第7話 そして、彼らは動き出した(前編)

 僕は今、自分の病室で先程撮ったレントゲンの結果を待っている。


 カツッ、カツッ、カツッ!

 誰かの走る音が聞こえる。


 ガララララッ!


「響くん。おめでとう!骨折、治っていたぞ!」


 そう言って、マッスン先生は笑顔でこちらを見てくる。


 なるほど、病院の廊下を走っていたのはマッスン先生か。

 けれどそれは、僕のレントゲンの結果が良かったからだろう。


「ありがとうございます!!」


「響くん。もう手術をした所は痛くないよね?」

「はい。もう痛くないです!」

「よし。明日からリハビリに入るとするか!」

「分かりました!」


 そうマッスン先生は、言いスキップしながら病室を出ていった。

 その様子を見て僕は、少し苦笑しながら、窓から外を見た。


 雨が降っている。

 昨日も一昨日も、雨だった。

 僕は、その夏特有の天気を見て季節感を感じた。


「この病院にきてもう1ヶ月か〜」


 僕は、屋上から落ちた時に、お腹から落ちたらしく、(自分でもよく分からない)痛み止めが無いと、毎日叫んでしまいそうになるような痛みが、お腹にあった。

 

 けれど、その痛みは時間とともに無くなっていき、気づいた頃には痛みは無くなっていた。


 けれど、ここで大きな問題が見えてきた。

 それは、体力が無くなりすぎているということだ。

 僕は、約1ヶ月間ベットで横になっていた。

 だから、歩くこともほとんど出来ないだろう。

 僕は、これ以上家族に心配をかけないためにも、なんとしてでも早く家に帰りたい。(心配をかけたくない以上に寂しさが勝つ)


 明日からリハビリ。体を壊さないレベルで本気で頑張ろう。



 ──大野 真──(響が飛び降りた日)


 俺の名前は、大野おおの まこと。生徒からは、『おおのしん』と言う愛称で呼ばれている。


 俺は、先生という仕事に就いてまだ2年目だというのに、大事件が起きた。

 そう、教え子である平野 響が今日、屋上から飛び降りた。

 どうして飛び降りたのかは、俺もまだ分からない。


 響は、誰かのために頑張る真っ直ぐな子だ。そんな響が、自主的に飛び降りるなんて考えれなかった。


 しかし、1年2組の、細町ほそまち 朱璃あかりが、「誰かが自分で、屋上から飛び降りた」と言っていた。


 朱璃の担任は、「嘘はつかない真面目な子だから、この証言は本当だと思う」と言っていた。


 響に、何があった?

 いじめか?そういえば、響には毎日話しているやつがいたな。確か…3年1組の菊池 冬美。


 俺は時計を見た。19:58

 今日は、もう下校しているか。


 明日冬美に、響に何があったか聞いてみよう。



「大野先生。平野 響くんが飛び降りた件で悩むのは分かります。けれど、そうやって1人で悩んでいても出来ることは少ないでしょう…。だから、僕と、教頭先生も全力で君に協力するよ」


 と、校長先生が言ってくれた。

 校長先生は、少しぽっちゃりとしているけれど、それがかえって可愛い。と、生徒たちに好かれている。


 それに、教頭先生は頭がとても良く、他の人が気づかないようなことまで気づくすごい人だ。


 そんな、校長先生と、教頭先生が味方に着いていてくれれば、調査はとてもはかどる。


 なんてありがたいことだ。


「待っていろよ響。俺達が絶対に響を苦しめたヤツを炙り出すからな」



(1日後)

 俺は、朝の会が終わったので、冬美の響の事を聞くために3年1組に来ている。


 見つけた…!

 ん…!?冬美が冬美と同じクラスの日向ひゅうが 龍生りゅうせいと話している。

 珍しい組み合わせだな。

 しかし、今は一大事だ。話していようと関係のない事だ。


「冬美。話の途中すまないがちょっと来てくれないか?」

「え…。私ですか?分かりました」


 よく話していた響が飛び降りたにも関わらず、何も無かったかのような顔をしている。

 怪しい…。


 冬美からしても、俺と2人でいると、怒られてるみたいに周りから見られるのは嫌だろう。

 そう思い、俺は冬美を相談室に連れていった。


「冬美。お前は響の件について知ってるよな?」

「飛び降りた件ですよね?」


 俺は無言で頷く。


「知っていますよ?確か、昼休み中に飛び降りたんですよね?」

「そうだ」

「すいません。この頃、響と話してないから分からないです」


 なに?冬美が分からないだと?

