第40話

 打ち合わせを終えて俺はジャンさんを見送る。


 ホッと息を漏らした俺はどうやら緊張していたようだった。


「……まさか今日中にいきなり建物が手に入るとは思っていなかった」


 貴族特権思ったよりすげーなーって感じである。


 誰もいなくなると、この広い建物が自分一人の物であるという実感も湧いてきてつい一人ニヤケてしまった。


「うん。思ったより立派な俺の城が手に入ってしまったな! 予想外だがこういうこともあるんだろう!うん!」


 自分を納得させるために何度か頷いてみたがどうなんだろうか?


 いや、こんなこと普通はないんだろうけど魔法が使えなかったんだから、これくらいの異世界人特典はあってもよいに違いない。


 なんやかんや問題はある気がしたが、今日だけはそうれっと問題を放り投げておくことにした。


 とりあえず生活スペースでも掃除しようかと思っていた俺はその時、ふと妙な振動を足の裏に感じてピキンと背筋に寒気が走った。


「……これは。まさか?」


 俺は入口の扉を見た。


 振動が近づいてきている。


 意識の深層に刷り込まれたセンサーが、迫る脅威を敏感に察知しているのだと気が付いた時にはすでに、振動は音として耳に届き始めていた。


 いやいや、そんなバカなことはないと俺は頭を振って逃避する。


「いやいやいや。そりゃあそのうちとは思っていたが、いくらなんでも早すぎる……」


 しかし俺のセンサーは残念ながら正常だった。


 ドカンと俺の城の扉が砕け散り、木の破片とはじけ飛んだ蝶番が俺の目の前を飛んで行った。


「うっほぁぁぁぁ! だいきちだぁ!」


「うわあああああ! ふんぬぅ!」


 この衝撃! 覚えがある!


 いきなり飛びついてきた少女を、俺は力士のように腰を入れて受け止めた。


 年の頃は十代前半の小柄な少女である。


 黒い髪のショートカットが爽やかな女の子は見た目に寄らないパワーだった。


 ただ、元気に笑う少女が厚い扉を蹴り破ってくるなんて言うのは悪夢の類だと思うが……俺は彼女を知っていた。


「うぉほっほー! ほんとにだいきちだ! 何やってんだ、だいきち!」


「お前こそなにやってんだ! いきなり扉を蹴り破るんじゃない! 危ないだろうが!」


「また会えて嬉しいぞだいきち! 何しに来たんだ?」


 人の家の玄関を粉砕しておいて、こいつは俺が何をしに来たかも知らないらしい。


 話を聞いたとたんにすぐ飛び出して来たんだろうと、俺は頭痛を覚えて頭を抱えた。


「俺は……ここに店を出すために来たんだ」


「お店か!? それは素敵な話だなだいきち! それで何屋をやるんだ? 肉屋か? 僕はお腹がすいたぞ!」


「……サンドウィッチ食うか?」


「うん! 食う!」


 相変わらず、テンションが強烈な奴だ。


 彼女の名前は、春風 ツクシ。


 完全に子供にしか見えないが、これでも俺と一緒に呼び出された異世界人で―――。


 そして彼女こそ実績として魔王を倒した正真正銘、本当の意味での真の勇者である。

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