第5話 回復

深く 深く 落ちる

何も見えぬ 深淵に


深く


深く



何かが ある

見えはしない


しかし そこにある



あれは




「...なんだかいつもよりも長く夢を見た気がする」


知らない天井を見ながら、俺はそうつぶやいた

ここはどこだろうか

なぜ俺は、ここにいる?家に帰ったはずでは...


「ッ!?」


少し前に体験したことを思い出し、身体に衝撃が走る

恐る恐る手を背中の方に伸ばす


...背中に傷はなかった

傷つけられたような後すらなかった


「...どういうことだ?」


自身のみに起こっていることがわからず、考えていると


「あっ!目が覚めたの!?」


聞き覚えのある声が部屋の中に響いた


「大丈夫?どこか痛かったり、気分が悪かったりしない?」

少女は近くに駆け寄ると、俺の身体を観察し始めた。


「...特に痛いところはない、と思います」

「よかったー...って言ってる場合じゃない。とりあえず先生呼んでくるから!」


少女は嵐のように去って行った

にしてもここはどこなのだろうか

窓がなく、外の景色が見れないため、今の時間もわからない

それに俺は、あのタイミング、明らかにナイフで切られたことは感じていた

それなのに痛みがないどころか、傷すらも残っている気配がない

治してもらったにしては明らかに治りすぎている


しばらく待っていると白衣を着た黒髪のショートカットで知的な雰囲気を感じる女性が表れた


「おや、思っていたより元気そうで安心したわ」

「...あなたは?」

「はじめまして、坂田正人君。私は更科真結さらしなまゆ。この場所で研究を行っている研究者の一人よ」

「...はじめまして、坂田正人です。...どうして名前を?」


どこかであったことがあるのだろうかと疑問に思っていると


「あぁ、私たちは初対面よ。ただ、ここに運び込まれる段階である程度調べさせてもらったのよ」


人としてのプライバシーを完全に否定された状態に思わず絶句した

が、助けってもらった事は事実だ


「...助けていただきありがとうございます」

「かまわないわ。あなたは巻き込まれただけだからね」


そういえば、助けてくれた少女も「巻き込まれた」と言っていた


「今までも一般人が巻き込まれることはあったけど、例はかなり少ない方なのよ。だから一旦身柄をこうそ...コホン、保護したのよ」

「...今なんか不穏な言葉が...」


今明らかに拘束って言おうとした気が...


「あなたも色々聞きたいだろうけど、とりあえず先に健康状態を確認させてもらうわ」

「...お願いします」


その後、俺は更科さんの診察を受けた


「ひとまずは大丈夫そうね」

「...ありがとうございます」

「さぁ、聞きたいこともあるだろうし、何でも聞きなさい」

「...俺は、明らかにナイフで切られたはずです。なのになぜか傷は残っていないし、痛みもない。それにこの場所はどこですか?あと...」

「一つずつ答えるから、そんなにいっぺんに質問しなくても大丈夫よ」


少し焦っていた俺を、更科は落ち着かせるように言った


「まず、あなたは確かに斬られた、背中をね。ただ、あの武器は肉体を傷つける物ではないの。」

「...どういうことですか?」

「あの武器は肉体ではなく、精神を斬る武器。だから血は出ることがなかったの。それに、あなたは血ではなくなにか別の物が抜けていく感じがしたでしょ?」


確かにあのとき、斬られたのに血は出ておらず、傷口から別の何かがこぼれ落ちていくのを感じていた。それは血ではなく、精神力であったということらしい。


「ただ、これが非常に厄介でね。血は輸血とかで対処可能だから通常の病院で入院することになる、だけど精神力の治療は通常の病院で行えることではない。これがここに連れてこられた理由よ。」

「...ということは、ここは?」

「ここは夢に関する研究を行う研究所兼夢に関する病院ね」

「...精神病院?」

「うーん...近いけど違うわね。夢に関するってところが重要よ。」


少なくとも通常の病院ではないことだけはわかった


「他に質問はある?」

「...」


自身の身体が大丈夫であることはわかった。それに加えてここがどこかも。

それ以外で聞きたいことは...


「...なぜ俺は襲われたのでしょう。それに色々よくわからないことが起きたんです」


その質問に、更科はニヤリと笑い、答えた

「良い質問ね。私たちはそのよくわからないことや一般人が襲われることを解決するために存在するの」


更科は一度そこで言葉を切り、一呼吸置いてから再び答えた


「私たちは夢に関する病院。夢現現象によって世界に起きている災害をするため存在する組織、夢現災害対策班よ。政府からはと呼ばれてるわ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

正夢か 逆夢か @TEKOSAN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