうか、あいつもなんなの、あんな楽しそうに話やがってマジでムカつく。」

「言えばいいじゃん。」

「言えねー…」

「私なら?」

「客であろうが追い出してやるわ。」

「…ほんとにバカ。」

「戻るか。」

「そうだね。」


―――――――――事務所。


希咲が店にいる隙を見て結月を呼んだ。


「なぁ結月。」

「なに?」

「…あのさ。」

「うん。」

「飯食ったか?」


希咲が僕の方を見て「言え」と手で言っていた。


「食べたよ。さっき見てたじゃん。」

「そうだね。」

「…稜太。」

「ん?どうした?」


結月が前触れもなくキスしてきた。

…そして耳元で少し低い声で囁いた。


「あたしを舐めないで。」と。

「……」

驚いて固まっていると、


「店長、ちょっといい?」

と希咲が来た。


「どした?」


すると店の電話が鳴って希咲が出た。


このタイミングで…。


電話の向こうの相手と親しそうに話していて、

業者なのかなんなのか分からなくてご飯に誘われてる雰囲気もある。


僕は椅子に座って様子を見てた。

希咲はその誘いを明確に断った。


電話を置いたあと、口が先に開いてしまった、


「なんなの今の。」

「え?」

「いや、だから今のなんなのって。行けばいいじゃん。飯誘われたんだろ??勝手に行きゃいいじゃん!」


僕は…止められなくて希咲の胸ぐらを掴んでいた。


「稜太。結月が見てる。やめて。」

「だからなんなんだよ!ムカつくんだよ!!お前も!結月も!!ふざけんな!!」


希咲はそう叫び散らす僕を抱き寄せた。


「…よく言った。えらいよ。稜太。」


僕は希咲に包まれて泣いていた。


「やめろ…離せ…」

「離さない。泣いていいから。あんた、結月に遠慮しすぎ。あんなのあんたじゃない。そうでしょ?」

「希咲だったら言える…」

「最初から私には言えたでしょ?」

「言えた。」

「ていうことは結月にも言えるの。言っていいの。それで結月が離れるなら離れた時でしょ?あんたのブチ切れ体質を理解して包み込める相手じゃないとあんたは無理だよ。」


「…結月!!」


僕は希咲から離れて結月に手をあげようとた。


すると、「稜太!!」と希咲に止められた。


「それはあたしだけにして。それは結月にはしちゃいけない。」

「だってこいつがさ!!」

「分かってるから、わかったから。ちょっと一回外行こう。大丈夫だから。」


僕が希咲に引っ張られて外に出ようとすると結月に引き離されて思い切り頬を叩かれた。


「気に食わないなら言えよ!!あんたの本性なんて分かってるから!!それでも一緒にいるんでしょ?!あたしはあんただけなの!あんただけしか知らないの!」

「……。」


僕は結月を思い切り抱きしめた…。


「稜太、あたしは稜太しか知らない。稜太しか要らない。」

「じゃあ他の男と話すな。殺すぞ?」

「なら私のわがままも聞いてよ」

「ん?何が欲しい?」

「大学やめさせて。稜太のそばにいさせて。希咲は置いといていいから私を戻して。できる?」

「…わかった。お前は後悔しないのか?」

「元々稜ちゃんの意地っ張りから今があるんでしょ?」

「……ちょっとこっち来て。」



―――――――――資材庫。


「…黙れ。声出すな。怖いだ、嫌だってめんどくせぇこと言うなら大人しく短大生やってろ。」

「…あたしを見くびらないで。」


結月は僕に首を絞められながら余裕な笑みを浮かべていた。


「っ!!……」

「…舐めんなクズ!」


急所を蹴られて蹲る僕に結月は無理矢理顔を上げさせてキスしてきた。


「…私はあんたに染められたの。あんたの色になってるの。…一緒に寝て起きてるのは、あたし。希咲じゃない。わかるよね?」


「使いものになるかな…」


僕は結月を押し倒した。


「稜ちゃん…」

「んぁっ…」

「大丈夫。そんなヤワな男だったらあたし染められたりしないから。」


―――――――――――――――――――――。

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