第42話 レミアからの太鼓判
彼は瘴気を伸ばしたり飛ばしたりすれば無敵なこの剣を認めて、ゆっくりと鞘に納める。
「ま、いいか」
「相変わらず適当だなオメーは」
「難しい剣技とか使わずに敵を倒せるんだよ。最高だよ」
「確かに、ヘタレ明にはそいつがお似合いだな」
さっきまで弱体化していたクロ子は、蜘蛛魔獣が絶命した事でいつもの調子を取り戻していた。そうして、すぐに次のバトルに向けて気合を入れ直している。
「蜘蛛以外ならどうって事ないぞ! 次の敵来いやあ!」
「すごいやる気……」
その後も次々に魔獣はやってくる。熊だったり、イタチだったり、空から巨大なサギが襲ってきたり……。明とクロ子はそれらを交代で倒していく。2人で計20体程度を倒したところで、そいつはやってきた。
日も傾いてきたので、次でラストバトルにしようとレミアは宣言。明の最後の修行相手になったのが巨大な亀だった。
「で、でかい……」
正面の大きさだけでも高さ2メートルはあるその亀は、立ち上がったとしたら10メートルは余裕で超えるだろう。まさに怪獣亀だった。姿形はミドリガメに近く、カミツキガメのような凶悪な顔はしていない。亀らしく挙動は鈍重で、その大きさ以外に脅威を感じさせはしなかった。
ただし、魔界に生息してる以上はこの亀も魔獣には違いない。明は剣を構えながら亀が使ってくる魔法を警戒する。
「くっ……隙がない」
亀はただゆっくりと明に近付くだけ。攻撃の意思がないのか、攻撃の間合いが狭いのか。意図が読めない事が彼にプレッシャーとなってのしかかる。
やがて、魔瘴剣の間合いにまで亀が近付いたため、彼は先手必勝とばかりに剣に瘴気を纏わせて目一杯振り下ろす。
「これで終わりだ! 瘴気斬ッ!」
瘴気を纏った衝撃波が亀に迫る。危険を察知した亀は、一瞬で体を体内に収納した。この時に防御結界のような魔法が発動し、それに触れた瘴気は霧散する。つまり、この亀は防御に徹した魔法持ちだったのだ。
自慢の攻撃を防がれた明は、ショックで顎がハズれるほど大きく口を開ける。
「嘘……だろ……」
「あーっと! 明選手、ピンチです! 自慢の瘴気が通じません!」
「クロ子、うっさいよ!」
クロ子にからかわれつつ、明は攻撃を続行。勿論瘴気攻撃だ。しかしそれらは当然のように亀の防御魔法に阻まれる。体を引っ込ませないと発動出来ないようで、亀はその場から動けない。
剣に切れ味があるなら斬りかかればダメージも与えられるだろうけれど、魔瘴剣ではそれも不可能だろう。蜘蛛の腹すら切り裂けなかったのだから。
とは言え、このままだと消耗戦になる。今のところ亀はノーダメージなので、消耗する分だけ明の方が不利になる。
何度かの瘴気を浴びせたところで彼は勝負に出た。亀に向かって飛び出すと、切れない剣で切りかかったのだ。
「うおりゃああ!」
その結果、亀の硬い甲羅に弾かれた明は反動でひっくり返る。この時に受けた衝撃で、手や腕に激しいダメージを負ってしまった。
「いってぇーっ! 硬すぎんだろ!」
「明、手を貸すぞ!」
ここでバトルを見守っていたクロ子が参戦を申し出る。返事をしようと彼が視線をそらしたところで、亀はニョキッと体を出して飛びかかってきた。
ギリギリでこのアタックに気付いた明は天性のセンスでこの攻撃を回避。すぐに剣を振って瘴気を放ち、体を引っ込めさせた。
「っぶね!」
「明、これを使え」
レミアが投げてきたのはマジックアイテムの指輪。どんな効果があるか分からないものの、キャッチした彼はすぐに右手の人差し指にはめる。指輪に意識を向けると、使用マニュアルが脳内に流れ込んできた。
大体の使い方が分かった時点で、明は亀に向かって右手をかざす。
「ターン!」
その一言で、亀は見事にひっくり返る。突然天地が逆さまになったため、ビックリした亀は元に戻ろうと体を出して必死に動かし始めた。このチャンスに明は亀の頭に近づき、その口に向かって魔瘴剣をブスリと突き刺す。後は口から体内に瘴気を流し込むだけだ。
この攻撃によって体の内側から瘴気に侵された亀は、呆気なく息絶える。
「ふう、勝てた……」
こうして最後のバトルも制して、今日の修行は終りを迎えた。また朝の場所に移動するのも手間なので、今夜はこの場所でキャンプをする事になった。
休息中に襲われてはたまらないので、レミアが強めの結界を張る。
「これで大丈夫だ。早速テントを張ろう」
そこからは3人で協力してテントを含めた休息の準備をする。食事はクロ子の担当だ。食材は持参していたものの、現地の動植物も使おうと言うレミアの提案に乗る。
現地の木の実やキノコ、さっき倒した魔獣の肉などが食べやすい大きさに切り刻まれ、フライパンで焼かれたり鍋で煮込まれたりした。
明が折りたたみテーブルを出したり食器を並べたりしている内に、料理の方も続々と並べられていく。全ての準備が出来上がったところで、料理も並びきっていた。
「さ、頂こうか」
「いただきまーす!」
イノシシ魔獣の焼き肉を口に入れようとしたところで、明は手を止める。
「これ、食べたら魔素器官を取り込んだりしない?」
「魔素器官は内臓にある、心配しすぎだ」
「本当、明はバカだなあ」
「ぐぬぬ……」
レミアの話で懸念もなくなったので、明は料理をバカバカ食べ始める。それはクロ子が呆れるほどだった。今回の修行で体力を消耗した分を埋めるかのように、3人前の分量をペロリと平らげる。
「ふー、まんぷくぷー」
「いつもの3倍も食べるとは……胃袋に穴が空いたんじゃないか?」
「んな訳あるか! で、先生、今後はどうするんですか?」
明はクロ子を軽くあしらいつつ、今後の予定を尋ねる。レミアは今回の2人の戦いぶりを見て既に予定を組んでいたようだ。目を輝かせる質問者の期待に応えるように満面の笑みを見せる。
「明もクロ子も合格だ。この実力なら旅をしても大丈夫だろう。明日から街に向かう。そこで新しい装備とかも揃えたいしな」
「やったーっ!」
「浮かれんじゃねえよ。そう言う時が一番やべえんだぞ」
予定も決まったところで、今日は早く寝る事になった。魔界の街で買い物をするには高価な魔獣の素材を換金するのが手っ取り早いと言う事で、魔獣を狩りながら街に向かう事になる。
明とクロ子が早くに眠りに就く中、レミアは1人夜空を見上げながらこの旅の安全を祈るのだった。
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