コンな毎日が良い!

ていぽん

第1話 壊せ日常

いつからだろう、毎日生きる日々を苦痛に感じるようになったのは。


いつからだろう、周りの人を信じられなくなったのは。


いつからだろう、死にたいと思うようになったのは。


俺は冴えない社会人、村上ゆうと。地味に人気のあるイラストレーターだ。


幼少期からイラストを描くことが好きで、イラストを描いて描いて描きまくって、そのまま仕事にした感じだ。


最近はイラストレーターの仕事も軌道に乗り、余裕で家賃やガス代諸々を払えるくらいにはなってきた。


…でも俺は思う、このまま生きてて意味はあるのかと。


もちろん今の暮らしに不満はない。何不自由なく暮らせてるし、自分の生きがいであるイラストも沢山描けている。何が嫌なんだって自分でも思うさ。


違うんだよ。


どこまで行っても満たされない俺の心。


ぽっかり空いたデカイ心の穴。


これを埋める存在に未だ会ったことが無いんだ。


そりゃあさ、昔のトラウマを引きずるのはナンセンスなことだけど、でも忘れられないんだよ。


退屈すぎてあくびが出る毎日、ふとした時にフラッシュバックする畏怖な記憶。


理由も分からず死にたいと思ってる俺って…


なんだっけ、そうだ 今は家に帰ってる途中だったんだ。


「うちに自殺用のロープなんてあったかなぁ…」


ぶつぶつ呟きながら家のドアを開ける。


「ただいまぁー」


…広がる静寂、これも俺を寂しくさせる要因のひとつだろう。


帰ってきても誰も出迎えてくれない、シンプルなことだけど結構な寂しさを俺は感じる。


…?


リビングで物音がする。


なんだ…布団の音?何かいるのか?


今朝家を出る時はきちんと施錠もした、中に生き物がいるとは考え難い状況。


もしや…不法侵入者!?


心臓の鼓動が急に早くなるのを感じる。


ドッドッドッドッ 鼓動で全身まで脈打ちそうだ。


未だリビングの中にいる人の気配…どうすれば良いんだ。おい俺しっかりしろ!いっつも不法侵入者が来たときのシミュレーションしてただろ!!


恐る恐るリビングのドアに近づく。


ゆっくりドアを開けると、そこにいたのは…


もふもふした尻尾だった。


「……は?」


なんだ、どういう状況なんだこれは。


布団からはみ出たデカイ尻尾がゆらゆら動いている。


動物か?配色的に…狐?


人じゃ無かったという安心感と、なぜここに狐がいるのかという疑問が一気に押し寄せてきた。


「んぅ〜ん…帰ってきたのぉ…?」


しゃべったっっっ!!!!今喋ったぞコイツっっっっっっっ


布団からもぞもぞと出てきた狐?は2足で立って背伸びをしている。


「ふわぁぁ〜おはようぅ!お兄さんの布団いい匂いがしてつい寝ちゃってたよぉ、えへへぇ」


狐とは思えないほど流暢に言葉を話すな、何者なんだコイツは?


当たり前かのように2足で立ってるな…背丈は幼い子供くらい、肉付きは結構むっちりしてて、もふもふとしたシルエットが正直可愛い。


猫みたいなもにょっとした口に、半開きの眠そうな目。


……なんっだこの可愛い生き物!!!!


正直言うと一目惚れだった、この世の可愛いを凝縮したような見た目に、俺は完全に心を奪われていた。


「違う違うっ、誰なんだお前はぁ!?」


危ない忘れるとこだった、こいつが何であろうと不法侵入者であることに変わりは無い。未だ揺らぐことのない不審人物なんだぞ!!


「ボクぅ〜?ボクはいなりだよ!お兄さんを癒しに神界から来た神様っ!」


神界、神様?癒しに…?脳の処理が全く追いつかない。


「全知全能を持った荘厳で秀逸な存在の狐の神様!心に闇を抱えたお兄さんをはるばる遠くから来たボクがいっぱい癒してあげるってこと!アーユーオーケー?」


なんかむかつくなコイツ、常に上がった口角がむかつく雰囲気を演出しているのだろう。


まぁ理解は出来た、とりあえず漫画やアニメにありがちな展開だな。こういう流れは、よく見る漫画なんかで慣れてる方だ。


「オーケーオーケー、内容は分かった。でもなんで俺なんだ?」


「おぉ、飲み込み早いねぇ!お兄さんが選ばれた理由はぁ…」


一気にこちらまで近づいてくる、もふもふした体からはふわっと甘い香りがする。


「お兄さん、今日死のうとしてたでしょ」


耳元で急に言ってきたから流石の俺も動揺した。


「な、なんでその事…」


「ははぁーんやっぱりそうかっ!もうっ、命を大事にしてよねっ」


少し怒りながら尻尾で体を叩いてくる。もふもふだからただただ気持ちいいだけなんだが少し腹立つ。


「僕たち神様はねぇ、お兄さんみたいに死んじゃう人を出さない為に存在してるんだよ。」


なるほどな、なんてはた迷惑な。死にたい時ぐらい、好きに死なせてくれって思うのは俺だけか?命を大事にしろとか…そもそもお前には関係無いだろうが。


ふつふつと込み上げる怒りを抑えて俺は言う。


「そりゃどーも、ありがたい話だが俺には癒しは必要ないぞ、もう間に合ってる。」


「ほんとにぃ〜?」


「ほっほんとだって!」


「ふぅ〜ん、ま、良いよ。お兄さんがなんと言おうとしばらくボクはここに住むからね」


!!?


聞き間違いか?ここに住む??何事???


「待て待て待て!話の内容に理解が追いつかん!」


「追いつかなくても良いよォ、ただ住み込みでボクがお兄さんを癒すってだけのことだから!」


「だからそれはどういう…っておい、起きろ!寝るな!」


狐はまたもや俺の布団を占領して寝に入った。…すでに寝息が聞こえる。


なんなんだよもう…


こうして、ちょっとおかしいコイツとの日々が幕を開けた。




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