第2話 春から新緑の季節
入学式が終わった。
入場の時、ひとりぼっちだったボクに駆け寄り手をつなぎ、あっという間に去っていった
あの6年生。
すこしだけまじまじと見つめた彼女の横顔がずっとちらつく。
入学式の後は教室に戻り担任の先生の話を聞き、すぐに解散、下校となった。
翌日からはもうひとりで登校だ。といってもこの学校では集団登校。
班ごとにみんなで登校する。ボクが住んでいるのは大きなマンションだから
このマンションの小学生たちで集団登校となる。集合場所はマンション前の広場。
登校初日、ボクは姉のまいかに連れられて集合場所までやってきた。
「忘れ物ないよね、家に戻ったりできないからね」
まいかは友達と喋りたいのに、ボクの世話を押し付けられて少しムッとしている。
ママは仕事があるから、半分スーツに着替えた格好で玄関先まで見送ってくれた
「はーい、元気に勉強してくるんだよーー」
と明るく声をかけてくれた。
いつもより優しいかも。
「やった、うちら一番にそろった。出発するよ」
まいかが嬉しそうに言う。マンションから小学校に通う子は多いので、
この中でもいくつかの班にわかれていて、全員集合次第、出発となるのだ。
さ、ボクの初めての登校。
学校まではボクが歩いても5,6分。ほどよい距離だ。
通学路に車の多い通りもないし安全だ。
それでもすこしでも歩道をはみ出ると。
「こら、そこ、歩道を歩いてください」
と、6年生の班長に怒られる。
姉のまいかはボクの隣で歩いてはいるが、後ろの同級生とのおしゃべりに夢中だ。
ボクは歩道からはみ出さないように、早すぎも遅すぎもしないように
ただ黙って歩いていた。
そして、学校の校門が見えてきた。
校門前では校長先生が「おはよー」ってみんなに声をかけていた。
ボクのおばあちゃんくらいのこの校長先生、昨日は胸元に大きなお花のついた
かちんとちた服を着ていたけど、今日はジャージだ。
「昨日と随分違う格好なだあ」と思いながら校長先生を眺めていたら、
校門の向こうの方から、登校してくる小学生の列が見えてきた。
先頭にいたのは、昨日のあの6年だ。
昨日は横顔しか見られなかったけど、今日は正面からしっかり見えた。
背が高く、手足が長く、背筋をピンと伸ばして歩き、長い黒髪は昨日と同じく二つに結んでいた。
「あら、あすかちゃん、班長さんね・よろしくね」
と校長先生が彼女に声をかけた。
そうか、あすかっていうんだ。あの子。
校門を入るとすぐに下駄箱のならんだ大きな入り口がある。
そこで、上履きに履き替える。
昨日、場所は確認したはずなのに、1年1組の下駄箱、どこだ。
登校してきた大勢の小学生たちに押し流されながら、ボクは自分の下駄箱を探していた。
ここまで一緒に来たはずの姉のまいかはとっくいなくなっていた。
「ボクのことよろしくね、ってママに言われたのに。あとで言いつけてやる」
下駄箱がいつからなくて焦るあまり、まいかに心の中で文句を言った。
ほんとにそんなことは言えない。だって彼女は怖いんだもん。
「あれ、昨日のぼっちくん、どうした、迷子?」
声をかけられて振り向くと、そこにはあすかが笑いながら立っていた。
「1組の下駄箱が見つからない」
ボクが答え終わる間もなく、あすかがボクの手を引っ張り、
大きな字で「1ねん1くみ」と書かれた下駄箱に連れて行ってくれた。
「1組、ここだよ。あんたの上履き、どれ?」
ボクは「わたなべけいた」と書かれた下駄箱から上履きを取り出しすのこの上で履き替えた」
その間、あすかはずっと待っていてくれた。
「けいた、あんた何月生まれ?」
いきなり呼び捨てにされて、驚いたが
「5月生まれ」
さっさと答えないと申し訳ないような気分になった。
「そっか、私は9月。運動会では同じ組になるね」
と言いったと思うと。
「もう場所わかったよね」
と手を振りながら走り去っていった。
「運動会、同じ組?」
何のことを言っているのかよくわからず、ボクは教室へと向かった。
教室に入ると黒板に
「これからのぎょうじ」
と書かれており、その何番目かに
「うんどうかい」という文字があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます