第28話
高く高く体はジャンプし、空中から騎士団を確認した俺はその中心辺りに着地した。
俺は周囲を見回す。
騎士達は面食らって、俺を見ていた。
「お、お前は! 白い戦士……なのか? 本当に存在したのか!?」
「……」
そりゃあどういう意味だい? とか聞いてみたい気持ちにかられたが、今は我慢。
どうやら俺は存在すら疑われていたようだ。
ドラゴンの時はみんな気絶していたし、それは仕方がない事だろう。
俺はヘルメットの中でクスリと笑う。
敵なのか味方なのか判断しかねて動き出せずにいてくれている状況はありがたい。
彼らに親指を立てて見せ、俺はそのままあの巨大な腕が出てきた穴に飛び込んだ。
地面から出て来たんだから、穴はあいつが消えたところに繋がっている。
そんな安直な考えだったが、どうやら予想は当たっていたらしい。
テラさんの声は地下でもクリアに俺の耳に届いた。
『位置を補足しました。このトンネルは、先ほど山に見えた不気味な工場につながっていると思われます』
「ああ、やっぱあれ工場だよな」
山の上にあったあの金属の建造物は、城というよりは工場のようだというのは俺も真っ先に感じた。
あの工場で何を作っているのかは知らないが、あの化け物たちを考えるとろくなものではないだろう。
「問題は敵がどれくらいいるかだよな」
『あの工場の生産能力と、そもそものオークの群れの規模にもよるでしょう』
「警戒はした方がいいだろうが……」
しかしトンネルは一本道で、俺はこのまま走り抜けようと心に決めていた。
即決で後を追ってきたのは、奇襲をするためだ。
相手は地下からの奇襲を成功させて、少しは油断しているはずである。
迷っている時間が惜しい。
あのでかいのは今まさに敵を混乱させたと思い込んでいる。
実際騎士団には効果テキメンだったがこのわずかな間こそ俺達第三勢力の機動力の見せ所だった。
「逃げていようがあのでかさだ。探すのはそんなに難しくないさ。さぁかましてやるぜ? 電光石火の救出作戦をな!」
『うまくいけばいいのですが』
俺のやろうとしていることを察したテラさんはスピーカーごしにため息のようなノイズを発生させるなんて器用なことをしていた。
穴はこのスーツをもってすれば、あっという間に駆け抜けられる。
顔を上げれば、もうすぐそこに出口の光が近づいていた。
そして俺は一切ためらわず光の中に飛び込んだ。
ズッダン!
開けた場所に飛び出すと、俺は出た先でサウナよりも濃密なスチームを見た。
ブシュー!!!!
「……うはぁー……奇襲、失敗だな?」
『追撃の準備があったようですね』
蒸気を出しているのは、開けた部屋を覆いつくす武装オークの群れだった。
だがどうにもオーク達も準備万端という風でもない。
よく見ればまだ隊列一つ組まれておらず、こうも早い奇襲に対応はできていないらしい。
俺はギラリとヘルメットの裏の瞳を輝かせた。
「……いや! 向こうも驚いてる! 一気に行くぞ!」
とりあえず先頭にいる丸顔オークから!
俺は拳を振りかぶる。
拳はまっすぐにオークの腹に突き刺さり、景気よくボーリングのピンみたいに吹き飛ばした。
軽々と飛んだ巨体のオークは、後ろに控えていた数十の武装オーク達を巻き添えにして、回転しながら飛んでゆく。
そのまま建物の壁を破壊し、瓦礫にめり込むオークが落下すると周囲は静まり返っていた。
「おおお……」
『来ます』
「「「「プギイイイ!!!」」」」
だがゆっくり感動している暇もない。
衝撃波のように俺にたたきつけられるオークの鳴き声で、俺も再び動き出す。
「ちゃんと戦えてる!」
『大丈夫、戦えていますよ』
「ならいきなり全開でいくぞ!」
『全開はやめておきましょう。先ほどの威力を見るに、まずは30パーセントほどで十分かと』
「……それでよろしくお願いします!」
殺到するオーク達を前に、俺はとっておきの武器を首から取ると、力いっぱい振り回した。
ヒュンと短い風切り音がして、真っ赤なマフラーが鞭のように周囲のオークを打ち据えるとオーク達の鎧はべっこりとへこみ、面白いようにひっくり返った。
思った以上の威力に俺は自分の手にしたマフラーを見た。
「すげぇな。シルナークの言う通りだ。小学生の時に水を含んだタオルでパチンとかはしたことあったけどなぁ!」
まるで鞭のようであり、実際はそれよりもさらに高性能にも見える。
少なくとも伸縮性も丈夫さも俺の知る布ではありえない。
呪いってやつは、こんなに物理的に恐ろしいものだったか? ひょっとするとシルナークの魔法の技なのかもしれない。
強度は金属を超え、伸び縮みはゴムを遥かに凌駕している。その上ある程度俺の意のままに動いている節まであった。
『シルナーク様のデータによると、しみ込んでいる竜の血による呪いと呼ばれる現象によりマフラーが魔力を強制的に吸い上げ、マスターの意志に反応しているようです』
「おお! ようやく俺の使い道がない魔力も日の目を見る時が来たか! マフラー操るって死ぬほど地味だけど……」
『案外地味なものほど効果的なことはよくある話です。まずはオークで試してみては?』
「だな! よっしゃこい!」
多対一となると、単純な接近戦より中距離の攻撃手段はありがたい。
最新兵器なのに基本的に殴る蹴るしか攻撃手段がない事には不満があったからだ。
それにこの赤いマフラー攻撃は単純に強力だった。
「はぁああ!」
マフラーを振るうたびに、ドシンと驚くほど重い音が響く。
少しコツがいるが、相手に警戒させるのには十分。
そして怯ませたところで急接近し―――渾身の蹴りがオークの鎧に突き刺さった。
銅鑼のような音を立てて飛んでゆくオークはこういっては何だが、かなり爽快だった。
「フッ……ドワーフ闘法恐るべし。兵士時代の筋肉体操の効果もちょっとは認めてやろう」
『なんですかその、非常に暑苦しい印象のネーミングの数々は?』
「仕方ないだろ? 筋肉こそ正義と信じてる暑苦しい人達直伝なんだから!」
そう、力がないなら生き残るために何でもやれと無理難題を押し付けられた日々。
あの時の悪夢を振り払い、俺はそれでも力強く立ち上がった。
「ああ。俺が戦い方を習ったやつらはどいつもこいつも、肉体強化なんて持ってない俺をしごき倒してくれたひでぇ奴らだったが、訓練は雑念の入る余地がないくらいガチだった。あの訓練して泥のように眠る日々が実を結んでくれて俺はとても嬉しい」
いや本当に。
効率的に相手を撲殺するクレイジーな戦い方は、やはりパワードスーツと相性がいいらしい。
気を失って倒れているオーク達が何よりの証拠だ。
通用するなら、もはや突っ込むのみ。
建物の中は入り組んでいて、まるで迷路の様だった。
「どこだ! お嬢様は!」
『このまままっすぐ進むと前方に塔があります。その頂上に巨大な熱反応が』
「よし! そこで決定! どけどけ!」
俺はテラさんの指示に従い、まっすぐオーク達を蹴散らして、塔を目指した。
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