第3話
趣味はゲーム。
休日は、チリチリパーマと清潔感のないしまむらコーデで街を闊歩し、近所のダヤマ電器でお買い物。なんてことはない一般男子高校生である。
皇女様の話を聞き終えると、もう外は真っ暗だった。俺は帝国の人に用意された宿の、カサカサなベッドに寝そべった。
やっぱり文明の進化的に寝心地良いわけないよな…。
ボーっとしながら天井に向かって手をかざすと、『ステータス』と書かれた半透明な枠が出てきた。
◯レベル・1
◯冒険者ランク・D
◯スキル・【鶏口牛後】
◯スキルレベル・1
◯
全然パッとしねえじゃん。
なんだ冒険者ランクDって。
エクストは冒険者ランクSからFまであるんだから、SかFであれよ。
てか
それ当てはまるやつ一人しかいないし。
せめて芸人、よければ勇者でありたかったよ…。
でもまだ大丈夫、このパット見役に立たなそうなスキル【鶏口牛後】が、俺を勝利に導いてくれるはずだ。
でもこれって大企業の平社員より中小企業の社長のほうがいいよね、みたいな意味だった気がするぞ?
…なんか役に立つのか?
俺は、エクスト6まで完クリしてきたが、こんな名前のスキルは見たことない。今作初登場だなこれは。
まぁ最初は誰もが初心者なんだ。初心者今だけ100連ガチャ無料!とか、初心者なのにSSR装備をゲット!なんて言ってる中華ゲームは往々にしてつまらないものだ。
そんなゲームをするやつは、きっと最初のイベントが終わったらすぐ郵便局に行き、ネットか攻略本で調べた秘密のコードを入力して、レアコインを貰い神社でガチャを引きSランク妖怪を手に入れていた小学生だったに違いない。
なんでそんな事がわかるかって?俺が昔そうだったから。
色々と言ってしまったが、要するに、初期装備が雑魚いと序盤で苦労するけどそれが楽しいよねってことだ。俺は序盤で一気にレベルアップとかはしない派。物語を通じて強くなっていく主人公が好きなんだ。
スキル【鶏口牛後】?お見送り芸人?やってやるよ。この世界、救ってやろうじゃん。
朝起きたら体中が死ぬほど痒かった。
「痒っ何だよこれっ!?呪いの一種か!?」
昨日の手順でステータスを開いてみる。
◯状態異常・ダニの攻撃
「…ダニくらいで状態異常になるな!この雑魚!!」
俺はあまりにもみっともない俺自身に怒りを覚えた。
今日は、衛兵が街を案内してくれるようだ。皇女様は忙しいので今回は来れない、と衛兵の方が申し訳無さそうに言った。
そりゃそうだ。一国の皇女が俺みたいなやつにいつまでもかまってくれるわけがない。
衛兵に案内されるがまま、街へ繰り出す。正直、新作ゲームで詳しい街の様子はわからなかったので大興奮してしまった。
気づいたことはまず、前作までのエクストの時代設定からの変化だ。城の様式も、町並みも、今までの中世ヨーロッパをモチーフにした世界観とは大きく異なっている。
これは一体…
その時、とてつもなく大きな音が山の方から聞こえてきた。しかしそれは、妙に聞き覚えのある音だった。
ブオオオオオン
「うわっ…!!これ、なんの音ですか?」
そう尋ねると、衛兵は誇らしげに語った。
「ふふっ、これは我が国が誇る最新の馬車です!魔法力を効率的に運用する巨大機械で、なんと馬が要らない馬車なんですよ。」
なるほど、俺は理解した。
今回のエクスト7の舞台は「産業革命期のヨーロッパ」をモデルにしているな。蒸気機関車と建築デザイン、人々の服装も大分それを感じる要素だ。アンディール城下町と雰囲気が似ているのは、おそらくモデルにしたのがイギリスだからだろう。雨の国(レインランド)というのも納得だ。
くそ、面白くなってきた。
魔法と科学、自由と革命、まさかあのエクストが近代を舞台にするなんて…!!
「ここが、
中に入ると、大きな掲示板と大小さまざまなテーブルが見えた。そして、酒を飲みながらみんなでワイワイと喋っている、おそらく冒険者であろう人達の姿が見えた。
「どうだお前、最近は?」
「あぁ、俺はちょーどさっきデカオークぶっ殺してきたところさ。」
『ねぇちゃんええやんか。なぁ、わいとパーティ組もうや。』
「ねえちゃんって私のことですか?失禁させますよ?」
これが冒険者たちか。あのモブたちがこんなにも生き生きと喋っている。俺は感極まって涙した。
俺の様子を見ていた衛兵は、何も言わず説明を続ける。
「ここでは、他の冒険者とともに
「あっ、はいお見送り芸人です。」
俺は苦し紛れに親指を立てる。
「えっ、あ、そうなんですか。そ、そっか芸人か…」
いや、芸人じゃなくて、お見送り芸人です。
…とは修正できなかった。
バーから出ようと衛兵さんが言うのだ俺もついていこうとしたところ、奥の方から人が寄ってくるのが見えた。
「じゃあイシイ様、もうそろそろ出ましょうか―」
「衛兵さん、待ってください。向こうから誰かきます。」
衛兵さんは一瞬眉をひそめ、
「もしかしたら、奴かもしれません…!イシイさんはどこで狙われてるかわからない…私の後ろに隠れて。」と言った。
頼れる男だ。衛兵さんかっけぇ…!とおもっていたが、よくよく見るとそれは背の小さな少女だった。
「あの、えっと、その…」
衛兵さんは警戒を外さず、槍に指をかける。
「なんだ、要件をいえっ。」
すると、
「えっと、その、あなた芸人なんですよね…?」
少女はそう言って俺を指さした。
「えっ」
「すいません、さっき盗み聞きしてしまって…、それで、もしよければ、私とパーティ組んでくれませんか?」
少女が顔を上げた瞬間、バーの入口の光で、ようやく彼女の姿がはっきりと見えるようになった
俺より少し年下の中学生くらいの見た目をした小柄な少女だった。髪は肩にかからないくらいの位置で切り揃えており、利発そうな雰囲気を感じた。
サラッサラのストレートヘアは動くたび、タユンタユンに揺れている。
「私、エミィ・スネークストーンといいます。あなたの力が必要なんです!」
芸人じゃなくてお見送り芸人だから本来は断るべきなのだろう、と俺は思ったが、
胸の高鳴りがそれを制止していた。
まさか、ついにここで来るのか?俺の春が…!!
どうやら俺は弟のクリエイトした「全ステータス極振り最強ゴリラ」を、倒さないといけないっぽい。 ジョージキネマ。 @george_kinema7
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