第35話 絶対に見失わない
誠也の身体はオイルに濡れていたのだから、午後から天気がよくなって道が乾いていたのは幸いだ。もしも雨が降っていたら地面が濡れていて液体の色がわからなくなってしまう
おかげで誠也の身体についていたであろうオイルがタイヤの跡となって道に垂れてそこだけが色が違う。それをたどっていくしかない。
「誠也はこっちに!」
誠也はすでに県営体育会敷地内は出て行き、真夜は大通りの歩道に垂れていた僅かなオイルの染みをたどっていった。
しかし、それはやはり途中で途切れている。もう滴るオイルが全て落ちたのだろう。
真夜は誠也を見失った
「誠也、どこ!? どこへ行ったの!?」
なんてことだろう、誠也の足跡のような道しるべがもうないのだ。
あのまま誠也がどこかの建物に入ったりすれば、身体についたあのオイルで騒ぎがさらに大きくなるだけだろう。そして真夜自身にもオイルがついている。
今ここで自分がどこかの建物へ入ってもオイルの臭いで騒ぎとなる。
真夜まで放火に関わったのではないかと思われるのだ。
そうなると商業施設といったどこかの建物に誠也が入っても危険だが、真夜も同じくそうだ。
しかし、そうなるならば騒ぎになるからと誠也もどこかの建物へ入ることはできないはずだ。誠也は外にいるのではと。
「どうしよう……」
自分は誠也のスマートフォンの番号など知らない。自分がスマホを持っていなかったのだからアドレス交換なんてしていない。だから直接電話をかけるということはできないのだ。
そうなると、こうして姿を見失えばもう探すことは困難となる。
誠也の家がどこかも知らないし、誠也がどこへ行ったかだなんてわからない。
これまでは誠也と会う場所が決まっていたから、誠也とは自然に会うことができたのだ。
これまでのことを思い返すと、ある考えが浮かんだ。
誠也が行きそうな場所に心当たりがあった。誠也がいつも行きそうな彼のお気に入りの場所。
「まさか……」
真夜は行く方向を決めて、そこへ向かって力いっぱい自転車をこぐ。
誠也の行きそうな場所はあそこかもしれない。
絶対にそこにいるかは確信が持てないが、どうかそこにいてくれ、と強く願った。
今の真夜が行ける場所はそこしかない。
真夜は心に強く祈りながら、その場所へと必死で自転車で町中を駆け抜けた。
そう、あの場所だ。
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