近衛騎士ライナス



王城の広間に、ひときわ重い沈黙が流れていた。夜の静寂を破り、一人の兵士が血相を変えて駆け込んできた。


「報告します!村が魔族に襲われ、甚大な被害が出ています!」


その言葉に、王や重臣たちは色を失った。魔族の襲撃はそう珍しいことではなかったが、今回の被害報告には異常な点がいくつもあった。


「ただのゴブリンや低級魔物ではないのか?」大臣が不安げに尋ねる。


「いえ、今回の襲撃者は高位の魔族と見られ、村全体が焼き払われ、逃げ延びた者もわずかだと…」


その報告を聞いた途端、王は即座に対策を指示した。「近衛隊を派遣する。奴らの動きを止め、被害が広がらぬようにせよ」


王の命令に応じ、広間の奥から近衛剣士隊の一人が進み出た。その男は冷静な瞳で王に一礼し、静かに剣の柄に手を置いた。彼こそ、かつてアレンを処刑した近衛隊長、ライナスだった。


「ライナス、そなたに任せる。我が王国を脅かす魔族を一刻も早く討伐するのだ」


ライナスは無言で頷き、顔に決意を浮かべた。アレンを処刑した際の光景が、頭の片隅によぎる。あの時のアレンの瞳には、未だ見ぬ光が宿っていたのを覚えている。


「あの時の処刑は…本当に正しかったのか…?」


一瞬迷いが胸をかすめるが、ライナスは自らを戒め、覚悟を新たにした。彼の任務はただ一つ、王国を守ることであり、過去の決断を悔いる余地はなかった。


「王よ、必ずや討伐を成功させ、この脅威を取り除きます」


ライナスは深く一礼し、近衛剣士たちを率いて広間を後にした。

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