ライナス vs アレン②



夜の闇に包まれた廃墟の中、アレンとライナスの戦いは激しさを増していく。火花を散らしながらぶつかり合う剣からは、かつての友情の記憶と今の憎しみが交錯するように、切迫した空気が漂っていた。


ライナスは額に汗を浮かべながらも、アレンの冷酷な瞳をじっと見据えていた。「…アレン、どれだけお前が強くなったとしても…この戦いが、王国に何をもたらすんだ?」


その問いに、アレンは顔を歪めながら答えた。「何をもたらすか?俺が求めているのはただの復讐だ…俺を裏切り、処刑した連中への復讐。それ以外に何がある?」


「お前が望んでいたのはそんなことだったのか?」ライナスは、かつてのアレンの姿を思い返しながら問い続けた。「お前は、かつて多くの人々を救うために剣を取ったはずだ。俺たちの仲間だって、あの時お前の意思を信じて共に戦ったんだ」


その言葉に、アレンの瞳が一瞬揺らぐのをライナスは見逃さなかった。


「黙れ…」アレンは唇を噛み締め、再び冷たい表情を取り戻そうとしたが、かつての自分を思い出すかのように、わずかにその手が震えていた。「もう過去のことだ。俺は、お前たちの知っているアレンじゃない」


しかしライナスは、再び剣を握り直し、真剣な表情で語りかけた。「たとえお前が何者になろうとも、俺はお前を見捨てるつもりはない…アレン、お前をこのまま放っておくことなんてできないんだ」


アレンはその言葉に驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を硬くした。「偽善はやめろ…俺は、王国に裏切られたんだ。それに――」彼は視線をそらし、低く呟いた。「もう、戻る場所なんてない」


**


そのとき、突然周囲の空気が変わり、遠くから低くうなるような魔族の声が響いてきた。アレンの背後から現れたのは、彼に忠誠を誓った魔族の一団だった。血のように赤い瞳が不気味に輝き、ライナスを睨みつけている。


「アレン様、我らが貴方の復讐を果たしましょう」


魔族たちは一斉にライナスに向かって襲いかかろうとした。しかし、アレンは一瞬、ためらいの表情を見せた。「…待て」


魔族たちは驚きながらアレンを見たが、彼は何も言わず、ただ視線をライナスに向け続けた。その眼差しには、復讐の炎とともに、かつての仲間に対する微かな情が見え隠れしていた。


ライナスはその瞬間を逃さず、静かにアレンに語りかけた。「お前が望むのは、本当にこんな復讐なのか?それが、本当にお前の心が求めているものなのか?」


アレンは答えず、ただ硬い表情のまま立ち尽くしていた。胸の中で渦巻く複雑な感情が、彼を動かせないでいた。しかし、その心の奥で、かつての誇り高い自分が僅かに目を覚まそうとしているのを感じていた。


**


一瞬の沈黙の後、アレンは小さく息をつき、ライナスに静かに語りかけた。「…ライナス、お前には関係ない。俺の決断だ」


そう言うと、再びアレンは剣を構え、冷たい決意を宿した瞳でライナスを見据えた。しかし、その瞳にはまだ僅かな迷いが残っているようだった。


「ならば…俺はお前を止めるために全力を尽くすだけだ」ライナスは覚悟を決め、剣を持つ手に力を込めた。「お前が何者になっていようと、俺はお前と戦うことを決して諦めない!」


そして、二人は再び剣を交え、激しい戦いが再開された。その戦いの中で、アレンの心に少しずつ揺らぎが生まれていく。そして、ライナスとの対峙が、かつての友情と復讐の狭間で彼の心を試していくのだった。

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