 そうなると、響と関わりの深い人はもういなくないか?


 ん?そういえば───

「それでは私は1時間目の準備があるので帰っていいですか?」

「すまない。最後に1ついいか?」

「はい。いいですよ?」

「言いたくなければ言わなくていい。さっき龍生と話していたよな?2人はどういう関係だ?」


 冬美は、考え込むように黙り込んだ。

 10秒ほど経って、冬美が口を開いた。


「私と龍生くんは付き合っています」

「分かった。時間貰ってすまんな。ありがとう」


 そう言うと、冬美はサッと立ち上がり、相談室を出ていった。

 1人相談室にいる俺はさっきの話を思い返した。


 冬美は、龍生と付き合っている?

 もしかしたら、響は冬美に好意を抱いていたが、龍生に冬美を取られてしまった。

 そのショックで飛び降りた。


 いや…。違うな。

 これは、担任としての直感だが。

 響は、失恋しても自殺を試みるようなやつでは無い。


 ならどうしてだ…?


 そんな事を考えていたその時、廊下を歩く男子生徒の声がした。


「おい。3年2組の平野ってやつ屋上から飛び降りたらしいぜ」

「え、まじか。やばいじゃん」

「それな。それに、先生がいじめを疑っているらしいぞ」

「そういえば、みんなDMで悪口送ってたんでしょ?100パーそれが原因じゃん」

「それな。────」


 その生徒達は、相談室から離れたから、話し声が聞こえなくなってしまった。

 けれど、今の話を聞く限りいじめは確定だな。


 とりあえず、この事を校長先生と教頭先生に話してどう思うか意見を聞こう。



 ──菊池 冬美──


 もし、昼休みに響と話していた事がバレたら、私が犯人だと疑われてしまう…。


 響、どうして屋上から飛び降りたのよ…。


 でも、私には関係ないからどうでもいっか。

 響が飛び降りたのは、悪口とかを言われているからよね。


 私には龍生くんがいればそれでいいのよ。



 ──日向 龍生──

(修学旅行から帰ってきた日の夜)


 俺は、手に入れたいものは全て手に入る。

 お父さんは、政治家として、国会議事堂で働いている。

 そのお父さんのおかげで俺に歯向かう馬鹿は今まで誰もいないと思っていた。

 けれど、1年前のあの日。平野 響は俺に歯向かった。



(1年前)

 俺は、俺の通う学校から、離れた公園で高校生の友達と待ち合わせをしていた。


 僕が、公園に着くと、高校生の友達はもう待っていた。


 そして、ブランコの所に1人の顔の良い女がいた。中学1年生といったところか。


 俺は、ちょうど付き合っていた彼女を振ったところで彼女がいなかったので、新しい彼女にしてあげようと思った。


 俺は、身長も高く、顔もいい。


 だから、遊びに誘っても断られないと思っていた。

 けれどこの女は、俺の誘いを断った。


 俺はムカついたので、腕を強引に引っ張った。女は痛がっていたけれど関係ない。

 だって、俺の誘いを断ったこの女が悪いんだ。


 ここは田舎だから、誰も来ないと思っていた。けれど、平野 響は来た。

 あいつは、スマホで警察に電話をしていた。


 嘘だろ…?

 俺が警察に捕まるとお父さんの迷惑にもなってしまう。そうなると、俺の後ろ盾が無くなってしまう。


「くそっ!お前顔を覚えたからな覚えてろよ!」

 そう言って、俺達は公園を後にした。


 平野 響…。覚えていろよ?



 ※

 俺は今日、平野 響に嫌な思いをさせるために、アイツがいつも話していた女と付き合った。


 いい気味だ。


「ははっ」

 自然と笑いが込み上げてくる。


 誰もいない部屋で、平野 響に向けて言った。


「平野 響。これから地獄が始まるぞ?楽しみにしとけよな?」

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