第4話 追い討ち

 体に力が入らない。

 今日、学校に行くのは無理かもしれないな…。

 どうせ行っても陰口や、嫌がらせ。そんなことなら行かない方がましだ。


 ピコンッ♪

 スマホが振動した。

 なんだろう…。お父さん達かな?


 恐る恐るスマホを開くと、昨夜と同じように、見たことのないアカウントからのDMだった。


『響く〜ん。今日休んだらどうなるか分かるよね?もし、来なかったら君の可愛い義妹ちゃんにセクハラしますからね?w』

『分かってる』


 そう返信すると、すぐにブロックされてしまった。なんだよ本当に…。


 にしても、僕に義妹いもうとがいることも広まっているのか…。困ったな。


 自分がどうなろうと、妃菜だけは守る。

 妃菜は、どんな人にも心優しい子だ。

 そんな妃菜が、僕のせいで嫌な目に遭うなんて絶対に、許せない。


 僕は、力の入らない体を無理やり動かして、やっとの思いで家を出た。


 今までは、何ともなかった通学路がこんなにも苦しくなるなんて…。

 ちくしょう…、ちくしょう……。

 込み上げてくる涙をぐっと堪えて、僕は少しづつ足を進める。


 校門が見えてきた。

 その時、体中からいきなり体温が引いていくのがわかった。

 僕は、怯えているんだ。


 僕は、教室までの道のりも、絶え間なく陰口を言われ、睨まれ続けた。


 授業が始まっても考えることは陰口や、睨まれていること。

 もう、嫌だ。


 午前の授業が終わり、昼休みになったので、僕は少しでも嫌な思いをしないために、誰も来ない屋上に行くことにした。


 あ…。

 ちょうど屋上に向かう階段が見えてきたその時、廊下の角から、冬美(元カノ)が現れた。


 僕はもう、冬美と話すことなんてない。

 そう思い、横を通り過ぎようとしたが、冬美に呼び止められた。


「響…。ちょっと待って」

「……なに?」


 今まで話しかけるのは僕ばかりだったのに、どうして今更…。


「ここじゃ誰か来るかもしれないし、屋上に行かない?」

「……わかった」


 僕は、冬美に言われるがままに屋上まで来た。


 昼の眩しい日差しで、反射的に目を細めた。


「響…。ごめん。私のせいでこんなに言われてるんだよね?」

「……うん。そうだね冬美のせいでこんなに言われてるね」


 なんで、こんな事を言ってしまうんだ!今までの僕なら、絶対にこんなことは言わなかったのに…。


「私ね、響に言わないといけないことがあるの…」

「……なに?」

「龍生くん(冬美の今の彼氏)ってさ、響よりも凄くいい人なの。響、別れてくれてありがとう!」


 は?なんなんだ、こいつ。

 ムカつく、意味がわからない。


「それを言うためにわざわざ呼び止めたの?」

「え?そうに決まってるでしょ?じゃ!言うこと言ったんで〜、さよなら〜!」


 そう言って冬実は屋上を去っていった。


 あいつは、人の気持ちを考えることは出来ないのか?

 なんなんだよ。


「(死にたい…)」

 わかる。勝手に口から漏れた、この言葉は本音だ。


「ははっ…。ラッキーだな…」


 僕の目に入った、この学校の屋上の柵は、とても低く僕でも乗り越えれそうだった。


 無心のうちに、僕は歩き出していた。


「やっと楽になれる」


 僕は踏ん張って、柵を乗り越えた。

 僕は今、屋上の角にいる。1歩前に出たら僕は、死ねる。

 昨日は、高校生になったら死のうとか考えていたけれど、そんなことどうでもいい。だって、僕は覚悟が決まったから…。


 こんなクソみたいな人生とは、もうおさらばだ。


 お父さん、お母さん、妃菜。ごめん。僕は、耐えることは出来なかった。

 先に死ぬけど許してね。あの世から、見てるから。


「バイバイ…」


 そう言って僕は、1歩を踏み出した。


「うっ…」

 痛い、体が冷たくなっていくのがわかる。意識がだんだんと無くなっていく。


 お父さん、お母さん、妃菜。幸せになってくれよ、な…。

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