第11話 他愛のない時間
──日向 龍生──
「平野 響…。楽しもうぜ…」
俺は、インスタの裏垢で、とある投稿をした。
俺の投稿は、
「ははっ!馬鹿共を騙すのは簡単だな…。明日が楽しみだねぇ〜」
俺の上がった口角は、しばらくの間元に戻ることはなかった。
「第2波の始まりだァ!!」
※
(1日後)
ピピッ、ピピッ♪ ピピッ、ピピッ♪
「ん………」
僕の耳元で、聞きなれた電子音が鳴っている。
もう朝か…。まだ寝足りないな。
よし、もう少し寝るか。
僕は、目を開くことなくスマホのアラームを止めた。
おやすみなさ────
「ぐへッ!」
突如お腹に強い衝撃が加わった。
慌てて目を見開くと、妃菜が僕のお腹に馬乗りになって、少々怒っているかのように口を膨らましている。
「ひ、妃菜?どうした…?」
「むぅ……」
妃菜は、少しご機嫌斜めのようだ。
僕何かしたっけな…。
僕の考えていることを読んだかのように妃菜が口を開いた。
「お兄ちゃん昨日すぐに部屋に入って行っちゃったから少ししか会えなかったじゃん…」
うっ…。そんなにあどけない瞳で見られると、罪悪感が湧いてくるからやめてくれ……。
「ごめんな。昨日は久しぶりの学校で疲れてて眠かったんだよ…」
「あ…!そうなの!?私てっきりお兄ちゃんに嫌われて避けられてるのかと思ってたよ」
そう言って妃菜は、はにかむ笑顔を見せた。
「僕が、妃菜のことを嫌いになることはないから安心してくれ」
「……分かった!信じてるからねお兄ちゃん!」
「あぁ。ありがとう!」
「……ところで妃菜さん?」
「なぁに?お兄ちゃん」
「そろそろどいてくれると嬉しいのですが…」
「え〜?どうしよっかな〜!」
先程の機嫌が戻ったようで何よりだ。
僕の視線に気がついたのか、妃菜は僕の目を見て首を傾げている。
「……ぅおりゃ!」
「ぎゃっ!!」
僕は勢いよく体を起こし、夏用の薄地の掛け布団で妃菜を拘束した。
「ぐっ…。お兄ちゃんのえっち」
「なんでだよ!……いや、
そう言ってすぐに拘束を解いてやった。
「お兄ちゃん…。優しすぎて悪い人に騙されないか怖いな〜?」
「大丈夫だよ〜?僕そういうのは、しっかりしてるから」
「お兄ちゃんフラグ立ててない!?」
「そうか?大丈夫だろ!」
そんな他愛のない話をしていたら、気づいた頃には眠気が覚めていた。
と言っても、妃菜の最初の1撃でほとんど眠気は覚めていたけれど……。
妃菜と話していたらいい時間になったので、僕達はお母さんが仕事に行く前に作っていってくれた、目玉焼きと味噌汁を温めて食べた。
どちらも作ってから時間が経っていたけれど、温めたらとても美味しかった。
やっぱりお母さんの味って落ち着くな…。
「お兄ちゃん。今考えてること当てていい?」
「い、いいぞ?」
「お母さんの味って落ち着く〜。って思ったでしょ!?」
「え!凄いな。大正解だよ!」
僕は正直、正解しないと思っていたから、心の底から妃菜を尊敬した。
「ふふん!凄いでしょ!私はお兄ちゃんのことだぁ〜いすきだからなんでも分かるもんね!」
これは、『兄妹として』という事だよな!?
