第2話
天使の導きかと思ったら、明らかに堕天したコスプレおじさんだった。
いやいや、違う。見た目がアレなだけで、めちゃくちゃ強いかも。
なんなら天使の可能性もあるし。
上から降ってきたし。
…なんかビーム?みたいなのも、出してたし!
「えっと…すいませんお名前聞いてもいいですか?」
「えっあっはい、デローザです。」
なんでその感じでスポーティな名前してんのよ。しかも洒落たやつじゃねえか。
「で、デローザさんは一体何をされてる方なんですか?ちょっと俺今何が起きてるか全然わからなくて…」
「えっ私ですか?私は、天使のコスプレをして森と村を焼き払って回っています。この舌のハートから信じられない量の魔力を放出して相手を失禁させるのが趣味です。」
バケモンじゃねえか。どうしてくれるんだこれ。ハート、一番きもいところにあるし。てか、俺も紙がないとでられない。いや、もうそんなこと言ってる場合じゃないかも…
「あっいたぞ!放火魔だ!!待てぇ!!」
後ろから役人っぽい感じの人達が続々と走ってきた。すぐに気づいたデローザはやべっと一言残して言葉通り霧散した。
「くそっ取り逃がした…。」
悔しそうな顔をした役人たちは、俺に気づくとハッと何かに気づいたようだ。
「きゅ、救世主様だ!」
わあっと、盛り上がった役人たちはすぐさま俺を馬車に乗せて都市に連れて行ってくれた。
先程から大分スルーしてきたがやはり、間違いない。役人の服のデザインも、街も、敵も、恐らくこの世界は、【Exstory.】、中でも…エクスト7の世界だろう。
一部の敵のデザインが6と同じなのは、プロモでみたがこの街の風景は全くもってみたことがない。4のアンディール城下町に雰囲気は似ているが、細かな意匠の数々は別物だ。まさか、新作ゲームの世界に飛ばされるとは…。
俺は、夢にまで見たゲームの世界に気分が高揚していた。しかし馬車を1時間も無言で乗ってれば考え事もする。今、現代の俺はどうなってる?死んだ?行方不明?ナツキは?
俺、帰れるのか?
馬車にもいよいよ飽きてきた頃、ついに街の中心の大きな城についた。
衛兵が巨大な門を開け、まっさきに目についたのは、
玉座に座る美女の姿だった。
「よくぞここまで来てくださいましたね。イシイ様。ここはレインランド帝国。私は皇女のユナです。」
ほう。やはりそういう感じになるのか。
「貴方様をこの世界に呼んだのはほかでもない、この世界を救ってもらうため。かの邪智暴虐なる魔王を」
やはり魔王が今作のラスボス…
「倒した、」
えっ違うの?どゆこと?
「悪しき最強の勇者【ナツキマン】を倒してください!!」
な、ナツキマン?なんてふざけた名前なんだ…。ほんとにこれがラスボスなのか?
「先日、突如として現れた【ナツキマン】は我が帝国の最高戦力である【三英雄】の二人を殺害、一人に重傷を負わせました。」
おそらく魔法だとおもうが、死んだ男と怪我をした青年が空中にモニターのように映っている。
「命からがら生き延びた我が国の戦士、ディアン・ベアウルフがあなたを【召喚】いたしました。」
なるほど、俺は、そういう感じなのか。てことは俺も何かしら力が使えないと困るんだけど…。スキルか?レアアイテムか?どっちにしろ自分が強くなりそうな感じは今のところしないけど。
「彼の視覚情報を魔法で読み取り、【ナツキマン】の姿を再現してみました。それがこちらです。」
映し出されたのはバカみたいな見た目をした男だった。まず目につくのはピンク色でモジャモジャの髪。
そして星型のサングラス。
はち切れんばかりの筋肉と人間離れした巨躯…
…ん?何だこの既視感は…?
「【ナツキマン】は、人智を超えた速度で動き、膨大な魔力を持ち、信じられない膂力をふるって、魔王を撃破しました。当初【ナツキマン】とともに行動していた付き人は、魔王討伐後に【ナツキマン】を恐れて逃亡しています。一応これがその付き人です。」
「ゲゲえェ!!」
そこにいたのは、先程自分がキャラクリしたこの物語の主人公の姿であった。付き人じゃなくて、こっちが勇者だってば!いや、待てよ、てことはまさか。この【ナツキマン】って…
「よーし完成した!最強でしょ。これ」
これで絶対兄貴に負けないキャラができた。
全ステータスをまさか無制限に上げられるなんて〜。
兄貴だったら「ゲームバランス壊れるムキーー」って怒ってるだろうな〜。んふふ。
「兄貴、トイレ遅くない?あれ、トイレあいてる…」
「あれっ?兄貴どこいった?」
「あーーー!!!そういうことかよーーーッ!!」
俺は理解した。この世界は、エクスト7の世界、いや、俺らのエクスト7の世界なんだ。
「あ、あのちなみに元の世界に戻れたりって…」
「それが…【召喚の笛】のルールでして、約束を果たすまで帰れないんです。約束を果たす前に帰ろうとしたら死にます。イシイ様の場合、『【ナツキマン】を倒す』を果たすまでは帰れないということです。」
そんな…
ナツキ、我が弟よ。…兄ちゃん、ちょっと異世界で頑張ってくるよ。また二人でゲーム、したいもんな。
…ただナツキ、一つ言わせてくれ
…ちょっとやりすぎでしょ。それは…
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