第14話 願い事
僕は、家に帰って手を洗ってすぐに、妃菜の部屋の前に来た。
理由は、僕が退院したら聞くと言っていた妃菜の願いをまだ聞いていなかったからだ。
コン、コン、コン!
「入っていいよ~!」
今回は、今朝と違って返事があった。
僕が部屋に入ると、なぜか妃菜はニヤリと笑って僕の事をずっと見つめていた。
「ど、どうした…?」
「べっつにぃ~?お兄ちゃんから部屋に来るなんて珍しいなって思っただけだよ~?」
「今日の朝も来たけれど…?」
「お兄ちゃん!それはノーカンなの!」
「わかった、わかった!」
妃菜は決して痛くない程度に、僕の背中をとんとん叩いてくる。
「あ…!ところで、お兄ちゃん何か私に用事があったんじゃないの?」
「そうだった!僕が入院したときに、退院したら願いを何でも聞くって言ってたけれど何をしてほしい?」
「全然聞いてくれなかったから忘れてたのかと思ってヒヤヒヤしてたよ~!」
覚えてたのかよ!
けれど、こういうのは自分で言うより相手が気づいてくれた方が嬉しいよな!(多分)
「で、僕に何をして欲しい?」
「ん〜、……」
妃菜は、真剣に考え出した。
10秒ほど考えて、妃菜は答えを出した。
「それじゃあ週末私とデートしてよ!」
「デ、デート!?」
(土曜日)
今日は、妃菜とデートの日。
どこに行くかは、妃菜が当日教えると言っていた。
服は…。デートだからいつもよりはかっこいいものを着た方がいいな。
けれど、僕にセンスが無さすぎてどれがかっこよくて似合うのかが分からない。
でも、大丈夫だよな。家を出る時間までまだ1時間あるのだから…!
──平野 妃菜──
「(ま、間に合わないよぉ!)」
今日は、お兄ちゃんとデートの日。
元々願いはなんでも聞くと言っててくれていたけれど、デートをしたいって言ったら、何も嫌がらずにすんなりと引き受けてくれてとても嬉しかった。(ビックリしてて可愛いなと思ったのはここだけの話)
けれど、デートを甘く見すぎていた…。
お兄ちゃんが好きな服、分からないよぉ〜!!
でも、大丈夫よね…!
だって、まだお兄ちゃんとの約束の時間までまだ1時間もあるのだから…!
※
ふぅ…!
何とか服が決まって良かったぜ…。
我ながら似合っている。これなら、妃菜の横を歩いても悪目立ちしないな!
髪もセットしたらなかなかいいものになった。妃菜の反応が楽しみだな〜!
──平野 妃菜──
ふぅ…!
何とか服が決まった…!良かった、良かった!
いつもは、ポニーテールだけど、今日はハーフアップにしてみた!
うん。いつもと違う可愛さが出ている!お兄ちゃんの反応が楽しみだな〜!
※
そろそろ時間だな…!
僕は荷物を鞄にまとめ、リビングに行った。
テレビの音がするので、妃菜はもうリビングで待っているのだろう。
「おまたせ────」
「ん?お兄ちゃん黙り込んでどうしたの────」
僕達は、黙り込んでお互いの顔を見つめあった。
約10秒の沈黙の後…。
「妃菜!」「お兄ちゃん!」
「「ど、どうぞ…!」」
「「………はははっ!」」
僕達は、気づいた時には笑っていた。
「妃菜。ポニーテールのイメージしかなかったけれど、ハーフアップもいいな!いつもと違う可愛さがでてて凄くいいよ!」
これは、心の底から思った本音だ。
僕は、妃菜のポニーテール以外の姿を見たことがなかった。だから、ハーフアップをしている妃菜は、いつもと違う良さがあってすごく可愛いと思った。
「お兄ちゃんも、いつもと違って髪を整えているね!これは、誰のためなんだろうね?」
そう言って、妃菜はニヤリと笑って僕の目を見つめてくる。
「ひ、妃菜のためだよ!」
は、恥ずかしい…!
やっぱり妃菜はこの頃、僕の扱いに慣れてきている……。
まずいな……。
「お兄ちゃんの整えてるときの髪型も好きだよ!」
「ほ、ほんとか?」
「本当だよ!私はそんな嫌がらせしないよ!」
「そ、そっか!そうだよな!」
「ところでお兄ちゃん。他にも言うことあるでしょ?」
そう言って妃菜は、くるりとその場で回った。
あ…!!