「ありがとう。僕も妃菜のことが大好きだぞ?」
「ありがとう!あれれ〜?お兄ちゃん顔赤くなってるよ〜?」
「こ、これは!気のせいだ…」
「ふ〜ん?朝からお兄ちゃんの可愛いところを見つけちゃったな〜!」
「は、恥ずかしいから今すぐ忘れてくれ…」
「どうしよっかな〜?」
「お願いします妃菜様。さっきのことは忘れてください」
そう言うと、妃菜は「う〜ん…」と独り言を漏らした。
そして、何かいい事が思いついたかのように、目を見開き僕に言った。
「お兄ちゃん。忘れてほしかったら後ろから私を抱きしめて頭を撫でてください!」
「絶対そっちの方が恥ずかしい気がするんだが!?」
100パーセント今の提案の方が恥ずかしい。
「お兄ちゃんの
うっ……。妃菜…。この頃僕の扱いが上手くなってきたな?
「わ、分かったから…!向こう向いてろ……!」
「やったぁ!」
妃菜は、嬉しそうにくるっと回って、向こうを向いた。
妃菜は、恥ずかしくないのか…?
ドキッ、ドキッ!
心臓が早くなるのが分かる。
なにをドキドキしている…。目の前にいるのは、僕の
ええーい!恥かしいけれど、男を見せる時だぞ僕!
僕は、早くなった心臓を少し落ち着かせて、妃菜を後ろから抱きしめて頭を撫でてやった。
妃菜からは、同じ柔軟剤を使っているはずなのに、女子特有の甘い香りがした。
時間が遅く感じる。嫌なこと全てがどうでもよく思えてくる。
この時間がずっと続いて欲しい……。
けれど、これ以上妃菜を抱きしめていると、おかしくなってしまいそうなので、そろそろ離れよう。
「あっ……」
僕が妃菜から離れると、妃菜はなぜか寂しそうな声を出した。
しかし、すぐに満面の笑みを浮かべ「ふふん!」と、鼻を鳴らしていた。
そんな、妃菜の様子を見て僕は苦笑しつつも、これからもこのままでいてほしいなと思ってしまった。
「「行ってきます」」
僕と、妃菜は準備が同じくらいの時間に終わったので、途中まで一緒に登校することにした。
ほとんど話すことはなかったが、先程の出来事を思い出して、1人ドキドキしてしまった。
妃菜の中学校は、少し離れているのでバス停で妃菜と別れた。
学校の校門が見えてきたが、妃菜のおかげで今日は、昨日よりも足取りが軽く感じる。
僕は、心の中で妃菜に感謝を伝え、校門をくぐった。
ん……?
周りから冷たい目で見られている……。
どうして…?
昨日は、大丈夫だったはずなのに…!
「響く〜ん!」
誰だ?声がした方を見てみると、森くんが僕の名前を呼びながらこちらに走ってくる。
「森くんどうしたの?」
「それはこっちのセリフだよ。これは何?」
そう言って森くんは、僕にスマホを見せてきた。
……!?
僕が冬美の腕を引っ張って、冬美が嫌そうにしている写真。
けれど、僕は冬美と付き合っていたにも関わらず、手を繋いだことしかない。
だから、この写真は僕ではない。合成か…?
「こ、これはなんだ…?」
「分からない。けれど、昨日の夜誰かがインスタでこの写真を投稿したんだよ。これは、響くんだよな…?」
「ち、違う…。僕は、こんなことをしない……」
「なら、この写真はなんなんだ?合成か…?」
「多分…。それか、僕のそっくりさん…」
「分かった。俺は響くんの言うことを信じるよ!」
「森くん…。ありがとう……」
僕は、こんなことをした覚えがないけれど、今までのこともあって、みんなを説得することは僕には無理だろう…。
誰がこんな投稿を……?
まさか…!日向 龍生……?
確か、あいつのお父さんは政治家だったはず…。その
充分有り得る。
あの時の、悪口や噂を広めたのも龍生だったからな…。
あいつは本当に何がしたいんだ…?
僕をいじめたってなんの得にもならないはずなのに…。
────しかし、今回は前とは違う。
優しい先生方や、森くんだって近くにいる。
見てろよ…。僕はもう負けない!
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