第6話

 ちょこっとリッキーのテンションが思っていたのと違ったがまぁよし。


 これで計画始動である。


 さて住居のある場所がゴミ山だという関係上、友人を家に招く機会というのは実はあまりない。


 もちろん秘密基地の中はなおさらである。


 掃除をした基地内には、一応申し訳程度に丸い机と椅子を用意。


 そしてもちろん今日の本題も綺麗に磨き上げて、目につくところに配置済みである。


 そして本日のスペシャルゲストリッキーは、地下の扉に案内すると不安そうにビクつき始めた。


「えぇー……なにここー」


「トッテモイイトコロダヨ……さぁ入って入って」


「ええぇ……」


 俺は強引にリッキーを地下基地に案内し、電源を入れると照明が秘密基地とパワードスーツの姿を照らし出した。


「さぁお披露目だリッキー……これがパワードスーツだよ!」


「おぉ?」


 すると予想通りに、リッキーはパワードスーツに興味を示した。


 未知の金属で構成された不可思議な鎧が彼の琴線に触れない訳がない。


 その目はまさに職人の物で、リッキーは至近距離でスーツの隅々まで細かく観察し始めた。


「うわ! なにこれ鎧? 見たことない金属だ……」


「なんたってナノ・メガロニウム製だからね! 重量も恐ろしく軽い」


「えー、何その金属。潰して素材にしていい?」


「ダメ。こいつには動力があって中の人の動きに合わせて鎧が補助するんだ。かなりパワーはあると思う」


「へぇぇ。鎧で魔法の肉体強化みたいなことができるのかな? 鎧そのもので動きを補助しようって? 珍しいなぁ……装甲が最低限なのはあたらない事前提ってことなのかな? 魔法と戦うため? 速さ自慢の人は軽装好きな人いるもんなぁ」


 だんだん早口になっているリッキーはノッていた。


 これはいける。そう判断した俺はさっそく依頼の話を切りだした。


「俺はこいつをきちんと動かせるように完成させるつもりなんだ。それで……リッキーにもお願いしたいことがある。こいつにピッタリ合う装甲を作ってほしいんだよ! 出来れば全身覆うやつをさ!」


 俺はありったけの情熱を込めてリッキーに説明した。


「ええ? でもせっかく補助した動きの邪魔にならない?」


「いや、たぶんこれ多少装甲を足したくらいで機動力が落ちるようなやわなパワーじゃない。元はなにか……防御力を補う装備が別にあったんじゃないかな? だから装甲は絶対いる。まぁ? パワードスーツなんだから。硬くて、強くて、速いのは基本かなって」


 少なくとも俺はパワードスーツと名乗るなら、現状ないも同じな防御力の強化は必須だと思うのだが、リッキーはあきれ顔だった。


「だいぶん無茶言うよね」


「大事なことだとも。でも一番大きな理由はだ……デザインが気に食わない」


「……えー? 夢そのものなんじゃなかったの?」


「だから妥協は許せないの! 頭の先から足のつま先まで俺好みにしたいの!」


 俺はこいつをよりカッコイイ鎧にしたい。


 そのためには違和感なく装飾を付け足せる凄腕の職人の助けが必要なのだ。


 特に『カッコイイ』のところが重要だった。


 この熱い気持ちは、イケてる職人であるリッキーにも伝わったようだった。


「……ちなみにどんなのにしたいとか、あるの?」


「……うむ。実はここにすでにイラストに起こしてある。こいつを参考にぜひお願いしたい」


「イラストォ?」


 若干勢いに圧されて引き気味にも見えるリッキーに俺は渾身のイラストをババンとたたきつけた。


 それを見たリッキーは、若干苦笑いを浮かべていた。


「あーなるほど……ずいぶん凝ってるなぁ」


 リッキーは難しい顔をしていたが、不可能ではないようにテラさんと検討を重ねたから、無茶はないはずだった。


「そりゃあ、連日にわたって考えに考え抜いた力作だからね……できない?」


「いや……できる。できるとも」


 戸惑ってはいても、リッキーは断言した。それでこそリッキーである。


 俺は改めてリッキーの重要性を再確認して目をきらめかせていると、リッキーは引きつった笑いを浮かべた。


「ええっと。まぁ僕としては面白そうだし、その仕事を請け負ってもいいんだけど……」


「だけど?」


 言い淀むリッキーに続きを促す。


 するとリッキーは一瞬だけためらいを見せ―――。


「でも、その……すごくお金かかるよ?」


 そしてリッキーは非常に現実的なセリフを口にした。


「あっ、やっぱりいる?」


 まぁそりゃそうだろうと思いつつ口に出してみると、リッキーからはあきれ声が返ってきた。


「当り前じゃないか。鎧に使う材料だってタダじゃないんだから」


「ですよね~」


 そりゃそうだ。


 こんなものをいじるのに材料費すらかからないなんてことはない。


 しかし俺にもちゃんと考えがある。


 俺はさっそく今回最後に出すはずだった切り札を披露した。


「なら……これでどうだろうか?」


「へ?」


 中身のぎっしり詰まった布袋を円卓に置くと、ドスリと重い音がする。


 俺が出したのは単純にお金だった。

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