第17話 日向 龍生の、少年院での1日

 ──日向 龍生──

(龍生が響に暴行を加えた次の日の朝)


 7:00 起床

 昨日はストレスですぐに寝付けなかったからすごく眠い。

 本当はもっと寝たいけれど、早く起きなければ俺はどうなってしまうか……。


 7:30 朝食

 いつも一流シェフが高級な食材を使って作ったご飯を食べているからものすごく不味く感じてしまった。

 どうして俺がこんな思いを…。


 8:00〜 授業

 少年院でも授業があるなんて知らなかった…。

 中学校を休んでいるのに授業をしないといけないなんて、最悪じゃねぇかよ。


 12時 昼食

 相変わらずここの食事は不味い。

 早くここから出たい。

 お父さんはまだなのか?


 13:00〜 授業

 授業を受けるのがめんどくさかったので、授業中に寝たら直ぐにバレて「犯罪者くんのためにわざわざ教えてんのにお前が寝たら意味がねぇだろ?」と言ってブチ切れられた。

 一般人のくせに調子乗んじゃねぇよ。


 16:00〜 運動

 やっと外の空気が吸える。

 俺の想像していた少年院は、『刑務所』という感じだったので、想像よりは開放感があったけれどやっぱり外の空気を吸わねぇと頭も痛くなる。


 他の人達は、ボールを使って遊んだりしている。あいつらはもう更生して前を向いているのだろう。

 馬鹿馬鹿しい。


 世の中友達なんかよりも大事なものは金だ。

 金さえあれば女も自分から寄ってくる。それに、みんな俺に頭を下げてくれる。

 それなのにあいつらは友達と遊んで…。馬鹿みたいだな。


 あ…。ボールで遊んでいた人達の中の1人が、こちらに向かって走ってきた。


「君も一緒に遊ぶ…?」


 は…?お前と俺が?

 俺を誰だと思ってんだ?次期首相の息子だぞ?

 少しこいつに住む場所のってものを教えてやろう。


「なんで、俺がお前と遊ばねぇといけねぇんだよ。俺は次期首相の息子だぞ?俺と遊ぶ?そんな事お前が俺と対等な立場になってから言えよ!」


 ハハッ…

 やっぱり思っていることをそのまま言うのは気持ちがいい。

 中学校では、素の自分を隠していて正直息苦しかった。

 けれど、ここにいるのはみんな犯罪者。犯罪者に人権なんてねぇんだよ。


 俺に話しかけてきたは、俺を睨んでから立ち去って行った。



(45分後)

 あと10分で外での時間が終了か…。


 時間に遅れて何か言われるのは面倒なので、俺は早めに戻ることにした。


「おい。待てよ」

 先程の俺を遊びに誘った犯罪者に呼び止められた。


「は…?なんだよ犯罪者」


 俺はそう言って振り向いた瞬間────


「んブッ…!」


 俺はこいつに顔面を殴られた。


「どうした?お前は犯罪者に負けるのか?それに、俺にはれいっていう名前があるんだよ!」


 そう言って、零はニヤッと笑っている。


「くそっ…!お前、俺が誰か分かってやってるのか?」

「あぁ。分かっているよ。お前がお前の親の権力で何かをしてきたら、次の日のニュースはその事で埋め尽くされるな…!」


 なんなんだこいつは…。


「それに、そんな事をするようなやつは首相になれないな。俺は信じてるぜ。お前の親は首相になれないってな!」

「お前!ふざけるなぁ…!」


 俺は怒りに任せて零を殴りにかかったが、軽々と受け止められてしまった。


「どうした?こんなへなちょこパンチで俺を黙らせようとしたか?残念だがその考えはやめた方がいいぞ?俺はもうには手を出さないって決めてんだけどな、俺が少年院ここにいる理由は、殺人だよ。俺がお前に言いたいことが…分かるよな……?」


