第18話

「なーんでこうなったかなぁー」


 数日後、俺は真っ赤に染まってしまったマフラーをしげしげと眺めて首をかしげた。


 そしてリッキーはそんな俺を見て同じことを呟いていた。


「本当に何でこんなことにねー」


「だよなぁ。マフラーについた血が洗っても全然とれない……染めようとは思ってはいたんだが」


「いやそっちではなく噂の方だよ」


「なんだそっちか」


 確かに噂は重要だ。というか、本日の本題である。


 地下室でそれぞれ、洗濯やらパワードスーツの微調整をしながら、俺とリッキーはぽつぽつと言葉を交わしていた。


 仕留められたドラゴンに、苦戦した騎士団。そして白い戦士についての噂も少々、今町ではそんな噂でもちきりである。


 そしてもれなく心当たりのある噂に、俺達はため息を吐いた。


「噂になってたなー」


「噂になってたねー」


「いやぁ、ビビったなぁ。騎士団がいるなんて想定外だ、まいったね」


「……いざって時は僕の名前は出さないようによろしくね」


「ショックー。それショックだわー」


 リッキーの思わぬ裏切り発言はまぁ想定内だ。


 リッキーは言う。


「王都の騎士団はプライド高いって聞くし……処刑なんてことになったら被害は少ない方がよくない?」


「処刑なんて結末があるの? 衝撃の事実だ。衝撃だわー」


 色々と懸念があるのは確かなことだが、俺達が不安に対して、やや楽観的でいられるのは確かな成果があるからだろう。


「でもやってやった感はある。パワードスーツに関しては非の打ち所がない」


「確かに。まさか本当に倒せるもんだとは思わなかった」


 驚くべき性能を発揮したパワードスーツは竜を撃破するという見事な成果を成し遂げた。


 俺とてこのパワードスーツに異世界人生懸けていたのも本当である。


 そして俺は賭けに勝った。勝ったと言えるはずだった。


 テラさんも報告という名の自慢を始めた。


『当然です。我が基地のパワードスーツが、モンスター程度に後れを取ることはありえません』


「得意げだ」


「得意げだね」


『そのような事はありません。スペックから計算した客観的事実です』


 俺は完成したスーツを改めて眺める。


 現在再調整中のパワードスーツはその白く美しいボディが一層輝いて見えた。


 もちろん調整作業も一層力が入ったわけだが、残念なことに今動かすわけにもいかないらしい。


 俺は残念さが溜まりに溜まって、重いため息をこぼした。


「……次、日の目を見るのはいつになるかな」


「……まぁ、騎士団が帰ってからじゃない?」


「そだね……早く帰らねーかなあいつら」


「すぐ帰るでしょ。もうドラゴンはやっつけたんだから」


 リッキーが言うように、そうなってくれることを祈るとしよう。


 そう、問題は騎士団なんだ。


 ドラゴンを先に討伐しようとしていた騎士団の手柄を横取りしたのがそもそもまずかった。


 噂になっているという事は、彼らがその横取りした犯人を探している可能性がある。


 だが別にドラゴンを個人で討伐することが犯罪というわけではない。


 ここにやって来た目的であるドラゴンがいない以上、こんな辺境でいつまでもよくわからない相手を探している暇もあるまい。


 それまでは残念だが、実験はよほどのことがない限り自粛しようというのが今後の方針だった。


「ふーむ。今日は鉱山の方はお休みだし。ゴミ山の整理とか、筋トレに精を出すかね」


「僕は、少し装甲を調整しとくよ。正直想定がだいぶ甘いところあったし。ドラゴンとはいやはや、無茶するよ」


「想定が甘いって何リッキー? ひょっとして炎防げたの偶然?」


「……」


『それでは、しばし解散といたしましょう。各々見えた課題は多いですし』


 全く以てその通り。課題は山積みだ。


 俺にしても実際にスーツを使ってみてわかったことも多い。


 練度不足もだが、ひどい筋肉痛やできた傷でズキズキ痛む体もその一つだろう。


「まぁ改善点はまだまだ多いね」


「……そう言うことだね」


 何はともあれ俺達は気楽に考えていたのだが―――




「―――おかしな人間がいると聞いて足を延ばしてみましたが。まさか貴方のことだとは思いませんでした。無駄足でしたわね」


「……」


 そのほんの数日後に、来客に対応して玄関を開けると、そこには赤毛のドリルの女神様が家の玄関先に立っていた。

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