第42話 かつての友人
誠也と別れ、帰宅した。
もうこれで全てが終わった、と真夜は自室のべッドで横になった。
あの事件のことも、これからは次第に風化していくだろう。
幸い、あの事件について真夜のことは公にならなかった。
真夜は事件を起こした当事者ではなく、それを制止した者だったからだ。真夜の個人情報は守られたのである。
「これで、よかったんだよね……」
真夜はインターネットでも見ようかとちらりとスマートフォンの画面を見た。
ふと真夜は思いついた。機種が変わった為に、以前登録していたアドレスは全て消えてしまった。
しかし、そういえばある人物の電話番号はかつて使っていた手帳に残っているなと。
あることを思いついて、真夜はスマートフォンを操作してその電話番号を打ち込んだ。
とぅるるる……という音声が鳴り響き、ぴ、と音がした。
「もしもし?」
「あ、惟子? 私だよ。真夜だよ」
「真夜? 久しぶりだね」
数か月ぶりに聞いた友人の声。
一年生の頃は毎日学校で顔を合わせていたはずの相手との久しぶりの通話だ。以前は毎日会っていたはずなのに、久しぶりに声を聞くとなんだか恥ずかしい。
「真夜にメールやLINE送ろうとしたんだけど、なぜか送信できなくなってさ。電話も繋がらなかった」
「色々あってお母さんに携帯止められちゃったんだ。前のやつ解約されちゃって、それで新しいスマホになったの。前に使ってたやつと違う機種になっちゃったけどね」
別れてから久しぶりの会話だというのに、意外と普通に会話できるものだ。
「元気だった? そっちの学校どう?」
「うん、こっちの学校でも転校してすぐにテニス部入ったんだ。新しい友達もたくさんできたし、先輩とも仲良くなった。テニス部経験者ってことで練習に参加したら実力を認められてすぐにレギュラーにしてもらえた。今度また試合あるんだよ」
「そうなんだ……よかったね」
惟子はかつての学校で所属していたテニス部での力を生かして転校先の学校ではうまくやっていたのだ。
自分は惟子が転校した後は散々だったが、その反対に惟子は新しい学校生活を楽しんでいた。
そのことにちょっとだけ嫉妬の気持ちがあった。自分は醜いなと思った。
「惟子、実はね……」
真夜は惟子に話し始めた。一年生のことについて触れた。
惟子がスローガンの絵を壊した罪を自分がかぶり、クラスでは信頼されなくなった。
その為にあれからうまくいかなくなった。今頃こんな話をしても意味はないとわかっている。
もう惟子は違う学校にいるのだから。しかし、真夜はどうしても話したかった。
全てを話し終えると、惟子は少し黙り込んだ。
「そんなことになってたんだ……。ごめんね真夜、私のせいで」
「ううん。もう気にしてないんだ。なんとなく話しちゃったけど、ごめんね嫌な気持ちにさせちゃって」
「そんなことないよ。だってあれは私が悪かったもん」
惟子からその言葉を聞いて、真夜は少しだけ心の中のモヤモヤがとれた気がした。
あのことを惟子が知らないままだったのはなんだか理不尽だった気持ちもあったのかもしれない。
ようやく惟子に話すことができた。そして惟子もまたそれを知ることができた。
それだけでも全然違う。惟子のその言葉を聞いて安心したかったのかもしれない。
その後、いくつか話をして真夜はこう言った。
「惟子、頑張ってね。そっちの学校楽しいんでしょ? これからもテニス部で活躍してね」
「うん。真夜も頑張って」
「じゃあね」
そう言って通話は終わった。
惟子と真夜はもう別々で生きてるのだと電話で改めて実感した。
惟子は転校先でうまくやっている。
そして真夜もまたここで生きている。去る者は日々に疎しともいう。
きっとこれからもそうなっていくだろう。
そして真夜はもう二度と惟子に電話することはなかった。
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