第25話

 シャリオは槍を払い、ガランガランと落ちてくる鉄の鎧を見やってため息を吐いた。


 フゥと吐いた息さえも真っ赤な炎になって燃え上がるそのすべてが彼女の魔法の効果である。


「おかしいですわね……ドラゴンに勝ったというのなら、もう少し歯ごたえがあるかと思いましたが。拍子抜けもいいところですわ」


 ようやく熱気が収まり始めた頃、慎重に様子を確認しながらジャンがやって来た。


「相変わらずすさまじい魔法ですね。火の属性に目覚められて以来、その力は増すばかりですな」


「当然です。鍛錬は怠ってはいませんわ」


 炎を自在に操るこの力の前にはどんな敵でも灰に帰る。


 灼熱と称えられる炎の魔法を、シャリオは最も色濃く受け継いでいた。


 しかし灼熱の炎は、敵どころか味方すらも焼いてしまう。


 だからこそ彼女が戦う時、彼女の味方は被害を受けないように避難するのが常だった。


 炎を静め周囲を見る。


 残敵は無し、そう思われたが―――。


「!」


 いきなり地面が砕け、飛び出してきた巨大な腕が彼女の体を丸ごと掴み上げた。


 完全にシャリオは不意を突かれて状況を把握できなかったが、とっさに体ごと燃え上がる。


 それでも巨大な腕はまるで微動だにせず、彼女を飛び出してきた時と同じ勢いで地面の中に引きずり込んだ。


「お、お嬢様!」


 あまりにも一瞬の出来事に、対応できた騎士は一人もいない。


 そして地面にはぽっかりと巨大な穴だけが残された。


 ……と、それを見ていたのは騎士達だけではなかった。




 俺達三人は茂みの中から望遠鏡でそれを確認して、顔を見合わせる。


「大変だ」


「大変だね」


「大変のようだ」


 噂のオークと戦うと聞いてこっそり後をつけてみたら、大変なことになった。


 大門 大吉と愉快な仲間達は、しかしこれ幸いと行動を開始する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る