成れの果て



森の中に佇むアレンの姿は、もはやかつての「勇者」ではなかった。彼の目には冷たい光が宿り、その体から放たれる圧倒的な魔力が周囲の空気を重くしている。


「…人間どもが、俺を裏切った報いを受ける時だ」


彼の中には憤怒と冷徹な復讐心が燃え盛り、理性を呑み込んでいく。もはや「かつての仲間を助けたい」という純粋な思いは消え去り、「裏切り者を滅ぼす」という決意だけが彼を突き動かしていた。


アレンはそのまま森を抜け、人間たちが暮らす小さな村へと足を向けた。


**


夜が更け、村は静寂に包まれていた。人々は眠りにつき、家々の灯りも消えている。そんな中、黒い影が静かに村の入り口に現れた。アレンだ。


「ここも、俺を見下していた連中の一部だろう」


彼はそう呟くと、手をゆっくりと前にかざした。すると、彼の指先から漆黒の魔力が渦を巻き、暗闇の中に不気味な光を放った。


「…まずは、力の片鱗を見せてやる」


彼は魔力を放ち、村の中心にある井戸の辺りへと向かわせた。途端に激しい爆音が響き渡り、井戸が吹き飛ぶように破壊される。その衝撃で地面が揺れ、家々の窓ガラスが割れ、村全体に緊張が走った。


「な、なんだ!?」「地震か!?」


村人たちは目を覚まし、パニック状態で家から飛び出してきた。だが、彼らが目にしたのは、一人の青年――かつての勇者でありながら、今は恐ろしい魔族となったアレンの姿だった。


「お前らが…俺を裏切った人間どもか」


アレンの冷たい声が響くと、村人たちは困惑と恐怖の表情で彼を見つめた。彼らの中には、かつてアレンを知っている者もいたが、その面影を感じさせない冷酷な表情に、誰もが息を呑んだ。


「な、なんでアレンがこんな…?」


「あの冒険者が…魔族に…?」


アレンは村人たちの反応を楽しむかのように笑みを浮かべ、手を再びかざした。「俺を陥れた者たちには、この村の連中も含まれている。だから、全員に…報いを受けてもらう」


言葉と共に放たれた魔力の波動が、村人たちを吹き飛ばし、家々を次々と崩壊させていった。村人たちは叫び声を上げ、必死に逃げようとするが、アレンの魔力の前では無力だった。


「助けてくれ…!」「なぜこんなことを…」


叫び声と嘆願が響き渡るが、アレンの心は微動だにしなかった。彼の心には復讐の念が支配しており、かつての人間らしい感情はすでに消え去っていた。


「これが裏切りの代償だ」


アレンは最後にもう一度魔力を解放し、村を闇に飲み込んだ。彼の冷酷な視線が夜の中で光を放ち、全てを破壊した後、静かにその場を去っていく。

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