第18話 策&散髪

 ピピッ、ピピッ♪ピピッ、ピピッ♪


「ん……」


 眠い…。


 けれど今日は、龍生が出院する日だ。

 あいつは絶対に僕を恨んでいるはず…。だから今日寝坊して学校を休むと龍生に面倒な噂を流されるはず…。


 だからなんとしてでも寝坊なんて出来ない!


 僕は、慌てて体を起こしてスマホのアラームを止めた。


 僕は眠い目をこすりながら階段を降りて、リビングにいる妃菜に「おはよう」と言って、洗面所に向かった。


 バシャッ!!


 やっぱり朝目が覚めないときは顔を冷たい水で濡らすのに限るな。


 あれ…?僕ってこんなに髪長かったっけ…。

 今週末にでも切りに行こうかな。


 僕は、目が覚めたのでご飯を茶碗によそいながら妃菜に聞いた。


「妃菜。近くにいい理容室ないか知らない?」

「理容室かぁ……。私はいい美容室しかしらないね」

「美容室…かぁ……」

「お兄ちゃん?実は、美容室って男の子でも行っても行けるんだよ?」

「え?そうなのか!?」


 そんなの知らなかったぞ…。

 妃菜はどこでそんな情報を知ったんだ!?

 やっぱり女子の力ってすげぇ……。


「でも、ちょっと入りにくいかな…?」


 そう言うと妃菜はふふん!と鼻を鳴らしながら言った。


「だったら今週末私と一緒に行っちゃう?」

「え…?考えとくよ…!」

「わかった!」


 そう言って妃菜は、花歌を歌いながら制服に着替えるために自室に入っていった。


 美容室……か。

 今までの暗い髪型から変われるかもしれないから、前向きに考えておこう。


 僕は遅刻しないようにササッと朝食を食べて、制服に着替えて洗面所の前に立った。


 正直髪が長すぎて悪印象しかない。

 目の下まで伸びてる長い前髪。長すぎていつも治さずにいる寝癖。

 それに、長くてドライヤーで乾かすのが面倒で髪を乾かしていないからか、髪のツヤがない。


 これを機に頑張ってみるのもいいかもしれないな…。


 あ…時間が。

 僕は、急いでご飯を口にかきこみ、味噌汁で腹に流し込んだ。


 僕は遅刻すると思い、急いで家を出たが、校門が見えてきた頃に時計を見たら、時間にはまだ余裕があった。


「響おはよう!」


 この元気の良さは…


「おおのしん、おはようございます」

「響。今日から龍生が登校するけれど大丈夫か?」


 龍生が少年院に入ったのは僕への暴行。だから、おおのしんは龍生が僕のことを恨んでないかを心配しているようだ。

 けれど、龍生は少年院でしっかり更生したと聞いている。だから大丈夫だろう。


「問題ありません!」

「わかった。けれど何かあれば俺に頼れよ」

「ありがとうございます」


 僕は、自分の教室に行ってもみんないつもと変わらないようだったので、どうやら本当に龍生は更生したようだ。

 これで、龍生のせいで誰かが苦しむことは無くなるだろう。

 良かった。本当に良かった…。



 ──日向 龍生──


 俺は今日から中学校に復帰する。

 正直だるいが、少年院と比べたら断然マシだ。

 少年院…。

 零覚えていろよ。散々殴りやがって…。


 俺は気づいてしまった。自分の手を汚さなくても、金の力で他の人に手を汚させればいいということを。

 俺に恥をかかせた平野 響、平野 響の妹。俺を裏切った菊池 冬美。犯罪者の分際で俺を殴った零。お前ら全員地獄行きだ!


 待ってろよ…?

 俺がお前達を地獄に落とす最高の策を考えてやるよ。



 ※

(日曜日)


 僕は、ベットの上で一昨日の出来事を思い出していた。


 ☆☆☆


「妃菜。良かったら今週末におすすめの美容室教えてくれないか?」

「えぇ〜!?何も言われないからお兄ちゃん忘れてるのかと思ったよ!」


 そう言いつつも、妃菜は目を輝かせながらスマホを操作しだした。


「よし。お兄ちゃん日曜日空いてるらしいから日曜日に行こう!」

「わかった。ありがとう!」


 ☆☆☆


 今日は、人生初の美容室に行く日。

 正直美容室は、女性の方が行くところだと思っていたから少しドキドキしている。


「お兄ちゃ〜ん?準備できてる〜?」

「あぁ!今行く!!」


 僕は、リビングにいる妃菜に準備が出来ていることを伝え、僕は財布とスマホの入った鞄を持って僕は、リビングに降りた。


 僕と妃菜は、家から徒歩10分ほどのところにある美容室に来ていた。


「お兄ちゃん緊張しすぎ!めっちゃ顔に出てるよ」

「だって、美容室初めてなんだからしょうがないだろ?」

「大丈夫だよ?美容室に通う男の人もいるから!」

「そう、なのか…?」


「平野くんどうぞ〜」

「あ、呼ばれたね?緊張しなくても大丈夫だよ〜」


 妃菜は、僕が店員さんに呼ばれてからも緊張をほぐしてくれた。


「今日は、どのような感じにしますか?」

「え…っと……。似合う髪型にして欲しい…です」

「わかりました〜!では、初めに髪を濡らしますので、椅子倒しま〜す」


 そう言って、店員さんは椅子を倒し、髪を濡らしてから慣れた手つきで髪を切っていった。


 僕は耳の裏が弱点なので、バリカンが耳の後ろを通る度に「ひゃっ!」と声を出してしまって、すごく恥ずかしいと思っていたら、「耳の裏が弱点な方は多いので安心してください」と、店員さんは言ってくれた。


「では、切れましたので最後に頭を洗いますね〜」


 そう言ってまた椅子を倒し、店員さんは僕の頭を洗ってくれた。

 自分で頭を洗う時よりも、遥かに気持ちが良くて、寝てしまいそうだったけれど、頑張って堪えた。

 それから、ドライヤーで髪を乾かしてもらった。


「終わりました!どうでしょうか?」


 そう言って店員さんは鏡を使って僕が正面と後ろ側、全て見えるようにしてくれた。


 おぉ!僕が僕じゃないみたいだ…!

 これは、ツーブロックってやつか?

 これから髪を切る時はこれにしてもらおう。


「正直、想像よりも凄くいいです!」

「そうですか!喜んでもらえて良かったです!」


 店員さんは、にっこり笑って僕の服に少しだけ着いていた髪を小さいホウキのようなものではらってくれた。


「髪の細かい手入れは妹さんに聞いてみてください。毎日続けると、今よりもっと良くなるはずですよ!」

「わかりました。また来ます!」


 僕はそう言ってレジに向かった。

 4000円……。

 中学生にしては高い。(ちなみに以前行っていた所は2500円だった)


 けれど、ここまでいい感じにして貰えたんだ。このぐらいの値段がして当然だよな…?


 僕は、この値段を忘れるために会えてプラス思考でお金を払い、店を出た。


 頭がスッキリする。

 なんか元気出てきた!


「お兄ちゃん!その髪型、すごく似合ってる!」


 妃菜に言って貰えたこの言葉が何よりも嬉しかった。

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