気配
灰色の森の中の、灰色の巨大な建造物。
それが魔王が住まうという城だった。
生き物の気配はない。静かだった。まるで墨絵の中にでも迷い込んでしまったようだと威志は思った。その中でサナの青髪青瞳とイェルドリマの赤髪赤瞳だけが鮮やかな彩りを見せていた。
「魔王は、城の最奥にいるらしい。配下は誰もいれず、独りでこもっているそうさね」
「まるで引きこもりですね。食べ物とかはどうしてるんだろう?」
「さあねえ。魔王なんだし、霞でも食って生きてんじゃないかね」
「仙人みたいですね」
「おや、あんたの世界にもそんな例えがあるんだねえ」
「あんたたち」
サナが苛立った声をあげた。
「これから魔王に挑もうと言うのに」
「だからこそさね」
イェルドリマが含み笑いを漏らす。口角は上がっているが、目には緊張があった。
「ここで気を張っても仕方ない。魔王の能力、あと作戦は覚えているかい?」
「当然よ」
「さっき聞いたばかりですから」
サナが応え、威志も首肯する。
城までの移動中、魔王について教えてもらった。
この世界の魔王は『痛み』を操る。認識した相手の痛覚を操作し、それによって相手を操るのだという。認識されたら最後、距離も数も関係ない。故に魔王に認識されたら終わりだという。
「認識」の定義は不明だが、見られたら確実らしい。
「音や気配なら大丈夫ってことですか?」
「確実ではないけど」
威志の質問にイェルドリマは頷いた。
そして作戦は、とにかく隙をついてイェルドリマの血を魔王に付着させ擦り傷でもいいから傷つける。魔王の血とイェルドリマの血が混じれば、あとは魔王が『痛み』の権能を発動させる前にイェルドリマの力で殺す。あの蜥蜴人たちのように。
「作戦、というレベルですらないわね」
「元々、独りで
「そうですね。魔王が魔王同士の繋がりを知ってるなら、僕は人質にもなりますから」
「……なんだい。分かってたのかい」
「そりゃあ、僕みたいな戦闘能力ない人間を連れてくる理由なんて、それ位でしょう?」
「でも、魔王が繋がりを理解しているかなんて」
「大丈夫ですよ」
威志が灰色の城壁を見上げながら言った。
「確かに気配を感じます。経験したことのない不思議な感じです。相手も同じではないのでしょうか」
「あんた……」
サナが、怯えたような表情をする。威志が魔王だと、改めて認識したからであろうか。
今更だなと思いながら、威志はイェルドリマとサナに向き直った。
「作戦ですが、少し修正してもいいでしょうか?」
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