ライナスの葛藤
夜明け前、ライナスと近衛剣士たちは廃墟と化した村に到着した。辺りは静寂に包まれていたが、焼け焦げた瓦礫や死体の山が、その惨劇の凄まじさを物語っている。
「これが…アレンがやったというのか…」
言葉を失う隊員たちを背に、ライナスは静かに剣を握り締めた。遠くで冷たい風が吹き、闇の中から彼を見つめる何者かの視線を感じる。
その視線は、まるで自らに問いかけているかのように鋭く冷ややかだった。
「アレン、お前が戻ってきたのならば、俺は…」
ライナスは自分の中で葛藤を抱えながらも、覚悟を決めた。この戦いがただの討伐ではなく、因縁の決着であることを彼は理解していた。
「行くぞ。王国に仇なす者には、容赦せぬ」
ライナスはそう呟き、闇の向こうに向かって剣を構えた。その先には、かつての仲間であり、今は憎むべき敵となったアレンが待っているのかもしれなかった。
* * *
村の中心に立つ廃墟の影の中で、アレンが静かに待っていた。その姿はかつての勇者の面影を残しつつも、冷酷な魔族の気配を漂わせている。かつての仲間たちでさえ、その様相を見て怯えるほどの変貌だった。
ライナスはアレンを見据え、剣をゆっくりと引き抜いた。「…アレン、お前が生きているとはな」
「生きている、か?」アレンは皮肉げに微笑みながら、視線を鋭くライナスに向けた。「いいや、俺はもう“人間”じゃない。ただの“復讐の化身”さ」
その言葉に、ライナスは一瞬、心が揺らぐのを感じた。しかし、すぐにその感情を押し殺し、冷静な態度を崩さない。「お前が人間の村を襲ったと聞いて、俺たちはここに来た。王国に仇なす魔族を討つためにな」
「王国?あの裏切り者たちのためにか?」アレンの瞳には怒りと憎しみが宿り、まるで燃え上がる炎のように激しい視線でライナスを睨みつけた。「俺を見捨て、裏切り、そして処刑した連中が支配する王国なんぞ…もう俺には何の価値もない!」
彼の体から噴き出す魔力が、黒い霧となって広がり、周囲の空気を重く、息苦しいものに変えていく。剣を構えた近衛剣士たちが動揺し、恐怖を感じたのが一目で分かった。
ライナスは部下たちに一瞬だけ目を向け、静かに命じた。「怯むな。お前たちも王国を守る者として、覚悟を持て」
その言葉で剣士たちは気を引き締め、再びアレンに剣を向けた。だが、アレンは冷笑を浮かべ、腕を広げた。「本気で俺を止められると思うのか?かつての勇者、今は魔族となった俺を…」
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