第17話

  俺が何とかゴミ山にたどり着くと、そこではリッキーが大慌てで両手を振っていた。


 ああ、とりあえずこれで一安心だ。


 そう考えた瞬間、体から今度こそ力が抜け、着地したとたん崩れ落ちた俺にリッキーは走り寄ってきた。


「おおーい! ど、どうだった! っていうか血まみれ! あ! でも目は光ってる! 意識はあるね!」


「……お、おう」


 竜の返り血やらなんやらでぐちょぐちょの俺にリッキーはドン引きだったが、俺は回らない頭で一言呟いた。


「つ、疲れた……」


 だがしかしこれだけはやっておかねばと俺は期待の眼差しを向ける友人に戦果の報告をした。


「でも……! 倒したぞドラゴン!」


「ほ! ほんとに!?」


「ああ! すごいぞこのスーツ! ドラゴンにも負けない! パワーもスピードも! どれをとってもやばい!」


「僕の装甲は!」


 何よりもそこが気になるらしいリッキーに答えたのはテラさんだった。


『素晴らしい効果でした。ドラゴンの炎をあそこまで見事に防いだのは貴方の装甲の効果でしょう』


「ああ! 熱への耐性は特別気を使ったよ! でもドラゴンの炎を防いだか……僕の装備が……うぅ~最高だ!」


 両手を上げて喜んでいるリッキーだったが、俺は今更ながら重要なことを思い出してハッとした。


「と! そうだ! 喜んでばっかりもいられないんだった! 俺達より先にドラゴンと戦ってるやつらがいたんだよ……」


「へ? なんだいそれ?」


 町の危機は去ったがむしろ俺達の危機はこれからである。


 俺にはドラゴンを討伐に来ていた人間に少し心当たりがあった。


 倒れていた彼らの鎧のデザインは俺もかつて見たことがあるモノだったからだ。


「たぶん王都から騎士団が来てた……その戦いに俺は割り込んだみたいだ」


「へ? それって騎士団の獲物を横取りしたってこと? ……そりゃ、まずいよ」


「……やっぱまずい? ほとんど気を失っていたみたいだったんだけど」


 リッキーは顔色を悪くしていたが無理もない。王都の騎士団といえば強大な魔法を操ることで知られている強力な軍隊だ。


 そしてそのほとんどを貴族の特権階級で構成された権力者でもあった。


「見られた?」


「……たぶん、後ろ姿だけ?」


「目撃者いるの!?」


「いたなぁ……だが安心しろリッキー。俺はちゃんと顔を隠していた!」


 ほら役に立ったとヘルメットを叩いて勝ち誇る俺にリッキーは鋭くツッコミを入れた。


「その鎧自体が恐ろしいインパクトだよ!」


「……まぁね」


 言われてみればこの鎧ほど印象的な物もそうないだろう。なにせかっこいいし。


 だが中の人がバレていないなら、今まで秘密にしていたことが助けになるはずである。


「まぁ俺達には簡単にたどり着かないさ……とにかく今はよしとしておこう。 急いで地下に隠せば問題ない」


「もう! 状況を見て、やばかったなら引き返してきなよ!」


 リッキーはそう言うけれど、どう考えてもあの土壇場でそんなことできるわけもなかったんだからしょうがないと思う。


「俺もあんまり余裕なかったの。相手ドラゴンだぞ? すっげーでっかいんだ」


「わかるけど! ああいう人達もその気にさせたらおっかないんだよ! 場合によってはドラゴン以上に!」


「わかってるから急いで急いで……正直俺はもう限界だ」


 リッキーの言ってることはよくわかるが、早いところ諸々地下に隠さねば。


 俺達の撤収作業は実に速やかに行われたのだった。




「これは……ドラゴンですな」


「ええ、報告に会ったもので間違いないでしょうね」


 すでに息絶えたドラゴンの死骸を前にしてシャリオは状況を確認していた。


 自分の手勢で森の中を探索していたのが今朝の事。


 遭遇の知らせを受けて急いで来てみれば、このありさまだった。


 逃げ遅れた兵士たちは負傷。死者が出ていないのは幸いだったが、このドラゴンを倒したのが自分達でないのは問題だった。


「すごい大きさですね、さぞ強力な個体だったでしょう。いったい誰が……」


「わたくしは……一瞬だけ見ましたわ」


「本当ですかお嬢様?」


「ええ。あれは……白い鎧の騎士が一人。そう見えました。人間に見えましたが……」


 そう形容するしかない、全身鎧を着た誰かがドラゴンを倒した。


 状況からもそう考えて間違いない。


 しかしシャリオが考えを口にすると、ジャンは困惑していた。


「一人で……このドラゴンを倒したと?」


「そう言うことになりますね」


「だとすれば、驚異的な戦闘能力です。それこそ勇者の様ですね」


「……ええ。私もそう思うわ」


 勇者は最近王都で、魔王討伐という偉業を成し遂げた戦士だ。


 今は王都にいると聞いているが、シャリオにまだ面識はない。


「……少し調べてみましょうか?」


 シャリオはほんの少しだけ興味を持って、ドワーフの町に視線を向けた。

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