とあるワンコの一日

結城 優希

とあるワンコの一日

―――登場人物—――

ワンコ:とある森にすむワンコ。今日はまったりとお散歩をする予定。男性。

ナレC:ナレーションのひと。性別不問。



——―本編—―—


ワンコ:う~ん。良く寝たなぁ。ここ、どこだろう?

ナレC:ここはとある森のはずれ。一匹のワンちゃんが目を覚ましたようです。

ワンコ:ん~!いい天気だなぁ。お散歩でもしながら、帰ろうかなー。

ナレC:知らない場所で目を覚ましたワンちゃんは、においを頼りに歩き始めました。どこへ向かっているのでしょう

ワンコ:クンクン。おうちはあっちかな?

ナレC:たとえ知らない場所であっても、住処の場所へと本能的に帰ることができる。それが帰省本能というものです。

ワンコ:そうなんだ?きせいほんのう、便利!

ナレC:……そうしてしばらく歩いていると、木の根の陰から、リスさんが現れました。

ワンコ:あ、リスさんだ!こんにちは!いい天気だね!

ナレC:そうやってワンちゃんが挨拶をすると、目を合わせたリスさんは、持っていた木の実を大事そうに頬に詰めて、木を登っていきました。

ワンコ:あれ?お腹が空いていたのかな?またね!リスさん!

ナレC:リスさんに手を、もとい、前足を振って見送り、また歩き始めました。

ワンコ:そういえば、今夜の晩ごはんは何にしようかな?お散歩ついでに探そうかな!

ナレC:そういうとワンちゃんはまた、歩き始めました。今度は周りをきょろきょろとしながら。

ワンコ:あれ?鳥さんだ、こんにちはー!

ナレC:空を見上げると鳥の親子が、頭上を横切り、飛んでいきました。

ワンコ:良いなあ鳥さんは。おそら飛べたらすぐに帰りつくのになあ!

ナレC:てくてくと歩きながら、空へのあこがれを口にします。あなたもきっと空を飛べますよ!

ワンコ:そうかなあ?そうだといいなあ!どうやったら飛べるんだろう?おそらを犬かきすればいいのかな?

ナレC:ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、ワンちゃんはおうちを目指します。

ナレC:次に見かけたのはイノシシさんでした。

ワンコ:わ!イノシシさんだ!こんにちはー!さよならー!

ナレC:怖ーいイノシシさんに追いかけられると思ったワンちゃんは、挨拶もそこそこに駆け出しました。

ワンコ:にげろっにげろっ!……ふぅ~、追いかけてはこなかったみたい、よかった~。

ナレC:後ろを振り向いてみますが、イノシシさんは追いかけて吐きませんでした。用事があったのかな?

ワンコ:そっか、イノシシさんも毎日追いかけっこするわけじゃないもんね。

ナレC:そこからは、この晴れ間の陽気を楽しみながらおうちへ向かいます。

ナレC:てくてく。てくてく。かなり歩いてきましたね。おうちはもうすぐでしょうか?

ワンコ:きっともうちょっとだね!今日は色んな動物さんに出会えたなぁ。

ワンコ:リスさん、鳥さん、イノシシさん、さっきはごはんを持って帰るアライグマさんにも会えたもんね。

ナレC:てくてく。てくてく。そろそろ日が傾いて、肌寒くなるころです。

ワンコ:くんくん。おうちももうすぐだ!……でも、このにおいってなんだろう?

ナレC:おうちがもうすぐそこというところで、不思議なにおいが漂ってきます。

ナレC:そうして歩くとほどなくして、最近おうちにしたほら穴が見えてきました。

ワンコ:あ、おうちだ!たっだいまー!

ナレC:嬉しそうに駆け出しますが、しかし不思議なにおいは次第に強くなります。

ワンコ:ん~?なんなんだろう?

ナレC:ついに、顔をしかめるほどににおいが強くなったころ。

ワンコ:あ、あれは……?

ナレC:ほら穴からひょいと顔を出す、一匹のわんこの顔が見えました。

ワンコ:これ……ぼく?なんで?

ナレC:ワンちゃんは穴を恐る恐るのぞき込むと、そこには。

ワンコ:な、なにこれ!なんで!なんで!?

ナレC:そこには、体を半分に裂かれ、内臓をえぐられ、後ろ足も一本無く、冷たくなったワンちゃん自身の体がありました。

ワンコ:あ……あぁ……そうだ、思い出した……。

ワンコ:僕は、いいお部屋だとおもって、この穴に引っ越したんだ。そうしたら、この穴はくまさんのおうちだった。

ワンコ:奥で寝ていたくまさんが起きたあと、僕を大きな掌で叩き潰したんだ。

ワンコ:あぁ、さっきアライグマさんが咥えていたお肉、僕だったんだ……

ナレC:そう、ワンちゃんはくまさんのごはんになっていたのです。

ナレC:寝込みを襲われたのか、はたまた、恐怖で動けなかったのか。そこをいまさら考えることは無意味なんでしょう。

ナレC:さて、死んでしまっていたあなたは、いったい、どこに、向かっていたのでしょう……?


―お死まい。

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とあるワンコの一日 結城 優希 @yuukiyuuki_vc

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