第2話 神様と契約
「んん〜…ん?」
寝ていた狐…じゃない、いなりが起きたみたいだ。
「お、起きたか」
あたりはすっかり暗くなって夕飯時になってい
た。
「お腹空いたよぉ、何か作ってお兄さぁん」
「はぁ??」
なんでコイツの分まで飯を作らなきゃならないんだ。ただでさえ仕事終わりで疲れてるっていうのに、俺の労力を増やす気か。
「えぇ〜お願いだよぉ、なんでもするからさぁ」
誘惑的な表情でそう言う。なんてエロい顔をするんだコイツは…!!でもそうか、なんでもするのか。
「良いぞ、飯作ってやるよ。(後で洗濯と皿洗い任せよ)」
「ホントに!?やったぁ!」
嬉しいと言わんばかりに尻尾をぶんぶん振っている。…なんか罪悪感が込み上げてくる。
しばらくして俺はオムライスを作り終えた。我ながらいい出来栄えだ。
「出来たのっ?早く食べたい!!」
目を子供のようにキラキラと輝かせながらこちらに走ってくる。なんだかこう見ると、従順な飼い犬に見えてくるような。
「いっただきまぁす!」
2人…いや、1人と1匹で机を囲んで夕飯を食べ始めた。いなりは何を食べても大袈裟に美味しいと言い、その度に尻尾を振っていた。ここまで素直に喜ばれるとこっちまで嬉しくなってくるな。
「なぁいなり、お前はいつまでここにいるんだ?」
「んぅ〜?」
食べながら少し間をおいて、いなりは言った。
「お兄さんの闇が無くなるまでずぅっといるよぉ」
闇が無くなるまで…そういえば俺を癒すとかなんとか言っていたな。初めこそ迷惑な話だと思っていたが、こんなに可愛いやつなら、家にいてもそんなに悪い気はしないかもな。
「俺を癒すとか言ってたけど、本当にお前に俺が癒せるのか?」
「もっちろん!ボクの手にかかればお茶の子さいさいさぁい!」
コイツは楽しそうに話すな、感情の起伏が全く会話にない俺とは大違いだ。
「ただねぇ、無条件でお兄さんを癒すわけにはいかない訳なんだよ」
「…というと?」
いなりは食べ終わったオムライスの皿を置いておもむろに言う。
「ボクと契約したら、いっぱい癒してあげるっ!」
なるほど、そう来たか。契約…漫画やアニメにありがちなワードだ。
「どうせ対価を払えとか言ってくるんだろ?」
「そのとぉり!よく知ってるね〜」
いなりは未だにこやかに笑っていたが、俺は心のどこかで怯えていた。契約というものにリスクは付き物。どんな対価を要求されるか分かったもんじゃあない。
「ボクがお兄さんを癒す代わりにぃ…」
いなりの次の言葉に身を焦がす。
「お兄さんは思い出をボクに頂戴!」
………ん?思い出?またもや俺の思考は宇宙空間に放り出されてしまった。
「ボクとお兄さんが過ごす思い出!悲しかったり嬉しかったり、色んな事象を思い出という形で共有してくれればそれで良いんだよ?」
思ったよりは簡単な話そうだが、そんなんで良いのか?契約ってこうもっと堅苦しいものをイメージしてたのだが…
「よし分かった、契約しよう」
「え゛っ、あっさり承諾!?まぁ良いんだけどさぁ」
元々退屈な日々に飽き飽きしてたところだ。コイツと契約すれば少しは退屈が紛れるかなと思ったおれはすぐに契約内容を飲み込んだ。
「よぉし分かった!じゃあ契約の印ねっ」
いなりは俺に今までにないくらい近づいて来て、そして
「ちゅっ」
キスをした。
「!!???!??!?……!!?」
なっななななんでコイツ俺にキスし…っは!!?理解が追いつかない、なんだこの感覚は。もふもふと柔らかい唇が口に当たる感触が、まるで恋愛ドラマのように甘く思い出される。
「これで契約完了!これからお兄さんは、ボクのご主人だからねっ、よろしくご主人〜!」
早速聞こえる退屈な日々が壊れていく音に俺は動揺しつつも、どこかワクワクした気持ちがあることを確認していた。
あぁ、これからコイツと、どんな暮らしが待ってるんだろうな。
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