服もいつもと違う。
いつもは、家だからパジャマのような生活感のある服を着ている。けれど今日は、ショートパンツに薄地の長袖。
妃菜の女の子らしい体のラインがくっきりと見えてしまい、目の付け所に困るのと同時に、これで外に出ても大丈夫かな?と、心配してしまった。
けれど、やっぱり可愛さが勝ってしまう。
「服…!妃菜にとても似合ってていいと思うよ!」
あぁぁぁぁ!可愛いのに、恥ずかしくて上手く褒められないよ……。
もしかして僕ってシスコンなのか!?
あ、でもな……。妃菜は僕の妹だけど、血の繋がりはないんだよな…。
てことは────
だめだだめだ!
妃菜は、僕のたった1人しかいない大事な妹だァ!
僕は、心の中でそう断言する。
「ありがとうお兄ちゃん!」
「お兄ちゃんもその服………似合ってるよ…?」
ん?何か違和感があった。
まさか似合ってない!?
「ほんとに似合ってるか?」
「………う、うん。似合ってるよ!」
ほんとかな……?
「ところで妃菜。今日はどこに行くんだ?」
「今日は、お兄ちゃんの服選びをします!」
むむむ?これは遠回しに似合ってないということでは…?
しかし、妃菜ができる限り僕を傷つけないようにしているんだ。だから、僕は全力で気づいていないふりをしよう…!
「それじゃあ行きますか!」
「そうだな。行くか!」
僕達は隣町に行くために、駅に入った。
隣町までの往復券……1020円……。高すぎる……。
田舎は嫌だ!絶対に都会の高校に入学してやる…!
妃菜は、体のラインがくっきり見えてしまう服を着ているので、回りからの視線が妃菜に集まっている。
なんか、嫌な気持ちになってきたな…。
僕は、着ていたアウターを脱いで、妃菜の肩からかけてやった。
「お兄ちゃん?」
妃菜は、僕がどうして服を肩からかけたのかわからないようで、きょとんとした顔をしている。
「そ、その…。妃菜の体を周りの人達に見られてるのがちょっと嫌だった……」
「ふふん~!お兄ちゃんなかなかやるな…!」
「どういうことだよ!」
「まぁまぁ。かっこよかったよってこと!」
「そ、そうか…!あ、ありがとう…!」
ふむふむ。こういう少しの気遣いが女子からするとかっこいいと思うのか…。
僕達は隣町行きの電車に乗った。
今日はデートなので、もちろん2人席で隣り合って座った。
「妃菜さん…?」
「なぁに?お兄ちゃん!」
なぜとぼけているんだ!?
僕が言いたいことはもう察しているはずなのに……。
「どうして僕の腕に抱きついているんだ…?」
「え?デートだからだけど?」
妃菜は、「当然でしょ?」というような目で僕を見つめている。
もう深く考えないようにしよう…。
「な、なるほど…」
それからも、妃菜は僕の腕に抱きついていた。
30分ほど電車に揺られて、僕達は目的の駅で降りた。
「やっぱりここまで来ると景色が全然違うよな…」
「そうだね。電車から外の景色の移り変わりを楽しめるから、実は私はこの電車好きなんだよね~!」
「そうだったのか!僕も今日の帰り景色にも注目してみるよ!」
「うんうん。いいねぇ~!」
そんな話をしながら駅を出ると、そこには見慣れた人がいた。
日向 龍生が他校の女子と手を繋いで歩いていた。
恐らく、冬美が学校で言っていたという浮気のことはあの子のことだろう。
「お兄ちゃん。知ってる人?」
「あ、いや…。知らない人だ……」
「本当は?」
「冬美の浮気相手だった人だ………」
「そう」
そう言って、妃菜は日向 龍生めがけて歩いて行った。
「ちょっと待てよ妃菜!」
しかし、妃菜の足取りは止まらない。
妃菜は、日向 龍生の目の前で足を止め、日向 龍生を睨みながら言った。
「あんたはどれだけ浮気したら気が済むの?少しは浮気された人の気持ちを考えたらどうですか?」
おいおいおい……。
妃菜。そいつに喧嘩売るのはまずいって…。
けれど、売ってしまったのなら仕方ない。僕が妃菜を守らないとな…!
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