第29話 変わり果てていた遺跡内部

「またこうなるんですのーッ!」


 シルヴィラはお約束の捨て台詞を残して空の彼方に消えていく。こうして、突然始まった魔女バトルは幕を下ろしたのだった。

 レミアは彼女が飛び去った方角を見届けながら、指を顎に乗せる。


「あれは明らかに異常な成長具合だった。彼女に一体何が……?」


 バトルには勝ったものの、シルヴィラが以前より見違えるほどに強くなっていた事にレミアは不安を覚える。それは、力と引き換えにに何か大事なものを失っていると感じ取ったからだ。

 シルヴィラを弾き飛ばした方角に目をやりながら、彼女は独りごちる。


「何か取り返しのつかない事になっていないといいんだが……」


 とにかく、これで邪魔者もいなくなったので3人は合流。一行は改めて遺跡に向かう。入口に続く階段を登り、その先にあった入口に足を踏み入れた。

 遺跡の室内を見た明は、その内部構造や室内の装飾などに好奇心を爆発させる。


「大昔に作られたものなのに、中はすごいしっかりしてる」

「魔法でコーティングしているんだ。素材の時間の流れが違う」

「道理で……」


 遺跡の内部は天井が高く、魔法術式がデザイン化されて刻み込まれている。その効果は分からなかったものの、魔界と言うひとつの世界を作るために必要なものだったのだろう。よく見ると、その術式自体が淡い光を放っていたので、まだこの古代の魔法研究所は生きていると言えた。

 ずっと天井を見ている明に、クロ子のツッコミが入る。


「いつまでぼうっとしてるんだ。前を見ろ前を」

「えっ?」


 明が視線を戻すと、レミアがスタスタと部屋の奥に向かって歩き始めていた。置いていかれまいと彼は走る。


「あ、待って先生」

「ったく。ぼーっとしてんじゃねーよ」


 すぐに先行するレミアに追いついた一行は、部屋の突き当りに設置されていた転移魔法陣の上に乗る。移動先は地下の部屋。その先の光景を目にした一行は目を丸くする。何故ならそこがダンジョンになっていたからだ。

 これには、遺跡の全てを知り尽くしてるはずのレミアですら呆然としている。


「前に来た時はこんな事にはなってなかったぞ……」

「え? そうなの?」

「いつの間に作り変えられてしまったんだ?」


 この想定外の展開に面食らった一行は、急遽作戦会議を開いた。


「この先にゲートがあるはずだ。危険も多いだろうが進むしかない」

「中に魔物が潜んでいたりは? 待ち伏せされてるかも」

「何ビビってんだよ。どんなピンチが来ようがこっちにはレミア様がいるんだぞ。何も問題ないに決まってんだろ」


 クロ子は主人の決定に盲目的に従う。それは当然の反応と言えた。こうして話し合いも終わり、多数決のルールに従ってレミアは宣言する。


「じゃあ、行くぞ」

「まぁ拒否権がないのは分かってたよ」


 こうして、急遽遺跡の地下に広がる迷宮の攻略イベントが始まった。別れ道があれば普通は悩むところなのに、大魔女は両方の道を確認しただけですぐに決断して進んでいく。

 その即断ぶりに、明は若干の不安を覚えた。


「ちょ、本当にこの道なんですか?」

「問題ない。ゲートの反応から逆算している」

「流石はレミア様!」


 こうなってはクロ子の反応は当てにならない。明も大魔女が断言したのでそれに従う事にした。ダンジョンと言えば待ち伏せモンスターがお約束だけど、全く出現する気配がない。それはそれで不気味なので、彼はキョロキョロと顔を動かして周囲を警戒しながら慎重に進んでいく。

 と、ここで明は床に設置されていた何かしらのスイッチを踏み抜いてしまった。


「うわ!」


 すると、お約束の槍が壁から飛び出すトラップ発動。本来なら全員が串刺しになるところだったものの、一瞬で危機を察知したレミアが防御魔法を展開して槍の方を破壊。九死に一生を得る。

 罪悪感に苛まれた彼は、すぐに謝った。


「ごめん」

「いや、ダンジョンに罠はつきものだ。気にするな」

「次からは気をつけるから……」


 凹む明は、レミアに許されてなお意気消沈する。場が重くなったところでクロ子が振り返って、ニンマリと笑みを浮かべた。


「罠に掛かるとか明らしくていいじゃんか」

「それ、どう言う顔していか分かんないんだけど」

「あはは。笑っとけって事だ」


 脳天気なクロ子の反応に明の心は軽くなる。こうして3人のテンションも元に戻った。その後もダンジョンに仕込まれた罠は侵入者の邪魔をし続ける。一番多かったのは強制転移の罠だ。

 床には一切の違いはなく、あまりに自然に発動するため時にはレミアですら引っかかった。


「あれ? ここさっきも通った気がする」

「気がするんじゃない。本当に戻ったんだよ」

「もしかして永遠に辿り着けないとか?」

「それはない。念の為に感知魔法の精度を上げておこう」


 今までレミアが罠にかからなかったのは彼女の魔法の効果だったようだ。それでも判別出来ない罠がある事に明は戦慄する。

 クロ子もたまに罠にかかるものの、その反射神経といざと言う時の猫変化でピンチを次々に脱していた。


「クロ子、本当にこのダンジョン初めてなの? 罠の避け方とかすごいんだけど」

「猫は気配が読めんだよ」

「猫は液体とも言うもんね」


 2人がそう言って笑い合ってると、先頭のレミアが杖を出して前方向けてかざす。


「オールサーチ!」


 その呪文は罠などを見つけ出すものの強化版。これを使ったと言う事は、目的地が近いと言う事なのだろう。レミアはその魔法に手応えを感じ、突然駆け出した。ついてきた2人も釣られて走り出す。


「この先にゲートがあるんですかーっ!」

「その通りだ。見えてきた」


 明の目に映ったそれは、空中に浮かぶ大きな輪っかと、その内部に満たされたSF映画でよく見るワームホールみたいな平べったい空間。その中に入ればきっと魔界に行けるのだろう。

 先行するレミアが躊躇なく飛び込んでいったので、明達もすぐに後に続いた。


「レミア様ーっ!」

「待ってろ魔界ーッ」


 3人は矢継早にゲートに飛び込み、一瞬の内にその向こう側に全員が吐き出される。本来ならそれで魔界に到着するはずだったものの、彼らの目に映ったのは遺跡の正面の景色。この結果に3人は困惑する。

 そう、あの場所にあったゲート自体が巧妙に作られたフェイクだったのだ。


「振り出しに戻った?」

「やはり一筋縄では行かないようだな」

「レミア様! もう一度行きましょう!」


 こうして、3人は遺跡の地下ダンジョン攻略をしなければけいなくなった。正しいルートを見つければ間違いなく魔界に行けるとレミアは闘志を燃やす。

 明もまた、ここまで来たら後には引けないと改めて気合を入れ直すのだった。

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