第7話 学校が辛い

 葬儀の翌日の火曜日。学校へ行く準備をした。


 父が亡くなったのが土曜日であり、日曜日が通夜だったのでどうしても葬式当日の月曜日は学校を休まねばならなかった。


 なので本来は昨日は平日で学校へ行く日だったのを父親の葬儀ということで欠席だったのである。 


 葬儀も終わったのだから、今日からは普段通りだ。


 父が亡くなって初めての登校、しっかりせねばならない。そう決めて家を出た。



 教室に入ると、クラスメイト達は朝のホームルーム前に必死で折り紙で孔雀の羽を作る作業をしていた。


 先週決まったことである。期末試験が終わったら休み時間も全て返上で絵を完成させるということだ。もう残り時間がないのだ。終業式の一週間前までに壊れた分を休み時間と昼休みを使ってでも作業をすることになったので、クラスメイト達も必死だ。


 クラスには真夜がやったと思われてるのだ。ならば自分も必死で作業をやらねばならない。真夜は折り紙を持ってきてすぐに孔雀の羽を作りにかかった。


 真夜が席に着くと、机で折り紙を折っている数名の女子が真夜をちらりと見ると、あまりいい顔をせず、クラスメイトは愚痴った。


「自分が壊したくせに、のうのうと学校休んじゃってさ」


「だよね。本来なら壊した人がちゃんと率先してやるべきだよね。自分は休んで私達にばっかりやらせてさ」

 そんな声が聞こえてきた。


「やめなよ。大島さんは家族のお葬式だから仕方なく休んだだけって先生言ってたよ」


「でもさ、それならせめて家で折り紙持って帰ってやるってこともできたんじゃないの? お葬式っていったって、手が空く時間くらいあるでしょ。自分が壊したんだから責任もってそのくらいやってきてって思うよね」


「それはそうだけど……」


 真夜は家族の葬儀で休んでいたのだ。ずる休みといったものではない。


真夜は友人が少なく、惟子以外にあまり仲が良い者はクラスにいなかった。



 そんなわけで真夜と親しいわけでもないクラスメイトからすればよその家庭の葬儀などそんな事情はどうでもいいのだ。


 他人の家族など、しょせんは他人でしかない。

 他人の親が死んだからといっても特別な感情はない。


 仲が良いわけでもないただのクラスメイトの親となればなおさらだ。

 同情する義理もないのだ


「そもそも大島さんが壊さなければよかったわけじゃん。そうすれば私達だって、大島さんが休んだことは仕方ないって思うよ。でも壊した人が悪いのに、なんで私達までこんなことしなきゃいけないの? 私達はこれまで必死で作ってたのに、あとちょっとで完成ってところでそれを壊されて台無しにされたんでしょ。このくわい言われても仕方ないよ。現に大島さんが休んでる間に、私たちが必死でやる羽目になったのに」


 真夜にはその愚痴がしっかりと聞こえてしまっていた。


タイミング悪く、父の死別と葬儀が重なったので、真夜は学校に来れなかった。


真夜が不在の間、クラスメイト達はその間もせっせと作業をしていたのだから不満があるのだ


真夜にとっては仕方なくても、クラスメイトはそうは思わない。みんな真夜が悪いと思っているからなのだ。


あいにく今日も惟子はまだ学校に来ていない。肺炎が重いとのことだ。


期末試験も受けることができず、次の週になってもまだ来れないのだった





昼休みも休み時間もひたすら羽の折り紙を作る作業になり、五時限目の総合授業の時間は各クラス全てが絵の制作の仕上げに入る。


他のクラスもこの時間は同じ作業をしているが、真夜のクラスは遅れ気味である。


元々完成間近だったものが壊れたのだから、それは作業を急がねばならない。


「自分の分の折り紙が全部終わった人は他の班の人の手伝いをすること。手が空いたものは他の班の分も手伝うように」

教師がそう説明した。


 真夜は自分に配られた5枚の折り紙を全て羽の形に折る作業が終わった。


このまま何もしないでおくとまた「壊した本人が率先してやれ」という風に見られてしまうのではないかという恐怖になり、周囲を見渡してまだ折り紙作業が終わってない班の手伝いをしようとした。


 真夜に疑いがかかってるのだ。少しでも真夜が手伝いをして、自分から助けなければならない。そうすれば真夜へのイメージが少しはぬぐえるかもしれないと。


 真夜の席から離れた班の者達が何やらしゃべりながらやっていて、まだ枚数分の羽を折る作業が残っていたようで、真夜は話しかけた。


「何か手伝うことないかな。私、今手が空いてるの」


 真夜が話しかけると、その班の者達は話す手を一旦止めた。


 いきなり割って入られ、邪魔されたかのように、班の女子たちは一瞬疎ましそうな視線を向けた


「ここ、今手が足りてるんだ。まだ私達でなんとかなるから。ここはいいから、他の班とか忙しい人の手伝いをしてあげて」

 ここには必要ないと断られてしまった。


 明らかにまだまだ折り紙の枚数が残っていた忙しそうだったのに


仕方なく別の場所へ行こうと真夜がその班から離れると、別のグループの女子が今の班に話しかけた。


「何か手伝うことない? あたし、あっちの分もう終わったから」


 真夜が今話しかけたその班、そこは手が足りているのでは、と真夜は思うも、反応は違った。


「マジ!? きのちゃん助かるー! ありがと! ここ超忙しくってさ、ちょうど手伝ってほしかったとこ、さっすがきのちゃん気が利くわー」


 先ほどはここは手が足りてると言っていたのに、他の女子が話しかけたら手伝いが欲しいと言ってることに矛盾を感じた


「もう忙しくってさあ。きのちゃん来てくれて嬉しいわ。さっきからあの男子とかしゃべってんならマジ手伝えって感じ。ホント、男子って鈍いわ。女の子が忙しいんだから、ちょっとはお前らも手を貸せって思うよね」


 そう言いながらその班はキャッキャと折り紙の作業に入った。


 真夜はそれを聞いていて辛くなった。

さっき自分が手伝おうかと言った時には必要ないと言っていた。

なのに、他の者が手伝おうというと、それは喜ぶ。


 真夜は自分が必要とされてないのでは、と感じてしまった。

この折り紙の作業は真夜のせいでやることになったのだから、その当事者には手伝ってほしくないという気持ちもあったのかもしれない。


真夜は一人、悲しい気持ちになった。


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