第28話 シルヴィラ再び

「これが大地の魔法、土龍だ。ちなみの虎の狩りの成功率は10%だぞ」

「流石レミア様!」

「虎の位置、分かってたんすか?」

「気配は消しても意識は消せない。私は心が読めるからね」


 種明かしを聞いて明も納得する。厄介な敵も倒した事で道が開けてきた。彼が予想した通り、それから3分も歩いたところで森の中にあるには不釣り合いな人工建造物が見えてきた。


「アレが遺跡?」

「そうだ。辿り着いたな」

「やっとかぁ。長かったぁ」

「これからが本番なのにもうバテてんじゃねえよ」


 クロ子のツッコミに対して、明は返せる精神的余裕はなかった。ここに来るまでにかなり疲弊してた彼は、遺跡に到着したら少しは休めるだろうと期待する。

 やがて周囲から木々が見られなくなり、開けた場所が現れる。どう言う訳か、遺跡の周りには大きな植物が生えないようだ。遺跡を中心にぽっかり開いた周辺の光景は、まるで何かの爆心地のようにも感じられる。


「すごい……」

「ここが遺跡だ。あの中にゲートがある」

「明ぁ、ビビってんじゃねーぞ」


 目の前に現れた遺跡は古代の神殿のような荘厳さがあり、地球で言うところの砂漠の中に残された階段ピラミッド状のジッグラトっぽい造形をしていた。森の中にあると言う点ではアンコールワット的な雰囲気も感じられる。

 底辺はざっと見で60メートル以上あり、高さも20メートルはあるだろうか。きっとこの周辺にも街があったと思われるものの、それらがあった気配は何ひとつ見当たらない。神殿だけが取り残されている光景は、まるでゲームのイベント用に配置されたようにすら見えてしまう。


「何でこの遺跡は魔界と繋がってんすか?」

「師匠が魔界を作ったのがここだからな。あの遺跡は魔法の研究施設だったんだよ」

「だから周りに他の建物がないって事?」

「研究は秘密裏に行われたからな。反対勢力もあったから、邪魔されないために隠れて作業は行われていたんだ」


 レミアはマジ顔で遺跡を眺めている。きっと色々と思うところがあるのだろう。思い出話も済んだところで、3人は改めて遺跡へと向かう。入口に繋がる正面の階段に近付いたところで、突然前方の地面に魔法陣が浮かび上がった。

 魔法陣を通じて誰かが転移してくる。何かを察したレミアは、背後の2人に止まるようにジェスチャーをする。その雰囲気からただならぬ気配を感じた明達は、黙って指示に従った。


「フフフ……。お久しぶりですわね」

「シルヴィラ! 何のつもりだ?」

「決まってるじゃない。あなたを倒して私が一番って事を証明するのですわ!」


 魔法陣から出現したのはレミアをライバル視している魔女のシルヴィラだった。彼女がどうやってレミアの目的地を知ったのかは分からなかったものの、とにかくまた勝負をふっかけてきたのだ。

 彼女は以前とは違うトゲトゲの杖を握っている。何かしらの対策をしてきているようだ。こころなしか、その顔も以前より執念がにじみ出ているように見える。顔色が悪くなり、目つきも鋭い。何日も徹夜をしたのだろうか。


 勝負を挑まれたレミアは軽くため息を吐き出すと、通せんぼをしているやる気満々の魔女に向き合う。


「それはまた後にしないか。私達は急いでいるんだ」

「だまらっしゃい!」


 シルヴィラは無詠唱でレミアの真下に雷を落とす。レミアも一瞬で防御結界を展開、雷は無効化された。その結果を確認したシルヴィラは、すぐに杖をかざして次の攻撃へと移る。トゲトゲの杖が森の魔素を吸収し、高密度エネルギー弾を放った。

 その魔法弾はレミアの防御結界のフィールドを呆気なく破壊する。レミアは杖を使ってその軌道をずらして直撃を防いだ。軌道を外れたエネルギー弾は森の中に飛んでいき、そこで大爆発を起こす。


 発生した爆炎を目にした明は、その威力に顔を青ざめさせた。


「うわっ!」

「なんちゅー威力だよ。あいつ、マジで殺しにきてんじゃねーか」


 クロ子もその威力にビビっている。それはそうだろう。着弾した周囲の木々は軒並み吹っ飛び、地面にも大きな穴を開けてしまったのだから。

 そんな状況で、レミアはシルヴィラの顔色の悪さの方を気にしていた。


「シルヴィラ、あなたいつから寝てないの?」

「いつからかしらね? 覚えていませんわ」

「寝不足は肌の大敵だ。魔女だからっていつまでも魔法では誤魔化せない。それに食事も偏っているだろう。そんな生活を続けていたら……」

「構いませんわよ。あなたを倒せるのなら悪魔にだって命を売り飛ばしますわ」


 シルヴィラの目が狂気に歪んでいる。悪魔に魂を売ったと言う表現も、あながち比喩ではないのだろう。彼女の体から漏れ出てくるオーラから魔素成分をレミアは感じ取ったからだ。


「あなた、一体いつから……」

「何を感じたか分かりませんけど、今の私は今までの私じゃございませんでしてよッ!」


 シルヴィラはトゲトゲ杖をレミアにかざす。杖はまたしても森の魔素を大量に取り込み、今度は濃度の高い魔法生物を作り出していく。杖からぬるんと生み出された胴体の長い悪霊のようなオレンジ色のそれは、クネクネと蛇行しながらレミアに迫った。

 悪霊の頭部の口が大きくパカリと開き、大魔女を飲み込もうとする。この状況ですら、レミアは全く動じない。


「興味深いな、これは」

「あなたを食らう悪霊ですわぁーッ!」

「レミア様ーッ!」


 主人のピンチにクロ子が絶叫する。しかし、隣で同じ光景を見ていた明は、このくらいレミアは簡単に対処するだろうと踏んでいた。何故なら、その状況で彼女が全く平然としていたからだ。

 ――そして、その想定通りの結果になる。


「魔素分解」


 そのたった一言で、魔素で作られた人工悪霊は霧散していった。この結果にシルヴィラの目が点になる。


「そんな魔法、聞いた事がないですわ……」

「ああ、今思いついたからな。実験に付き合ってくれて感謝する」

「ムキーッ! あなた天才にもほどがありますわッ!」


 悔しがるシルヴィラはトゲ杖を地面に強く突き立てる。まだ何か奥の手があるらしい。そして、強い念を杖に注ぎ始める。


「こうなってしまっては、もう最後の手段ですわ……」


 トゲ杖は大地を通じてこの地の魔素を大量に吸収し始める。それは魔法の使役者にも相当の負担を強いるものらしく、シルヴィラの顔色がどんどん悪くなっていった。

 彼女の衰弱っぷりを目にしたレミアは、自身の杖を具現化させると同じように大地に強く突き立てる。


「土龍エクストラ!」

「な、なんですのォォォ!」


 レミアの魔法によってシルヴィラの足元の土が盛り上がり、そのまま彼女を上空に弾き飛ばしていく。空中に放り出されたのを確認したところで、更に風の魔法を使ってより遠くに飛ばしたのだった。

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