第31話 本当のダンジョン
重力調整室の場所は遺跡内の一番奥の一番高い場所。歩いて移動すると距離があるものの、レミアの転移魔法で一瞬で到着する。
転移を終えると、目の前にあったのは一面の壁。この謎展開に明は首をひねる。
「行き止まり?」
「いや、正解だ」
レミアが手を近付けると、仕込まれていた魔法陣が壁一面に浮かび上がった。そして、目前で壁の一部が自動ドアのように左右に開き、奥にある部屋に通れるようになる。
このギミックに明は目を丸くした。
「すげえ……」
「さ、入ろう」
隠されていた部屋、重力調整室には複数の机と椅子が並んでいる。机には個別にクリスタルモニターが埋め込まれていて、かつては多くの人がここで作業をしていた事がうかがわれた。
今の室内は無人で、机のモニターも何も映してはいない。ただし、部屋の一番奥に設置されている大型モニターのようなクリスタルには何かしらの文字が表示されていた。明は転移時の魔法効果で文字自体は分かるものの、映っていたのは複雑な数式のようなもの。そのため、意味はさっぱり理解出来なかった。
「で、この部屋で何をすれば実績は解除されんの?」
「は? 何言ってんだおめえ」
「ここでする事は唯ひとつ。改変された術式の修復だ」
つまり、本来のゲートのあるエリアはこの部屋の機能を使って座標が書き換えられている。なので、それを直せば元に戻ると言う事のようだ。
やはり、今回もクロ子と明の出番はないらしい。
「レミア様、オレに出来る事はないですか?」
「有難う。すぐに済むからそこで待っていてくれ」
「クロ子、こう言う時は何もしないのが正しいんだぞ」
「うっせえ明」
明がヘラヘラしながら忠告したので、クロ子にすごい形相でにらまれる。そんなやり取りを横目に、レミアは空いている中で一番大きな机のモニターに手を触れる。すると、電源が入ったみたいに発光して、システムが起動した。
そこから先はその水晶に映る文字を見ながらレミアが必死にモニターに指を打ち付けて文字を高速で打ち込んでいく。その姿はまるで凄腕のハッカーのようだった。
クロ子と明が見守る中、中央の大きな水晶モニターにも様々な図形や文字が高速で現れては消えていく。魔法ではなく実際に手打ちで作業する姿を見た明は、レミアの魔法の才能は努力で磨いていったのだろうと実感していた。
彼女が作業を始めて約10分。ただ待つだけなら退屈な時間も、様々に表示が変わるモニターを見ていたらあっと言う間だった。流れる文字の意味が分からなくても。
計算と推測が無事に済んだのか、レミアは最後にドヤ顔で大袈裟に画面を叩く。それはまるで『ッターン!』と勢いよくエンターキーを押すあの仕草だった。
「終わった。これであの部屋は本来の姿に戻ったはずだ」
「レミア様、お疲れさまです!」
「これで魔界に行けるんだ。ちょっと怖いなあ」
「オレ達が守ってやっから安心しな!」
ミッション成功の和やかな雰囲気に包まれる中、3人は重力調整室を後にする。向かうのはゲートのある地下室だ。正常に戻ったと言う事で、明はすぐゲートに辿り着けるものだと思っていた。
しかし、現実はそんな甘いものではなかったのだ――。
レミアの魔法で一気に地下に転移した彼が見たものは、以前と同じように目の前に広がるダンジョンだった。
この予想外の展開に失望した明は、ガクリと肩を落とす。
「えっと、どう言う事?」
「どうやら本来のルートもかなり改変されているみたいだな。だが、今度こそこの先に本物のゲートがある。先に進もう」
レミアは率先してダンジョンに足を踏み入れていく。こうなったら明もクロ子もついてくしかない。先行する大魔女に遅れないよう、2人は駆け足でダンジョンに入っていった。
以前のダンジョンと今回のダンジョンは別物だ。3人はそれを感覚ではなく事実として知る事になる。そう、彼らの前にモンスターが現れたのだ。以前のダンジョン探索時には生き物には全く出会わなかったと言うのに。
現れたのは、ずんぐりむっくりした動きのトロそうな魔獣だった。この突然の遭遇に準備が出来ていなかった明は、焦って弓を取り出そうとして手間取ってしまう。何とか取り出せはしたものの、その頃にはもうクロ子が倒していた。
「トロトロしてんじゃねーよ」
「ごめん」
「まぁまぁ、先を急ごう」
一行はこの新しく出現したダンジョンで時々現れる魔獣を倒しながら進んでいく。出現するのは比較的弱い種が多く、クロ子か明の攻撃で対処出来ていた。問題は、このダンジョンがさっきの偽装のものに比べて広かった事。このダンジョン内でも魔物が生活出来るようになってるのか、ところどころに噴水とか作物が実っている畑のようなエリアまで存在している。
レミアは相変わらずゲートがある気配から逆算した最短ルートを進んでいたものの、ここで明がそんな彼女に提案をした。
「先生、ちょっと待って」
「ん? どうした?」
「このまま最短ルートを進んだらまた罠が発動するかも。だから、しっかりこのダンジョンの隅から隅まで知り尽くしてから本命のルートに進みませんか?」
「ほう?」
明の提案はRPGの男子のプレイ方法そのものだ。マップは全て調べ尽くしてから新しいエリアに向かう。アイテムは取りこぼさない。逆に、女子は最短ルートを選びがち。物語が進めばそれでいいと言う考え方だ。
レミアはしばらく考えた末に、彼の提案を受け入れた。
「じゃあ、隅から隅まで歩いてみるか」
「ちょ、レミア様? そんな無駄な事をしてていいんですか?」
「何事も挑戦だ。魔界に着く前に明に戦闘の経験を積ませるのもいい」
「ああ、それもアリですね!」
レミアの説得でクロ子もダンジョン全域探索プレイを了承する。こうして、3人は改めて攻略を開始した。全てのルートを歩くと決めたために、通路に仕込まれていた罠も容赦なく襲ってくる。
予告なく床に穴が空いたり、大きな岩が転がってきたり、槍が飛び出してきたり、天井が落ちてきたり、大体のトラブルはレミアが魔法で対処してくれた。
「全く、罠に引っかかりすぎだ君は」
「あはは……」
「そこは触るなとか、そこは踏むなを全部やるんだからな。呆れるぜ」
「あはは……」
罠はクロ子も引っかかっている。けれど、明の方が回数が多いと言うだけで戦犯扱いされていた。ただ、それを笑顔で全て受け入れる度量の大きさが彼にはある。事実、引っかかりまくってるので文句は言えないと言う一面もあるのだけれど。
そんな一行がとある部屋に入ったところ、突然ドアが閉まる。嫌な予感を感じた明が視線を天井に向けると、お約束のように大量の水が注がれ始めた。
「水攻めの部屋だーッ!」
「イヤアア! 水イヤァァ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます