大魔女レミアの失敗召喚 ～僕は魔王の代わりに召喚されたの？！～

第12話 雑魚と言う名の強敵

　警護対象がピンチになっているのに、女性陣は全く動く気配がない。それどころか、クロ子に至っては無様に逃げ惑う少年を馬鹿にすらしていた。

「明ー、そいつ雑魚だぞー！　サクッと倒せ！」

「無茶言うなーっ！　こんなん倒せるかーっ！」

「仕方ないな……」

　追いかけっこを見るのにも飽きたのか、レミアはおもむろに右手を上げた。すると、今度は明の目前に雷が落ちる。

　巨大な音と共に行く手を阻んだ電撃に、顔を青ざめさせた彼は絶叫した。

「ひいいっ！」

　一歩間違えば黒焦げになっていたと感じた明は、すぐに魔女がいる方向に体を動かす。

「こ、殺す気かっ！」

「カエルを倒さないと真上に落とすよ。さあ、逃げるのは終わりだ」

「いやでも剣は捨てちゃたし、武器が……」

「剣は君の目の前にあるだろう？　拾って反撃だよ」

　レミアの言う通り、さっき放り投げたはずの剣が明の目の前に突き刺さっている。きっと彼女の魔法でその場に転移されたのだろう。

　このまま動かないでいると色んな意味で命が危ない。覚悟を決めた彼は、その剣を引き抜くと迫りくるカエルに向き合った。

「クロ子！　本当にコイツは雑魚なんだよな？」

「ああ、お前の実力でも倒せるぞ！」

「その言葉、信じたからなっ！」

　剣を構えた明は、カエルをにらみつけながら攻撃に備えた。さっきまで無様に逃げ回っていたのもあって、カエルは目の前の人間を雑魚認定。剣を持っていても、その闘争本能はもう揺らがなかった。

　捕食のための長い舌が明に向かって伸びる。その攻撃をしっかり見極めた彼は、剣でそれを見事に弾き返した。

「ヨシ！」

「まだ来るぞ！　油断すんな」

「えっ？　うわっ！」

　一撃を弾いたと言っても、それで舌を切り裂いた訳ではない。カエルは厄介な剣を取り除こうと舌攻撃を続ける。何度も何度もしつこく剣を狙われるものの、明はそれらを全て弾き返していた。ただ、ダメージは与えていないため、カエルはピンピンしている。逆に、彼の体力は剣を振るう度にどんどん削られていくばかり。

　そんなバトルを見ていたクロ子は、この状況にいらついたのか大声でアドバイスを飛ばす。

「そんなんじゃ食われるぞ！　もっと頭を使えよ！」

「無茶言うな、これで精一杯なん……あっ！」

　返事に気を取られたのか、この時の舌攻撃で明は呆気なく剣を弾き飛ばされてしまった。一瞬で無防備になった彼にカエルの舌が迫る。攻撃手段を失った明は、恐怖で反射的にしゃがみ込んだ。

「うわああああ！」

「たく、仕方ない」

　明が長い舌に巻き取られたその時、レミアの放った雷魔法がカエルを黒焦げにする。こうして、大魔女の一撃であっさりと戦闘は終了。彼は九死に一生を得た。

「この程度の相手に勝てないんじゃ先はないぞ。また街に戻るか？」

「ま、守ってくれるんじゃ……？」

「ああ、守るぞ。だが、旅ってのはトラブルがつきものだ。アクシデントが起きて１人で放り出されたら、果たして君は生き延びられるかな？」

「そ、それは……」

　レミアの厳しい視線に射抜かれた明は沈黙する。場の空気が重くなり、大魔女は深くため息を吐き出した。

「いいか、戦闘は経験だ。さっきみたいに必ずフォローするから、まずは経験を積むんだ。大丈夫、君なら出来る」

「先生……」

　レミアの優しい励ましの言葉に、明は顔を上げる。慈愛に満ちた大魔女の微笑みを目にした明は勇気を奮い立たすと、弾き飛ばされた剣を拾いに行った。

　その様子を見て、彼がすっかりやる気を取り戻したと判断したレミアは、ニッコリと口角を上げる。

「じゃあ、修行の再開だな」

「えっ？」

　その後は、１０分も歩けば巨大原生生物が現れるようになる。明の前に姿を見せたのは巨大カエルばかりではなく、巨大ナメクジや巨大カタツムリ、巨大ダンゴムシなんてのも。

　そのどれも全長が３メートル以上あり、出現する度に彼は逃げ出していた。

「でかいって！　怖いって！」

「明！　逃げんじゃねー！」

「クロ子は黙ってろーっ！」

　これらの巨大生物は、時には同時に２体以上現れる。大抵は人間に興味のない個体だったものの、中にはさっきのカエルみたいに明を餌認定して捕食しようとするヤバいのも現れた。彼はそれらからの執拗な攻撃を、芸術的なまでの危機察知能力で避けていく。

　勿論、逃げられればヨシと言う教育方針ではないので、逃亡する度にレミアからの電撃が落ちていた。当たらないように調整されてはいるものの、鼻の頭や髪の毛の先くらいは軽く焦げるほどの直前に落とされるので、その都度明は方向展開して立ち向かう羽目になる。

「もうヤケクソだー！　タアァァ！」

　レミアは全く助言をしないため、明は経験から何かを掴んでいくしかない。何度も何度も戦わされていく内に、流石の彼もそれぞれの生物の特性が段々と分かるようになっていった。

　逃げて攻撃を避けられると言う事は、立ち向かっても攻撃を見切れると言う事。そこから、攻撃を避けて懐に入り込む流れを何度も試行錯誤していく。

「ここからのー……こうだっ！」

「バッカ！　早い！」

　タイミングがズレてモンスターからのダイレクトアタックを食らう事もしょっちゅうで、その度に明は傷らだけになっていく。攻撃を受けて倒れて動かなくなったらクロ子が素早く回収。レミアがその場で回復させる。

「避けられんなら攻撃だって出来んだろが。ちゃんとタイミング図（はか）れよ」

「こっちは必死なんだよ」

「落ち着いて動けって言ってんだ。焦んな。もっと自信を持て」

　レミアが放任なのもあり、戦闘のアドバイスはもっぱらクロ子の担当になる。彼女は明のピンチ時に巨大ナメクジをサクッと倒してみせていたため、彼もその忠告を渋々受け入れていた。

「いいか。アイツらにも弱点はある。そこを狙えばオレの爪でだって倒せるんだ。まずは見極めろ。逃げながら見極めてそこを突け。コツを掴めば楽勝だぞ」

「わ、分かったよ」

　クロ子のアドバイスもまた、そこまで具体的なものではない。なので、弱点がどこかだとか、どのタイミングでどう言う攻撃が有効かなどの情報は、自ら試して掴んでいくしかなかった。

　それでも、出来ると言われて自信を持った明は命懸けで弱点を探り、どう攻撃すれば有効なのかを必死に試していく。