 体中の震えが止まらない。

 こいつは人じゃねぇ。ここで反抗したら絶対に殺されてしまう……。


「わ、わがりまず……」

 恐怖で涙や鼻水が止まらない。


「情けねぇな…。それと1つ教えておいてやろう。お前は俺に犯罪者と言ったがな、お前もここにいる時点で犯罪者なんだよ!でもまぁ…、少年院にいたからって前科にはならねぇけどな」


 そう言って零は鼻で笑いながら立ち去って行った。


 くそっ…。お父さんの力でどん底に叩き落としてもこいつは絶対に俺を殺しに来る。


 俺は後6日でここを出れるんだ。

 俺はこの中では大人しくしていよう…。


 18:00 夕食

 口の中が切れていて血の味しかしない。

 ただでさえここの飯は不味いのに…、最悪だ。


 19:00〜 自由

 みんなだいたい同じ場所に集まっているようだ。

 俺は零に目をつけられてしまった以上できるだけ関わりたくない。

 俺は施設の教官に許可を貰って早めに布団に入ることにした。


 体中の震えはまだ止まらない。

 少年院ここを出るまでは、絶対に収まらないような

 お父さん…早く助けてよ……。


 バサッ…


 布団の上から誰かに乗られたようで、体が動かせない。


「だ、誰だ……!」

「ん?さっき名前言ったろ。零だよ」


 終わった…。

 こいつは俺を殺しに来たんだ…。


「れ、零さん…。どうかしましたか……?」

「どうした?犯罪者呼びはもうやめたのか?…まぁいい。何をしに来たか…?そんなん決まってるだろ。お前があと6日でここを出るって聞いたから早めに教育いじめをしないといけねぇなって思っただけだよ」

「い、いじめ……」

「なんだよビビんなよ!お前が更生したらやめてやるよ」

「更生じまず…。犯罪者だなんでいっですいまぜんでした!」

「ははっ!お前涙声すぎ…!仕方ねぇな。じゃあ教育いじめはお前が何か変な動きをした時にとっておいてやるよ」

「あ、ありがどう…ございばず……」


 た、助かった……。

 本当に死ぬと思った。どうしてこんな奴がいるんだよ…。

 絶対に何も変な動きをせずにひっそりと暮らそう…。

 けれど、思ってたより優しかった…。

 本当にこの人は更生しているんだ。

 まさか…!この人ここにいる人達をみんなこういう風に更生させているのか……!?


 こ、怖いよ…。

 早くお父さん助けてよ……。



(2日後)

 昨日もお父さんは助けてくれなかった。

 俺はお父さんに見捨てられたのかな…。


「おい、日向 龍生。お前に面会に来た人がいるから着いてこい!」


 俺は教官に連れられて、机と椅子しかない部屋に連れていかれた。

 まさか……お父さん…!?

 その予想は的中し、お父さんが面会室に入ってきた。


「時間は30分だ」

「わかりました…」


 俺はお父さんの目を見て言った。

「お父さん…。どうして何もしてくれなかったんだよ…?」

「……」


 お父さんは何も言ってくれなかった。

 けれど、目で何かを訴えている。

 その目の先を見たら、教官がいた。


 そっか…。

 ここでは変なことを言ったら大変なことになってしまう。

 今は俺は文部科学大臣の息子という肩書きだけど、お父さんが首相になれば、内閣総理大臣の息子という肩書きが手に入る。


 けれど、お父さんが選挙で負けてしまうと、次の首相は、自分の地位を守るためにお父さんの国務大臣の地位も無くなってしまうだろう…。


 今は、我慢するしかないってことか。

 このままここにいるのは命の危険がある。

 けれど、何も変な動きをしなかったら何もしないって零は言っていた。


 今はこの言葉を信じるしかないか……。


「お父さん……。ごめんなさい」


 俺はそう言ってお父さんに帰って貰った。


 俺は絶対に後4日生き延びて、平野 響に地獄を見せてやる…。


 待ってろよ…!

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