勇者アレン、魔族となる
アレンとロキは、ギルドから受け取った地図を頼りに森を進んでいた。木々の間を通り抜け、ゴブリンの巣に近づいたその時、突然、冷たい空気が漂い、二人の全身に緊張が走った。
「なんだ…この感じは…?」ロキが険しい表情であたりを見回す。
その瞬間、茂みから黒い影が現れた。異様に長い腕と鋭い爪を持ち、異形の姿をした魔族だ。普通のゴブリンとは比べ物にならない圧倒的な威圧感を放っている。
「まずい…!これはただのゴブリンじゃない、魔族だ!」アレンは咄嗟に剣を抜くが、身体が震えていることに気付く。
魔族はにやりと冷笑を浮かべ、二人を睨みつけた。「こんな雑魚が俺の領域に踏み込むとはな。少し遊んでやるか…」
アレンとロキは一斉に攻撃を試みるが、魔族の動きは速く、彼らの攻撃を軽々とかわしてしまう。それどころか、魔族の反撃は容赦なく二人を叩きのめし、地面に倒れ込んだアレンは呼吸も苦しく、全身が痛みに包まれていた。
「…くそ、俺たちじゃ、太刀打ちできない…」
ロキも血を流しながら、立ち上がろうとするが、魔族は冷ややかな目で見下ろしている。「弱い者は、ただ散るだけだ…」
魔族が最後の一撃を振り下ろそうとしたその時、何かがアレンの中で弾けるような感覚がした。ぼやける視界の中で、魔族の姿が近づく。もはやここまでかと覚悟を決めかけたその瞬間、魔族が低く笑いながら言った。
「だが、お前には少し興味がある。俺の血を分け与えてやろう。この血を受け入れられるならば、生き延びることができるだろう…もっとも、その代わり、ただの人間ではなくなるがな。」
アレンは何が起こっているのか理解できなかったが、抵抗する力も残っていなかった。魔族は鋭い爪で自らの腕を切り裂き、そこから溢れる血をアレンの口元に押し当てた。
「さあ、飲め…そして、新しい力を得るがいい…」
その血が喉を通った瞬間、アレンの体に異変が走った。全身が熱くなり、苦痛が湧き上がる。その痛みは想像を超えており、叫び声をあげずにはいられなかった。しかし、その痛みの中で、彼は確かに何かが変わっていくのを感じていた。
「ぐ…ああああっ!」
体内に力が満ち、視界が鮮明になる。かつて味わったことのない感覚が彼を包み込んでいた。自分が自分ではない、何か別の存在になったような気がする。しかしその一方で、復讐の炎がさらに強く燃え上がっていくのを感じた。
アレンはゆっくりと立ち上がり、その瞳はかつての温かみを失い、冷たい光を放っていた。
「これが…魔族の力か…」
彼の変貌に気付いた魔族は驚いた表情を浮かべたが、すぐに口元に不敵な笑みを浮かべた。「よくぞ耐えたな。だがその代償として、お前は人間を超えた存在になった。今後は自らの欲望に忠実に生きるがいい…」
だがアレンは冷静に、その言葉を聞き流した。彼の心にはただ一つ、「復讐」の二文字が刻まれているのみだった。
「俺を裏切った連中に、この力で報いを与えてやる…」
その瞬間、彼の身体から溢れる魔力が周囲を圧倒し、彼をただの人間ではなく「魔族」として蘇らせたことを証明していた。
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