第33話 魔瘴剣
ラストの3階は2階よりもさらに広くなっていた。どのくらい広いとかと言うと、中で鳥が飛びかっているほどだ。通路も広ければ天井も高い。その大きさに、明はぽかんと大きく口を開ける。
「でかすぎんだろ……」
「ぼうっとしていても仕方ないぞ。地図もある事だし、効率よく進もう」
地図には様々な注釈も書かれており、そこには罠の詳細もあった。それを読み込んだ事で、エリア全踏破も2階までの話になる。寄り道をしないと発動する罠はなかったからだ。
と言う訳で、3階は無駄のないルート選択で進む事になる。地図はレミアが読んで彼女が行き先を決めていく事で、最短ルートで攻略を進めていった。
ちなみに、3階は更に魔獣が強くなっており、クロ子と明では倒しきれない場合も出てくるようになる。そんな時は、レミアの魔法で瞬殺。
明は、改めて大魔女の実力を実感するのだった。
「火龍!」
大魔女の手のひらから撃ち出された炎の龍が、羽を広げると10メートル近くになる巨大ハゲワシタイプの魔獣を消し炭にする。それまでにハゲワシの風魔法で傷だらけになっていたクロ子と明は、レミアの治癒魔法で傷を癒やした。
「レミア様、有難うございます」
「ああ~回復が気持ちいい~」
この戦闘後も最短攻略ルートで進んでいたものの、何度目かの分かれ道に来たところで明がレミアを呼び止める。
「先生、地図を見ていた時に気になっていた場所があるんですけど、そこだけ寄っていいですか?」
「ここでその話を振ると言う事は、この近くの如何にも怪しい部屋だな?」
「あの部屋、きっとすごいお宝があると思うんですよ!」
「おめえ、レミア様に寄り道させてんじゃねえぞ」
明の提案をクロ子は強く拒否。2人の雰囲気は険悪になる。レミアは改めて地図を眺め、その部屋のある方向に顔を向けた。
この時に何かを感じ取った彼女は、次に明の方に顔を向ける。
「じゃあ、行こうか」
「あざす!」
こうして、一行は少し寄り道をする事になった。1分ほど歩いたところで、その部屋に到着する。部屋の内装的にも変に装飾が凝っていて実に怪しい。
寄り道にずっと否定的だったクロ子は、部屋の前まで来たところで明を軽くにらみつけた。
「ワガママ言ったんだから、明がこの中の魔獣を倒せよ」
「分かった。頑張る……」
ゴクリとつばを飲み込んだ明は、改めて部屋の中に入った。そこで3人を待っていたのは全長が20メートル以上はあろうかと言う巨大なヘビの魔獣。やはり攻略は一筋縄では行かなさそうだ。
普通のヘビも苦手な明は、この巨大な天敵の登場に頭の中が真っ白になる。
「ヒィィィッ!」
「バカ! 突っ立ってんじゃねえ!」
ヘビの高速アタックが迫り、クロ子が明を抱きかかえて離脱。一瞬判断が遅かったら、彼はヘビの腹の中に引っ越していただろう。
「怖っ!」
「弓使いなんだから弓を使えよ! 安全な場所から!」
「言われなくても!」
クロ子に降ろされたタイミングで明は矢を放った。矢はヘビの腹に当たるものの、脂肪が厚いのか浅くしか埋まらない。それでも息つく暇もなく撃ち込んでいく。
「当たれーっ!」
「シャーッ!」
ヘビは風魔法を使い、明の矢を全て弾き飛ばす。体に刺さっていた矢もこの時の衝撃で呆気なく体から抜け落ちていった。
「クソ、攻撃が無効化された!」
「明、この矢を使え!」
レミアから渡されたのは魔法の属性が付与された矢。明がヘビに向けて狙い撃つと、それは炎の魔力を纏ってヘビの体を貫く。ヘビはそのまま発火し、体中を激しく焼かれながらのたうち回って絶命した。
「威力えっぐ……」
「君の弓の腕が確かだったからだ。自信を持て」
「えへへ」
ヘビを倒した後、部屋の中を調べると奥の方で宝箱が見つかる。何かしらの罠が仕込まれていそうだったので、明はレミアにその対処を丸投げ。
頼まれた大魔女は、杖を生成して宝箱に軽く当てた。
「うん、確かに何かしら仕込まれてるな。白龍!」
どんな呪いも解くレミアの白龍で宝箱は浄化される。それを確認した明が慎重に宝箱を開けると、中から瘴気が溢れ出てきた。この予想外の展開に驚いた彼は、反射的に後退りする。
「うわっ!」
「おかしい、呪いは解けたはずだ」
この展開に不信感を覚えたレミアは宝箱を覗き込んだ。すると、中には一本の剣が入っているだけ。どうやら瘴気はこの剣から発生しているらしい。
瘴気を発する剣と言う事で、レミアは該当するものを記憶の中から引っ張り出した。
「これは……、魔瘴剣!」
「なんですか、それ」
「簡単に言うと呪われた剣だ。常に瘴気を発生させていて、誰にも扱う事が出来ない。この瘴気は生き物を腐らせる。明、これはあきらめろ」
「ちょっと待って!」
宝箱の蓋を閉めようとしたレミアを明は止める。そうして、彼は瘴気を発生させ続けている忌まわしい剣に手を伸ばした。この無謀なチャレンジをレミアとクロ子が急いで止める。
「やめろ明! 腕が腐り落ちるぞ!」
「腕だけじゃ済まないかも知れねーだろが! 無謀な事はすんな!」
「あ、平気」
明はいわくつきの呪いの剣をあっさりと握って、宝箱から取り出した。普通の人なら触れた段階で手が腐り始めるのに、彼はしっかりと握って体に何の異常も現れない。それだけじゃなく、剣から発してる瘴気の量もコントロール出来ているようだ。
剣を軽く振り回している明を見て、レミアは彼が持つスキルの正体に気付く。
「明、君は……特別な効果を持つ武器を当たり前に使いこなす事が出来るんだな」
「え? そうなの?」
「魔瘴剣は魔法剣の研究から生まれた武器で、その特性から誰も扱えない失敗作だったんだ。君はそれを使いこなせている。つまり、そう言う事なんだ」
「何だかよく分からないけど、そっか、僕にも才能があったんだ。こんなに嬉しい事はない……」
レミアに自身のスキルを褒められ、明は感動の涙を流す。明の手にある内は瘴気をコントロール出来ているものの、常に剣を握っている訳にもいかない。そこで、レミアは魔法で魔瘴剣専用の鞘を作った。収めれば剣の瘴気を完全に封じる事が出来る特別仕様だ。
出来上がったところで、レミアは彼に手渡す。
「明、使わない時はこの鞘に納めるんだ」
「有難う。かっこいいな」
こうして強力な武器が手に入ったところで、一行はダンジョン攻略を再開。ゲートが置かれている最後の部屋に向かう。その道中で現れたのは、全長3メートル程度のアルマジロっぽい魔獣。背中の硬い皮膚は普通の武器なら簡単に弾きそうだ。
この試し切りにちょうどいい敵の出現に、明はすぐに剣を抜いて構える。
「お前には悪いけど、ちょっとこの剣を試させてくれ」
「ウグルォォォォ!」
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