第6話 早く帰ってこい
―――――――――希咲が入って一ヶ月が過ぎた。
必然的に希咲と過ごす時間の方が多くなっていた。その中で結月が知らない僕の一面も敏感に気付いていた。
僕は、昼ごはんはあまり食べない。
そして夕方頃になって、お腹が減って具合が悪くなることも見えて来て、希咲が昼休憩の時に黙ってパンを差し出してくれるようになった。
最初は驚いたが、
「いいから食べて」と言われて、
「ありがとう。」と返して直ぐに食べた。
たまごのサンドイッチだった。
「…食べやすい。ありがとう。」
と言うと、
「食べたくないの?通んないの?」と聞かれ、
「あんま流れていかない。汚い話すると、咀嚼するだけでいい感じ。あとは出したい。」
「拒食?」
「とまでは行かないと思うけど三食そんな感じ。口の中に美味しさが広がれば飲み込むまでは要らない。」
「体悪くするよ。」
「いいんだ。別に。食いたくねんだから。」
「でも、美味しかったんでしょ?」
「
―――――――――次の日の昼。
「稜太。」
「ん?どうした?」
「よかったらこれ食べる?」
希咲は僕に弁当を作ってきてくれた。
「お前のは?」
「あるよ。一緒に食べようよ。」
「え…悪いよ、さすがに。」
「いいから食べて。一人で食べたくない。」
気付いたら希咲の頬を指で撫でていた。
「私に惚れた?」
「…ここだけの話、心臓が
囁くように答えると、
「…早く食べて。」とあしらわれた。
でもどこか、暖かく見えた。
「いただきます。」
小さめの弁当箱を開けると柔らかい卵のサンドイッチとウインナーが3つに切られて2本分入っていた。
「うまそ…。」
「美味しいから。食べてみて。」
サンドイッチを手に乗って食べると、
今まで食べたことないくらい美味しかった。塩味付いていて、のどごしもいい。
「マヨネーズ入れてくれた?」
「気付いた?その方が食べやすいかなって。」
「ありがとう。」
「いいえ」
「…お前の飯、毎日食べられる男は幸せだろうな。」と聞こえるか聞こえないかで呟くと、
「だったらいいな。」と返してきた。
―――――――――数日後、週末。
「店長、なんか食べた方がいいよ」
と発注をしていると希咲に声をかけられた。
まるで…『嫁』みたいに見えた。
「希咲。」
「なに?」
「いつものパン買ってきてもらってもいい?」
とお願いすると、
「わかったよー。」
と言ってすぐに行ってくれた。
15分ほど経って、
「店長ー。買ってきたよー」と机の上に置いて声をかけに来てくれた。
「ありがとう。なぁ、きさ。」
「なに?」
「こっち。」
僕はまた抑えきれなくなって資材庫に希咲を連れ混んでドアに押し当てた。
「…抑えらんないかも。」
「…どんな風に?」
僕は無言で抱き寄せた…。
「誰にも言うな。」
「…いいですよ?」
「…お前を俺のものにしたい。」
「『したいですか?』」
「…結月は捨てない。お前も手に入れる。…絶対に。」
「最低…。」
「お前が一番わかってんだろ?俺の事。」
「…わかってる。」
希咲からキスしてきた。
「なぁ希咲…」
希咲をきつく抱きしめていた…。
「言わなくていいよ。わかってるから。」
「わかんの?」
「わかるよ。」
「…しよ」
「違うでしょ?」
僕は情けない顔して希咲の目を見た。
「…俺のそばにいて。」
「いるよ。大丈夫。」
―――――――――週末、希咲、結月が揃った日僕は店を抜け出していた。
結月からの電話には出なかったが、
希咲からの電話には出た。
―――――――――近所の喫茶店。
『ねぇ、結月もかけてたんだけど気づいてたよね?』
お怒りだ。
『だから?』
『「だから」じゃないから。早く帰って来いっつーの。何時間経ってんの?』
『黙れ。』
少し歩く音がした。
『はぁ……今、資材庫。』
希咲がため息をついている。
『…店に居づらい。』
『そんなのあんたが巻いた種でしょ?』
『違う』
『なに。』
『お前と普通に居られない。お前が離れてると不安。常に見えるとこにいて欲しい。だから思いっ切り見えないとこに居る。』
『キラリにこもってんの?』
『うん。一応パソコンは持ってきてるから仕事もしてる。』
『結月送るわ。こっちはどうとでもなるから。』
『お前寄越せ。』
『はぁ?どっちの意味?』
『どっちも。』
『店開けられないから結月行かせる。文句は聞かない。』
『…希咲、愛してる。』
『…わかってるよ。あたしもだから。だから帰っておいで?稜太しか出来ないこともあるからね?』
『…わかった。』
僕らはいつの間にか体の中でも外でもしっかり繋がっていた。。何よりかけがえのないものになっていた。
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